036 子供用トイレ作成とシャキーン




 このあたりの共有トイレは階段型になった簡単なやつ。板の上に座る形なんだ。板の真ん中には穴が開いてるけど大人向けだから大きい。子供は板の上によじ登って和式便所みたいにしゃがむんだけど穴が大きすぎて落ちることもあるんだって。こわっ。

 リア婆ちゃんちだと洋風便器だし、小さい子用のおトイレもちゃんとある。


 この簡易トイレを改善しようと、オレの指示によりフランが作ったのはU字型になった板。穴を小さくするための板なのだ。これだと座っても落ちない。

 ついでに小さな足場も作ってもらった。ここに乗って、お座りすればいいんだよ。小さいから、大人は足場が邪魔にならないはず。


「なるほど、これはいいな」

「でしょー!」


 ドヤ!

 オレが胸を張っていると、フランは更に一部を蝶番みたいなので固定し始めた。


「すごいー!」

「ムイちゃんが説明してくれた取っ手付きでもいいけど、子供だと上手く嵌められない可能性があるだろう? だったら片方を固定して、ほら、これなら子供でも上げ下げができる」

「あ、じゃあね。バタンってなったらこわいし、こわれるかもだから、しょうげきをきゅうしゅうするもくざいをつけとこ!」

「……よし。ていうか、すごい発想だな」

「そおぉぉ?」


 ふふん!

 嬉しくて反っていると、後ろに倒れそうになってしまった。慌ててハスちゃんが椅子になってくれます。ルシが教えたんだよ。ハウスも覚えたし、ハスちゃん何気に優秀じゃない?


 そんな感じで完成。

 近所の子供たちが「何してるのー?」って覗いてたから、教えてあげると喜んだ。だけど、んこー、って叫ぶあたりが子供。

 試してやるって、扉開けたまま座ろうとするからフランも呆れて笑ってた。

 でも皆が試してくれて問題なしになったのでオールオッケー。大人も「これで落ちない」と喜んでたよ!



 その時、ちょっと視線を感じた。

 オレはできる男。だから、スッと自然にそっちを見た。でも、その相手はささっと消えてしまった。

 気付かれちゃったのかなと思ったら、フランがもみくちゃになってたところから出てきた。


「ったく、ガキ共ときたら煩いったらないぜ」

「げんきなのはいいんだよ?」

「おー。そうだな。さて、店に戻るか。そろそろできてるかもしれんぞ」

「ほんと!? はやくはやくっ!」


 オレはさっきの視線についてはすっかり忘れて、フランの手を引いてお店に戻った。




 親父さんは「削るだけだったからな」と言いつつ、オレの感謝の言葉と態度に照れまくった。だって、もう出来上がったんだよ? すごくない?

 コナスも手渡されて感動で震えてた。

 しかも!


「わぁ、ちゃんとベルトがある!」

「ぴゃ!」

「ちっちゃくて、かわいい!!」

「ぴゃぅ!」


 鞘は革で作ってくれたみたい。縫い目が細かくてびっくり。


「コナス、シャキーンってやって!」

「ぴゃっ! ぴゃぴゃ!」

「すごい、かっこいい!!」


 ベルトを若干お腹寄りに回してから、右手で持って引き抜き、ポーズを取るコナス。

 超、可愛い。


「あー、通常の位置だと手が届かないのか。短いもんな……」

「ししょー! それは言っちゃダメなの!!」


 フランはハリウッドスターポーズで肩を上げて笑った。HAHAHAって、笑う感じ。そこ、笑うところじゃないんだけど。

 幸いにしてコナスには聞こえてなかったみたい。コナスはとにかく嬉しいみたいで、剣の角度を変えては見入っている。

 シャキーンポーズも堂に入って、さすがオレの仲間。


 うむ。

 これは、もう、冒険しかないんじゃないかなっ?


「ムイちゃん、鼻息荒いが、余計なこと考えてないだろうな?」

「よけいじゃないよ。ムイちゃんは、いまからギルドにいってとうろくするの」

「待て待て待て。まだ三歳のムイちゃんは会員になれない」

「よびえきでも?」

「また、変な言葉を……。誰が教えるんだ。全く。とにかく、まだダメだ。訓練するんだろ?」

「うん」


 しょんぼりしてしまった。尻尾も床を掃いちゃう。

 オレの心以上に尻尾は雄弁なのだ。そうだよね、お前も悲しいよね? 分かる。

 心で話し掛けていると、フランが溜息を吐いて笑った。


「一人芝居してもダメだぞ」

「えっ」

「まあ、見学はしてもいい。連れていってやるから、それで我慢するんだ」

「いいの!? わーい!!」

「ぴゃ!!」

「わぉん!!」


 心の中がダダ漏れだったみたいだけど結果オーライ。

 フラン大好き。

 コナスもハスちゃんも喜びを爆発させた。させてしまったので、親父さんに怒られた。


「人の店で騒ぐんじゃない。それと、話を最後まで聞かんか」

「はい! なんですか、おやじさん!」

「……お前さんが持っている剣と同様、その妖精の剣も刃は研いでいない。だからといって切れないわけじゃない。気をつけて使うんだ。分かったな?」

「はい!」

「ぴゃ!」

「わぉん!」

「あ、ハスちゃんはかんけいないのでだまっててね?」

「わぉん」

「……玩具じゃねえんだ。剣を持ったまま走り回るんじゃない。それだけだ」

「ぴゃ」


 コナスは剣を仕舞って、ぺこっと頭を下げ(?)謝った。うちの子、偉い。

 オレもちゃんと謝るよ。騒いじゃったし。


「おみせでさわいでごめんなさい。これからは、おちついて、こころのなかでよろこびます。あと、コナスにけんをありがとう。ムイちゃんのけんも、つくってくれてありがとうございます!」

「お、おう」

「ムイちゃんがりっぱなぼうけんしゃになったあかつきには、ここのおやじさんのおかげだってせんでんするね!」

「……おう」


 親父さんと見習いの子も、オレの完璧な謝罪とお礼に感心したみたいだった。

 ふふふー。


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