033 お泊まり、待てができない




 リア婆ちゃんはオレに、ちゃんとした主たれ、と言いたいのだ。

 オレはむふんと鼻息荒く宣言した。


「ムイちゃん、コナスにそんけーされる『あるじ』になるね! そういうことだよね、リア婆ちゃん!」

「おや」

「コナスのためにもがんばる! なんかいでもおねがいにいくの!」


 三顧の礼です。

 三国志のマンガは入院先の病院にフルセットで置いてあったので、これぐらいは知ってるのだ!


 それはともかく「リア婆ちゃん」呼びに慣れちゃって、リアママって呼べなかった。恥ずかしい気持ちもホンのちょっぴりあったのかも。次の機会を待つ!



 王都に行くなら夜じゃなくて朝がいいだろうとリア婆ちゃんが言ったので、その日は二人とも泊まっていった。

 ちょっぴり甘えたくて、同じお布団で寝たいなーと枕を持ってお部屋に行ったら、リスト兄ちゃんはツンって顔して迎え入れてくれた。

 フランも一緒にーって言ったのに「兄貴と寝るだと?」と目を剥いて嫌がられてしまった。もしかしてフランもツンデレ属性の人かな。


 リスト兄ちゃんはちゃんとお布団の中ではデレでした。

 オレが眠るまで一生懸命子守歌を歌ってくれたので。

 ちょっぴり音痴なのが面白かった!




 翌日、リア婆ちゃんは残ってるって言うから、オレだけリスト兄ちゃんたちと一緒に王都へ転移した。

 もちろんコナスとハスちゃんも一緒だよ。だってオレたちは冒険者パーティーなんだもん。

 念のためハスちゃんには立派な首輪とリードが付けられてる。タグにはリスト兄ちゃんちの住所と家紋が入ってるのだ。格好良い! 付けてるハスちゃんは、まあ、格好良いとは言い難いんだけど……。


「いーい? せっかくおぼえたんだから、かしこくしてるんだよ?」

「わぉん!」

「んもう、ほんとにわかってる?」

「わぉん!」

「ぴゃっ」


 コナスも「そうだぞ」と言ってるみたい。手が微妙にぐねっと曲がってるのは、もしかして「腰に手を当てて」ってやつかな? ほら、お風呂上がりに牛乳を飲む時の格好ね。

 でも、短い手なので真っ直ぐ立ってるだけにしか見えない。

 ……うん。いいんだ。可愛いから。可愛いって大事。


 オレはコナスをハスちゃんの頭の上に乗せ、リードを持った。


「じゅんびばんたん! フランししょー! まだー?」

「ったく、お子様は待てができないのか」


 転移の部屋から即出てきて、秘書のルソーに「まずはお茶でも」って言われたのを断ってまで急いでるのだ。これ以上、待てない。

 早く早く!


 てことで、ルソーやメイドさんたちのお見送りを受けて、オレたちは馬車に乗って町にお出掛けした。



 フランのオススメ鍛冶屋さんは下町の奥の奥にあった。

 馬車を降りてから結構歩いて疲れちゃうぐらい。オレはまだ三歳なので体力がないからつらいー。ハスちゃんは元気いっぱいで羨ましいな。


「おーい、親父、いるかー?」

「誰か外を見てこい!」

「へい!」


 なんか、イメージ通りで笑っちゃう。いかにもな鍛冶屋さんなんだもん。小汚い感じとか、頑固で煩そうな親父がいるのとか!

 オレが口を両手で押さえてくふくふ笑っていると、見習いさんみたいな子供が出てきて「なにコイツ」って顔で見た。それからフランを見て、ぱっと笑う。


「いらっしゃい、フランさん!」

「おう。邪魔するぞ。また仕事を頼みたくてな。親父さんの手が空いたら呼んでくれ」

「はい! ちょいと待っててください」


 そう言うと急いで奥に戻っていった。で、大声で親父さんに声を掛けてる。ねえ、フランの言ったこと聞いてる? それともこれが普通なのかな。

 オレが様式美について考えていると、舌打ちしながら親父さんが出てきた。


「るっせーな。お前は一体どこの見習いなんだ。おう、フランよ。どうした? 例のモンに何かあったのか」

「いや。問題ない。喜んでいたしな。ほら、コイツだ」


 と言ってオレを見たので、慌てて気を付けの格好。シャキーン。

 オレは三歳だけど、できる男なんだよ。


「ムイちゃんです! けん、ありがとう! とってもかっこいくて、さいこーです!!」

「お、おう……」

「ムイちゃんのおててでも、ちゃんともてるの! みててね!」


 ちょっとだけ後ろに下がって、鞘から抜く。シュパーン! どうっ? 完璧じゃないかな!

 むふん。

 思わず鼻息が荒くなっちゃったけど、そこはご愛嬌だと思うのだ。


 フランは笑いを堪えていたけど、親父さんはぽかんとした後に微笑んだ。


「そうかそうか。気に入ってくれたか。なかなかの使い手じゃねえか。なあ、フランよ」

「ああ、そうだな」

「まあ、見てる限りじゃ問題はなさそうだ」

「それだけどな。実は――」


 フランが言いかけたので、本人(本ナス?)がいた方がいいだろうと思って、連れて来た。外に繋いでいたハスちゃんごと。

 見習いの男の子はいやーな顔したけど、ここまだ玄関なんだから許して。

 作業部屋には入れないから。


「こいつの子分も同じのが欲しいらしい。作ってやってくれないか」

「子分? まさか、ただの犬にしか見えないが、獣人族だとか言うんじゃないだろうな? その前に、獣人族に首輪を付けるたぁ、どういう了見か聞かせてもらおうか」


 あれ? 親父さん、おこ?

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