032 四番目の噂と兄弟喧嘩




 二人が変な顔した理由はすぐに分かった。

 オレがきょとんとしたので、嫌そうだったけど教えてくれたんだ。


「ママ呼びは、四番目の癖でな」

「クシアーナというんだが、母上に対して異様な思い入れがあるのだ」

「それってリスト兄ちゃんよりもマザコンってこと?」

「……んん? ゴホン、今、何かおかしな台詞が聞こえたような気がするが」


 オレは慌ててお口チャックした。フランは肩で笑ってるけど何も言わない。三番目の息子は要領が良いのだ。


 それにしても四番目の息子、生真面目な長男に「異様」って言われるなんて……。

 リア婆ちゃんの五人の息子はなんか全方向にはっちゃけてるのかな?

 あ、でもフランは唯一まともそう。たぶん。

 だけど、一人だけ普通になる? 大体、あのリア婆ちゃんの息子なんだよ?


「お前、なんか失礼なこと考えてないか?」

「カンガエテナイヨ!」

「そうかぁ~?」

「ムイちゃん、せんりゃくてきてったいするの!! コナス、ハスちゃん、てったいかいしー!!」

「ぴゃっ!」

「わぉん!」


 子分を連れて一時撤退。ルシがちろっと見てきたけど、気付かないフリして部屋を飛び出た。



 その後は敵から隠れて遊んで過ごした。

 二人の息子はお昼を過ぎて来たんだけど、夜までいるらしい。お夕飯の準備をオレも手伝って、ルシと一緒に皆で食べることになった。

 ちなみに畑から野菜を採ってくるのがオレのお仕事です。

 立派に育ったキュウリを一生懸命もみもみして、甘めのお酢ドレッシングで和えるのだ。三歳児でも食べられる味付けだよ!

 ナスの料理は、オレにはまだ勇気がないからルシが作ります。


 晩ご飯の時にはもうフランは気にしていなかったので、オレはコナスの剣について尋ねてみた。


「コナスのけん、だいじょぶ? たのめるかなあ?」

「ま、粘ってやるさ」


 頼もしい!

 フランは格好良く請け負ってくれる。オレが尊敬の眼差しで見ているとリスト兄ちゃんがゴホンゴホンと咳払いした。

 オレはハッとして、慌ててリスト兄ちゃんに関するネタを必死で持ち出した。


「あのねあのね。ムイちゃん、もらったノートで、じのおべんきょうしたよ! ちゃんとムイちゃんってかけたよ」


 どう、どう?

 オレがドヤってたら、リスト兄ちゃんは口元を押さえてぷるぷる震えた。まだ食べ物がお口に入ってたみたいで、もごもご飲み込んでからオレを見る。


「偉いぞ、ムイちゃん」

「へへー」


 照れ照れしてしまった。

 リスト兄ちゃんは表情を改めて、文字の見本になるものも今度持ってきてあげようと約束してくれた。

 そこでオレは名案が浮かんだ。


「ムイちゃんもいっしょにいっていい?」

「うん? 屋敷に来たいのなら構わないが」

「わーい! えっとね、それでフランししょーにもついていきたいの」

「あ?」


 フランがオレからの突然のボールに驚いた。会話のキャッチボールは常に見ておかないとダメだよ?


「ムイちゃんも、けんをたのみにいくの」

「いや、だが」

「いいじゃないか。ムイちゃんはフランの弟子・・なんだろう?」

「なんだよ、その含みのある言い方は」

「含みなどないが?」

「いや、あるね。俺の方が慕われてるから嫉妬してるんだろ?」

「なんだと? わたしはただ、可愛い弟・・・・であるムイちゃんの願いを叶えてあげたいだけだ」

「はぁ~? なんだそれ」


 あ、ツンデレですね。分かります。

 オレはにこにこして二人を眺めた。兄たちはなんだかんだで仲良しさんだ。

 そこでリア婆ちゃんがコンコンとテーブルを叩いた。途端に二人は背筋を伸ばす。ここは軍隊かしら?


「兄弟喧嘩はお止め」

「きょ、兄弟喧嘩ではありません、母上」

「そうだよ、止めてくれ、母さん。俺たちはもういい大人だ」

「だったらムイの前でくだらない言い合いをするのは止めな」

「はい」

「分かった」


 二人とも、すんなり言うこと聞いちゃう。さすが魔王。強いぞ魔王。

 って考えてたらリア婆ちゃんがこっちを見た。オレは慌てて素知らぬフリ。もちろん背筋が伸びる。

 あっ、そうか、こういうことなんだ!!


 するとリア婆ちゃんが、クククとまるで悪役みたいな笑い方でオレを見た。

 それからフーッと息を吐く。


「ムイ。あんたの子分が剣を欲しがるってのは、守りたいって意味もあるのさ。分かるかい?」

「まねっこじゃないの?」

「もちろん、それもあるだろう。好きな相手の真似をしたい、というのはどの種族でも考えられる。だけどね、妖精ってのは慕う相手にとても情が深くなるものなんだ。コナスはあんたのことを命に懸けても守りたいんだろうよ」

「そうだったの!?」

「あんたの仲間ではあるが、あんたを守る者でもありたいんだろう。まだ生まれたての小さな妖精だ。魔法使い役としては無理がある。だから剣を持とうと思ったんだろうさ」


 コナスとハスちゃんは今お部屋で待機中だからいない。

 聞くことはできないけど、でもリア婆ちゃんの言うことが嘘だとは思えなかった。

 なんて重い愛!

 でも納得できる。

 オレは真剣な顔して頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る