ムイちゃんにライバル登場!?

031 プレゼントと呼び方




 オレが冒険者に憧れてると知って、リア婆ちゃんは応援してくれた。

 使い魔として全然働けてないけどそれはいいんだって。それより、もっと子供らしく、いっぱい遊んで学ぶのが大事。

 オレは今までと同じく、ううん今まで以上に頑張ることにした。


 そんなオレに、リア婆ちゃんの三番目の息子フランが剣をくれた。本物の剣みたいに格好良いんだ。小さいけど、オレの体にちょうどいい。


「わぁ! いいの? ムイちゃんのけんだ!」

「わぉん!」

「ぴゃっ」


 ハスちゃんとコナスも喜んでくれる。きゃっきゃと騒いでいたら、一番目の息子のリスト兄ちゃんが拗ねてしまった。


「わたしがあげたノートとペンより喜んでいる」


 なんて、ボソボソ言うんだ。オレは急いでノートとペンを両手に持って喜んだ、フリをした。子供って大変。でも気遣いは大事だからね!


 ちなみに、リスト兄ちゃんはお姫様襲撃事件の顛末を教えにきてくれたんだ。犯人たちはお姫様が遊びに行くっていう情報を掴んで、短絡的に誘拐を思い付いたみたい。てっきり「他国の陰謀」だって思ってたのに、普通にただのおバカさんだった。

 それにしても、ちょいちょい理由を付けて会いに来るリスト兄ちゃんに、最近のリア婆ちゃんは呆れ気味だ。

 今もそんなお顔してるので、オレは急いで話題を変えることにした。


「これ、ほんもののけん?」

「刃は潰しているが、本物だぞ」

「わぁ!」

「使い慣れたら研いでやる。子供用にと軽くしてもらったが、ムイちゃんにはまだ重いかもな」

「がんばるの!」

「ぴゃっ!」

「うん?」


 コナスが何か言いたそう。しきりにオレの袖を引っ張る。皆で「どうしたの?」とコナスを見れば、小さい手で身振り手振り。


「うーんと。ななめ、たて、ばんざい?」

「ぴゃっ」

「え、ちがうの?」

「ぴゃぴゃっ」

「……ムイちゃん、もしかするとだが」


 さっきまで拗ねていたリスト兄ちゃんが、ハッとした顔で何か思い付いたみたい。

 オレが待っていると、まだジェスチャーを続けているコナスを見ながら、リスト兄ちゃんが厳かに告げた。


「同じものが欲しいんじゃないかな。剣の抜き差しを真似ているような気がする」

「待て、ナスに剣が必要か?」


 フランが余計なことを言ったけど、幸いにしてコナスは気にしていなかった。むんっ、と胸を張って自慢げだ。

 ……そんなことより、ナスって胸を張れるんだね。

 ううん。コナスは妖精だもん。ただのナスじゃないよね。


 そっか、コナスは剣が欲しいのか。

 あ、もしかしたらオレとお揃いがいいのかも。ふふ。どっちにしても可愛い!

 オレは期待を込めてフランを見た。

 コナスもキラキラして見上げる。

 ハスちゃんは、いつも通り! 尻尾をふりふり「何も分かってません!」って顔で楽しそう。


「……分かった、分かったよ。ナスにも用意したらいいんだろ?」

「わーい!!」

「ぴゃー!!」

「わぉーん!!」


 オレたちはソファから飛び降りて喜び回った。きゃっきゃと走り回るものだから、ルシが「こらこら」と止めに入ってしまった。でも興奮はすぐに収まらないのです。

 ふはーふはーとなっていたら、リア婆ちゃんに強制的に摘まみ上げられてしまった。


「そろそろ、落ち着きな。ムイが先頭を切ってはしゃいでいたら、犬も止まりようがないよ」

「わぉぉぉーん!!」


 あ、うん、そうね。

 ハスちゃんてば、自分は狼か何かみたいに思い始めたらしくて、高らかに吠えだしている。いつもはしっかり者のコナスもバンザイしたまま走り回ってて……。えと、バンザイにはなってないかな? 手がちっちゃいもんね。うん。でも可愛いのでオッケー。


 オレはリア婆ちゃんにぶらぶらされながら、ソファに戻された。

 フランは呆れた顔で、リスト兄ちゃんは微笑ましそうに見てる。

 今日は二人一緒に遊びに来たんだ。

 フランが来るのは超珍しいみたい。元々リスト兄ちゃんも今ほど来てなかったっぽい。ルシが「ムイちゃん様々だね」と言うから、オレは偉いのだー。なんちゃって!


「……じゃあ、頼んでやるが。ムイの分は子供用で作ってもらったが、ナスは明らかにサイズが違うよなぁ。さて、どうしたもんか」

「依頼した工房では難しいのか?」

「作れるだろうとは思う。だけど、親父がちょいと頑固なんだよ」

「母上の名を出しても無理か? ならば、わたしの名で――」

「待て待て。宰相の権力をポンポン使おうとするんじゃねぇ。第一、母さんの名前を出したらビビるだろうが。それに母さんだって嫌だろ?」


 フランがリア婆ちゃんを見た。いつもなら断ってるのかな。でもリア婆ちゃんは魔王みたいな顔して笑った。


「ふふ。あたしの名を出すのは構わないよ。大事な使い魔、いや我が子の頼みだ」

「リア婆ちゃん!!」

「そうだ、ムイ。あんた、あたしに母親を求めてるなら母ちゃんと呼んでもいいんだよ? ただ、あたしは年を食ってるからね。婆ちゃんでちょうどいいんだけど」

「ぅんーぅ、なやむ! ずっとリア婆ちゃんだもん。でもね、母ちゃんより、ママの方がいい」

「おや」

「リアママ!!」


 本当は母ちゃん呼びがリア婆ちゃんには合ってるんだけど、オレはまだ三歳。見た目は愛くるしいレッサーパンダの獣人族なのだ!

 愛くるしいモフモフが母ちゃん呼びするより、ママ呼びの方がなんだか合ってる気がしたんだけど。

 何故かフランが渋い顔。それにリスト兄ちゃんも眉を顰めてる。

 えっ、なに、どうしたの?

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