038 スーパー赤ちゃんでちゅ




 フランがオレをようやく床に降ろしてくれた。何故かスーパー赤ちゃんの隣に。くるんと回されて、フランと向き合う格好。なんで。

 まるで容疑者です。

 だって、職務質問するおまわりさんみたいなんだもん!

 迷子扱いなのはスーパー赤ちゃんだけでいいと思う。


「ムイちゃんは黙ってような?」

「はーい!」

「で、そっちのチビだが」

「プルンでちゅ」

「……プルンは、一人で来たのか? 親はどこにいるんだ」


 スーパー赤ちゃんが分かんないって顔をしたので、オレが通訳してあげた。


「ママとパパだよ。えっと、おかあちゃまとおとうちゃま、もアリ。ちちははもあるしー。あっ、はんこうきだと、くそばばあ?」

「お前どこでそんな言葉覚えてくるんだ。母さんが聞いたら泣くぞ」

「くそばばあはリア婆ちゃんがいったんだよ」


 前に「ムイも反抗期になったら、あたしに『クソババア』って言うのかね?」って笑ってたんだけど、あれは言われたい感じだった気がするのだ。リア婆ちゃんって時々、変だから有り得る!


「……意味が分からん。ったく。じゃなくて、プルンだ」

「はいでちゅ!」

「よしよし、これが普通の赤ん坊だ。で、ママとパパはどこだ」


 決して普通の赤ん坊ではないと、たぶんオレだけじゃなくて周りの人も思ったはず。受付の女の人も首を傾げてるし。

 ところで、隣のパブではとうとう根負けした冒険者男からハスちゃんが獲物をゲットしていた。えええ! いつの間に!!


「ママとパパはいないでちゅ。あるじちゃまならいまちゅ」

「あるじ? 主か。で、そいつは子供を見てないでどこをほっつき歩いてるんだ」


 誰か知らないか? とフランが見回すけど、皆一斉に首をぶんぶん横に振った。オレも一緒に振った。コナスもです。可愛いね、コナス。


「迷子か。仕方ない。保護者を捜すぞ」

「でしたら、依頼にしましょうか?」

「いや。あ、ちょうどいいかもしれんな。依頼料はオレが出すから、書類を作ってくれ」

「あら?」

「ギルド見学をしていたところだ。ムイちゃんに依頼を見せてやりたい」

「まあ、それはいいですね。そう言えば、白竜様のところからは、よく先輩に連れられて後輩の方々が見学に来られていましたものね。懐かしいです」

「そんな可愛い言い方で済むか? あいつら、桁違いに変だったろ?」

「ええ。ですから、本物の冒険者はこうだと見せるために連れて来られたみたいですね」

「……だろうよ。おかしなのばっかりだったからな。その点、こいつはまともだ」

「まあ。ふふ。お可愛らしいですものね」


 むふ。

 オレはドヤッと胸を張った。ふふふ、オレはフランも認める「まともな」男なのだ。


「よし、じゃ、依頼書を作ってる間に聞き込みだ」

「ききこみ!」

「プルン、あっちでジュース飲もうか」

「じゅっちゅでちゅ!」


 スーパー赤ちゃんことプルンはキャーと嬉しそうに喜んだ。うむ、可愛い。その可愛いプルンを、フランがスッと抱き上げて抱っこしたんだけど。

 あ、あれ?

 見上げていたら、フランがオレを見て「ついてこい」って感じで頭を動かした。顎クイ? 違う? あ、そうだ、姉ちゃんたちがキャーキャー騒いでた勘違い男子の告白パターン。

 姉ちゃんたちは「顎クイなんて現実にされたら腹パンだよね」って言ってて、ベッドの上で聞いてたオレは涙目になったんだっけ。絶対やらないでおこうって誓ったもん。


 過去を思い出して震えていると、フランはスタスタ歩いて行ってしまってた。オレは慌てて後を追ったんだけど、その時にプルンがこっちを見ていることに気付いた。

 プルン、オレを見て笑った。


「えっ」


 ちくんと胸が痛くなったの、なんでだろ。

 オレ、ドキドキして足がゆっくりになっちゃった。でも、そんなの一切関係ないし、なんだったら繊細なオレにも一切気付かない男ハスちゃんが「あっち」にはいるわけで。

 ハスちゃんてば「あっ、飼い主様が来たぜー! いやっほぅー!」って顔して飛んできた。

 しかもベロベロお顔を舐めるんだもん!


「やーめーてー。ハスちゃん、さっきおにくたべてなかった? おかおがー!」

「おいおい、大丈夫か。お前んとこの犬だったんだな。悪い、強請られて少しやっちまったんだ」

「ぼうけんしゃしゃん……」

「ははは。顔がベタベタじゃねぇか。よし、拭いてやろうな」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 お顔ぐいぐい拭くの止めてもらえませんかね。

 でもさっぱりした。ふう。


 オレが落ち着いてると、フランが来てくれた。呆れた顔してハスちゃんを注意してる。それから、冒険者男に声を掛けたんだけど。


「よう、タック。うちのが悪かったな。ところで昼間っから飲んでるのか?」

「仕事明けなんだ、いいだろ」

「そうか。じゃ、頼めないか」

「どうした?」

「あそこに座らせてる獣人族の赤子が迷子らしい。今から依頼を受けて捜すが、お前も一緒だと有り難い」

「人捜しぐらい、お前だけで問題ないだろ?」

「それが、あっちも赤ちゃん、こっちも赤ちゃんがいてな」


 分かるだろ? と目配せしてるけど、オレ目の前にいるからね?

 あと、オレは赤ちゃんじゃないもん!

 それに、依頼はオレも一緒に受けるんだから。つまり、オレも冒険者なのだ!


「ムイちゃんもさがすの! ぼうけんしゃみならいなんだからね!」

「お、おう……。そういうことか」

「な? だから、慈善事業だと思って助けてくれ。今度奢るから」

「おー、分かった分かった」


 というわけで、オレは初依頼を受けることになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る