第26話 人生について、大泣きと角と




 男二人はフランに気を取られて、後ろから忍び寄っていた冒険者に気付かなかった。そのまま後ろから縄を掛けられてお終い。

 どてーん、って転んだ男の上にハスちゃんが乗る。さも「俺が倒しました」って顔してるけど、ハスちゃんは倒してないからね?


 で、警邏隊の人が追いついたので、お縄の二人は連れられていった。

 その時に警邏隊の人がフランに対してものすごーくビビってたのが面白かった。なんかすごい冒険者らしい。


「S級の冒険者!?」

「もしや、あの、フラン様ですか!」


 だって。

 なんか、すごく格好良い!

 角のネジネジ具合といい、竜人族って元から人生勝ち組だと思うけど更に倍って感じ。オレの「可愛いレッサーパンダ」とは雲泥の差。

 で、でも、オレだって格好良くなる未来があるはず。ネジネジの角はないけど。


「おい、どうした? 何をうんうん唸ってるんだ」

「ムイちゃん、じんせいについてかんがえていたの」

「……人生について? お前本当に面白い奴だな」

「わぉん!」

「ハスちゃん、そこでないちゃうと、へんなかんじになるからやめてね?」

「わぉん!」


 もう!

 大体、面白いって言葉は褒め言葉にはならないんだから!

 お姉ちゃんたちも、男からの告白をお断りする時に「面白い人なんだけどねー」と、言ってたらしい。

 一見、褒め言葉に聞こえるところがミソなんだって! ひどいよ!


 とにかく、オレは将来像について考えをまとめた。


「ムイちゃん、ぼうけんしゃになる!!」

「……おおう、そうか」

「あっ、でもそのまえに、つかいまをそつぎょうしないと!!」

「うん?」


 それに、育ててもらったお礼もしないまま使い魔を卒業なんてダメだよね。

 お礼って使い魔として働くことかな。

 ……あれ? じゃあいつ冒険者になれるんだろう。


 もしかして無理なんじゃない?


 オレは自分でも分かるぐらい、尻尾がしおしおに垂れた。


「おい、どうしたんだ?」

「わぉん……」

「犬も心配しているぞ」


 フランはオレを抱っこし直して、ぷらぷらさせながら真正面で顔を合わせた。


「あのね、ムイちゃんはつかいまなの。だから、ぼうけんしゃにはなれないなって、おもって」


 言いながら涙が盛り上がってきた。


「お、おい……」

「わぉん」

「泣くな、泣くんじゃない。使い魔だからって冒険者になれないこと、ないだろう?」

「だって、だって。ムイちゃんをひろってそだててくれたリア婆ちゃんに、わるいんだもん。つかいまのおしごともぜんぜんできてないの。だけど、ムイちゃん、ぼうけんしゃになってみたかった……っ」


 自分で自分の言葉に興奮して、オレは声を上げて泣いた。

 わぁぁんと泣いてると、ハスちゃんも興奮して「わぉぉぉんー!!」と遠吠えを始め、オレにくっついていたコナスも頭の上で「ぴゃぁぁぁ!!」と叫ぶ。


「うお、おい、こら」

「おーい、なんで子供たちが泣いてるんだ?」

「ていうか、フラン。そもそも、その獣人族の子はどこの子だ?」

「あ、そういやそうだな。……いや、待てよ? さっき、なんか妙なことを言ったな」


 フランはオレをぷらぷらさせながら、じっと見つめた。オレはちょっと恥ずかしくなってきたところで、でも涙が止まらなくて「ひっくひっく」状態。

 これ、いつ、泣くのを止めたらいいんだろう?

 大泣きって止め時に困るよね。


「リア婆ちゃん……って、言ってたよな?」

「ふぇ、ん。うっく、うん、ゆった」


 しゃくり上げながら答えたら、フランの顔が変に歪んだ。怒ってるって感じではない。でも、変。

 オレが首を傾げると、フランも傾げた。それからオレを抱っこし直して、ぽんぽんとお尻を叩いた。


 その間、ハスちゃんがウロウロしながら見上げていて、心配そう。だから「もう大丈夫」って意味で手を振った。ハスちゃんは「わぉん!」と嬉しそうに鳴いた。

 コナスが「自分もいるからね!」と言いたげにオレの髪の毛を引っ張る。うん、ありがとう。でもちょっと痛い。


「ま、とにかく、悪い奴らは捕まえた。とりあえず、さっきのカフェへ行こう。誰か残っているだろう。お迎えが来ているかもしれんしな」

「ムイちゃん、じぶんでかえれるよ?」

「何言ってんだ。大活躍したお前を一人で帰すわけないだろ。親御さんにも詳細を説明しなきゃならないしな」

「ムイちゃんはひろわれっこなので、おやはいないよ」


 オレはようやく涙が止まって、時々ひくっとなる以外は普通になった。

 フランはホッとした顔で、でもまた変な顔になる。


「親はいなくて拾われて? それで、使い魔って言ったか?」

「うん」

「……で、お姫様と一緒にいた」

「あっ」


 フランは、お姫様のことを知ってるんだ。本物の本当のお姫様だって。だからオレが何か言う前にフランは止めたんだね。

 そのフランが渋い顔になった。こうして見るとフランってイケメン。

 冒険者で格好良くてイケメンって、何それ。


 そんな風にオレが斜め方向にムッとしていると――。


「リア婆ちゃんって、まさか」

「しってるの? あっ、リア婆ちゃんは『はくりゅうさま』ってよばれてたよ! あのねー、きんにくモリモリでー、こーんなネジネジのツノが……あれ?」


 オレは自分の短い腕をフランの胸に当て、つっかえ棒みたいにして体を離した。

 視線の先は上。そう、角である。

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