034 満を持して、進まない話
犬にしか見えないのは犬だからです。
よっぽどのことがない限り、普通の獣は獣人族になれません。
オレは魂が元人間だったし、リア婆ちゃんの眷属になったから魔力に恵まれて進化した。かなり幸運だったのだと思う。
ハスちゃんはたぶんずっと犬。ちょっぴり長生きはするけど、犬のままだって。リア婆ちゃんが言ってた。
てことを説明したわけじゃないけど、フランが適当に「ああ、そいつは犬だ」で獣人族説をバッサリ否定したので話は終わっちゃった。
ついでにフランはハスちゃんの頭の上を指差した。
オレも一緒になって手で示す。
「ぴゃ!」
満を持して、コナス登場。
手を挙げてアピールしてます。
でも、親父さんも見習いの子も目を丸くしたまま動きを止めてしまった。
そうだよね、うん。分かる分かる。
ナスだもんね!!
ナスが手を振ったら怖いよねー!!
落ち着いた頃を見計らって、フランが咳払い。
オレもコホンコホンと咳払いしようとして、ココココンッてなった。
「この子、ムイちゃんの、こぶん。ようせいなの。ムイちゃんをまもりたいんだよね~?」
「ぴゃ~」
「おそろいがいいんだもんね~?」
「ぴゃ~!」
ぴょんぴょんとハスちゃんの頭の上で飛び跳ねて、可愛い。
妖精は成長したら魔法をちゃんと使えるようになるらしいから、コナスってば魔法剣士になるんじゃないのかな。かっこい~!!
「なので、この子のけんがほしいの!」
「ぴゃ!」
「わぉん!」
お願いしますと頭を下げたら、コナスもちゃんとお辞儀。ハスちゃんも一緒に。
親父さんは目をカッと開けたままで、数歩後退った。大丈夫?
見習いの子の方が先に正気を取り戻したみたい。ハッとして、慌てて駆け寄ってくる。その勢い、なんだかこわい。
「おっ、おい! その珍妙なのは一体なんだっ?」
オレの前で早口で喋るんだけど……。顔はこっち向いてて視線はハスちゃんの頭上、指先がズレてて、混乱ぶりがよく分かるなー。
オレの方が大人だったね。コナスを見付けた時、オレはもっと冷静だった。ふふん。
「なんだよ、その顔。なんかムカつく~」
「べつにー。それより、ようせいさんにちんみょうなんて、ダメなんだよ?」
「うっ……」
「きずついちゃうかもしれないんだからね。ねー、コナス」
「ぴゃ!」
「ほらぁ」
「あっ、いや、俺は……」
オロオロしだした見習いの子、なんか可愛いな。
オレが微笑ましく見ているとフランがおっきな溜息を吐いた。
「ああ、ややこしい。だから嫌だったんだ。人形用の剣が欲しいって説明すればなんとかなったかもしれないのに」
「フランししょー、うそはダメなんだよ。ちゃんとしたものをつくってもらいたいんだからね」
「分かった分かった。というわけでな、親父。ここにいる妖精の剣を作ってほしいんだ。よーく見てくれよ。手が短いだろう?」
「……手。手? 手っ?」
親父さんは固まってしまった。
フリーズってやつだね。姉ちゃんが「OSの強制アップデートに引っかかってしまって大事な書類が作成できなくなった後輩の尻拭いをしたのよ」と愚痴ってたのを思い出してしまった。
なんでも、そういうのは事前に時間指定をしておくべきだったんだって。おかげで一から書類を作り直したんだそう。
この場合、事前にお手紙なりで教えてあげてたら良かったんだね。うんうん。
……あれ? オレが悪いのかな?
昨日の今日で、フランに付いて来ちゃったし。
「あの、ふっかつしたらおしえてね? ムイちゃんまってるから。ムイちゃんはひとりあそびができるよ。だいじょぶ」
ポンポンと親父さんの太ももを叩いた。肩には手が届かなかったから。
で、オレはさっさと玄関の中にあるお客さん用の椅子によじ登って座った。ハスちゃんもカムカム。もうすっかり躾されたのでお利口に座って……斜め座りだけど、できてる。
コナスはぴょんと飛び跳ねてオレの体に移ると、移動。もしょもしょクライミングすると、いつもの居場所であるベルトのポケットにイン。
「お前はまた自由だなぁ。勝手に寛いで……」
「だって、フランししょー。ムイちゃん、いっぱいあるいてつかれちゃったんだもん」
フランは「あっ」て顔になった。オレが三歳児だって忘れてたっぽい。
「あー、すまん。とりあえず、飲み物を買ってくる。オレク、悪いがムイちゃんを見ててもらえるか?」
「は、はい! 分かりました!」
「あと、親父さんを裏で休ませてくれ。悪いな」
そう言うと出て行ってしまった。
初めての場所に子供を置いていく大人。
アリ?
やっぱりフランも「リア婆ちゃんの子供は全方向でアレ」の法則に入ってる模様。
オレがしっかりしないとダメだね。
だってさ、放心状態の大人と、我に返るのは早かったけどまだまだ見習いの少年しかいないんだよ? なんだかんだ、おかしい。
でもまあ、オレは見た目は幼児だけど心は大人なので!
残されたこの場をしっかりまとめてみせよう。
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