第27話 三番目、ハスちゃん大暴走




 リア婆ちゃんに似たネジネジの角がそこにはあった!

 なんで今頃気付くの、オレ!!


「フラン、もしかして、リア婆ちゃんのおこちゃま?」

「ぶっ! ちょ、お子ちゃまってのはないだろっ」


 ちょっと言い間違えただけじゃない。オレは三歳児なんだから、そこは突っ込まないでほしい。

 オレはどう聞けばいいか考えて、閃いた。


「んと、なんばんめ?」

「……三番目。ていうか、マジかよ。母さんのところの使い魔だったのか」

「ムイちゃん、リア婆ちゃんにはとてもおせわになってます」

「お、おう。そうかい。まあ、珍しいタイプだな。母さんのところの使い魔は大体どこかおかしいっつうか……いや待てよ?」


 フランはオレのことを上から下まで見て、それからウロウロしているハスちゃんと、オレの後頭部に移動したコナスを見た。


「まって、ペットはおかしいけど、ムイちゃんはおかしくないよ!」


 甚だ遺憾である。絶対言い出しそうな気がして、オレは先に牽制した。

 でもフランの目は細いままだ。呆れた顔でオレたちを見ている。


「なるほどなー。兄貴が騒いでいたのは、これか。で、お姫様と遊びに来たんだな」

「あにきって、リスト兄ちゃんのこと?」

「……あいつのこと、そんな風に呼んでるのか」

「いろいろあるんだって。ちょうなんはたいへんなんだよ。あいつ、なんて言ったらかわいそうだからね?」


 オレはつい説教してしまった。

 リスト兄ちゃんはマザコン発症してるし、変なお爺さんに育てられてアレだけど、根はいい人なんだ。オレにも優しいもん。


「二番目とも会ったんだよな?」

「のうきんね」

「……言葉が分からんが、良くない意味なのは分かるぞ」

「おしごとしないから引きずられていったの。おしごとはしないとダメ」


 そんなことを話しているうちに、大広場に出てきた。さっきあんな事件があったからか、人通りが少なくなってる。中央に噴水があるんだけど、その横に例の辻馬車が置いてあった。

 オレたちがカフェへ向かって歩いていると(歩いているのはフランだけど)、そのカフェからルシが出てきた。


「ムイちゃん!」

「ルシ! ルシー!!」

「良かった、無事だったんだね」


 オレが手を伸ばすと、フランはそのままルシに渡してくれた。オレは慣れたルシに抱っこされ、しがみついた。


「カルラ王女殿下の使いの者から連絡があってね、急いで来たんだけど」

「ごめんなさい、ルシ」

「犯人を捕まえようと、追いかけたんだろう? よく頑張ったね」

「うん!」


 ルシに褒められて、オレは元気よく返事した。




 ルシはもう事件の概要を知っていて、情報収集すごいって思った。

 しかも、リア婆ちゃんに事の次第を逐一伝えていた。魔法すごい。できる男ルシ!


 あと、フランにも気付いて頭を下げた。

 フランは困った顔して頭を掻いている。


「リア様がいらしておりますし、どうでしょうか。ご一緒に参りませんか?」

「あー。そうだな。ま、ここまで来たら行くか」


 フランはマザコンではないみたい。あと反抗期でもないようで、素直に挨拶に行くと返事をした。

 オレはルシが持参した服を着るため、人型に戻った。

 すると、ハスちゃんが早速やって来る。オレがずーっと抱っこ状態だったので、くっつけなかったから寂しかったのかも。

 よしよししてたら、ぐいぐいと鼻先でオレのお尻を突く。


「なにするの、ハスちゃん。においをかぐのは犬だけ! しつれいなんだからね!」

「わぉん!」


 オレたちがわちゃわちゃしてたら、ルシが笑った。


「ムイちゃん。ハスちゃんは君を乗せたいんじゃないのかな」

「えっ」

「きっと運んであげたいと思っているんだよ」

「……そうなの?」

「わぉん!」

「……ハスちゃんは、ぜんぶそれだもんなー。でも、ちょっとだけためしてみる」


 よいしょ、と登ろうとして足が届かなくて困っていたら、フランが抱き上げてくれた。

 なんとかハスちゃんの背中に乗ることができたので、大丈夫かなと前のめりになって聞こうとしたら。


「わぉんー!!」

「わぁぁっ」


 興奮したハスちゃんが走り出してしまった。

 あっ、リード手に持ってない。リードは引きずった状態で。

 待って、ダメ、オレ振り落とされ――。



 まあ、ハスちゃんは叱られるよね。

 ルシは怒ったら恐いんだよ。

 お屋敷までの道中、ハスちゃんは延々と叱られていた。


 オレはフランに抱っこされて優雅に移動です。怪我をした、という名目で。

 本当は怪我はしてないし大丈夫なんだけどね。

 ルシが「怪我をしたことにしましょうね」と恐い顔で言い含めるものだから、オレは恐くて「うんうん」と無言で頷いたのだった。


 ところでコナスは吹っ飛ばされなかった。上手いことオレの毛に隠れてやり過ごしたらしい。

 しかも何故か喜んでいた。「ぴゃっぴゃっ!」と手を振り回していたんだ。

 どうしよう。まともなペットがいない。

 こんなだから、オレ、フランに変な目で見られたんだよ。


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