第29話 吐露、リア婆ちゃんの本性
リア婆ちゃんの胸に抱かれ、お尻をポンポンされたら不安なんて吹き飛んだ。
コナスも一緒になってリア婆ちゃんの胸にダイブしてる。
オレは今日、冒険者になりたいって思ったことや、だけど使い魔だから無理だって思って絶望したことをボソボソ話した。
説明の時は起き上がって、リア婆ちゃんのお膝に座っていたから他の人の顔も見えた。皆、困ったような顔。ルシだけは顔色が変わらないけど、それは蜥蜴顔だからね。
「あのね、そだててもらったおんをわすれて、ムイちゃんはひどいとおもったの」
「そうかい」
「でもね、ぼうけんしゃ、かっこよかったから」
「そう言えば、ムイは冒険者の話が一番好きなんだってね。この間もギルドで目を輝かせていたそうじゃないか」
リア婆ちゃんが後ろを見る。ルシがちょろっと舌を出して笑った。
「そうですね。ムイちゃんは冒険者に憧れていたようです。ギルドの中を楽しそうに見ていました。それに、絵本は冒険者物が一番気に入ってましたね」
「そうかい。何がそんなにいいのか、あたしには分からないけど――」
「母さん、それはないぜ」
「おや、フラン。あんた、いたのかい」
「ずっと目の前にいただろうに。ったく。どんだけ、ムイちゃんが気に入ってるんだ」
フランが呆れた顔で言う。どこか楽しそう。
リア婆ちゃんが笑った。お腹が揺れて、オレは膝の上でロデオになった。
「フラン、あんた、ムイが冒険者になりたいって聞いて嬉しいんだろう?」
「……ちぇ。そうだよ。だから、助けてやりたいって思ったんだ」
「それで神妙な顔して付いてきたのかい」
「それだけじゃないけどさ。兄貴がうるさくてな。『母上がいらしているのに挨拶しないとは何事だー』って、さ」
あ、それ、リスト兄ちゃんですね。分かります。
長男のリスト兄ちゃんは五人兄弟の中で一番のマザコンらしいし。それで顔を見せに来たのが二番目の脳筋っぽいラウと、三番目のフランってわけなんだ。
この調子でいくと四番目と五番目もキャラが濃そう!
「それはまあ、いいとしてさ。母さん、ムイちゃんが可哀想だろ?」
説教めいた口調にオレは驚いた。
違う、リア婆ちゃんは悪くないんだ。
オレは慌てて首を振った。
「ムイちゃん、かわいそくないよ!」
リア婆ちゃんはオレが考えたことを怒らなかった。だから――。
「だからさ、早く教えてやればいいのに」
「ははは」
「本っ当に性格がひねくれてるよなー」
「フラン様、お母上に対してそのような」
「ルシも助け船出してやりゃあいいのに。どうせ、内心でハラハラしてるんだろ? いつも母さんに振り回されてるんだから」
「いえ、わたしは」
「とにかくさ、ムイちゃんの勘違いを先に解いてやれっての。可哀想に」
「え?」
オレはキョロキョロ視線を彷徨わせて、最終的にフランの台詞に導かれるままにリア婆ちゃんを見た。
リア婆ちゃんはニヤニヤ楽しそう。
こういう時のリア婆ちゃんは確かにひねくれ、ううん、オレ何も考えてないよ?
「はははっ!!」
リア婆ちゃんは豪快に笑うと、目の端に溜まった涙を指で払った。
そしてオレを見て微笑む。
「あたしはね、使い魔が何をしようが構わないって思ってるんだよ」
「……へ?」
「なのに、これらときたら、あたしに仕えようとする」
これ、って言った時にルシを振り返った。ルシは澄まし顔で視線だけ明後日の方を向いた。
「でもね。あたしは使い魔を縛ったことはないんだよ」
「……じゃあ契約は?」
「あれは、あんたたちの命を守るものさ」
その時、ルシがソファの後ろから回ってきて、オレの横に立った。そうっと頭を撫でてくる。
「わたしたちはとても弱い存在で、そのままでは生きていけなかっただろう。リア様は、そんなわたしたちを保護してくださった。その力の一端を分け与えてくださったんだよ」
「そうだったの?」
「ムイちゃん。君が聡い子なのは分かっているよ。けれどね、それだけではきっと生きていけなかった」
「……うん。ムイちゃん、それはよく分かってる」
「そうだね。リア様は、保護してくれただけでなく、契約することで『繋がり』を作ってくださった。この力がある限り、わたしたちは死ぬことはないんだ」
オレは驚いて目が開いた。
「リア様の保護下にあるという契約なんだ。この世でもっとも強固な後ろ盾をいただいたんだよ」
「リア婆ちゃん……」
「わたしたちは感謝し、どうか仕えさせてほしいと願った。けれどね。それは他に『やりたいこと』がなかったからなんだよ」
「そうなの?」
「だって、わたしはリア様のお世話をするのが好きなんだ。一番楽しいと思える時間だよ。今ではリア様に託されたムイちゃんのお世話も大好きだね」
「ルシ!」
パチンとウィンクするルシに、オレは抱き着いた。大好き大好きとスリスリしていたら、ルシがまた頭を撫でてくれた。
「他の使い魔たちも同じ。皆、やりたいことをやりながらリア様の手となり足となっているだけ。楽しいから、やっているんだよ」
「ムイちゃん、しらなかった」
「教えてあげたつもりだったんだけどね」
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