第25話 ハスちゃん対ムイちゃん、名探偵




 ハスちゃんは案の定、全く違う方向に歩き出そうとした。待って待って。

 慌ててリードを持って引っ張った。ギュッと締まって、ハスちゃんが立ち止まる。まるで「えっ、こっちじゃねえんですかい?」って顔してるけど、違うからね?

 オレはリードを持って、立ち上がった。


「あっちにむかってるよ」

「よし。じゃあ、行くぞ。分かれ目でまた降ろしてやろう」


 そう言うとオレを抱き上げる。

 オレはコナスを頭にくっつけたまま、抱っこしてもらった。さっきより安定しているので助かるー。

 見下ろすと、ハスちゃんがちょっと不満そうに付いてきていた。


「そうだ、俺はフランっていうんだ。よろしくな」

「ムイちゃんはムイちゃんです。よろしく!」

「おう。あいつらは同じ冒険者ギルドのもんだ。仲間だな」


 仲間ってなんて素敵な響き。

 オレはぷるっと震えた。これは武者震い。冒険者たちと一緒になって追いかけてるってシチュエーションに、オレはすごくやる気になっているのだ。


「いけー!」

「お、おう」


 フランはびっくりしたけど、オレを取り落とすこともなくそのまま走った。


 途中、分かれ道になるとオレを降ろしてくれる。他の冒険者たちも見守る中、オレは地面をくんくん。

 ハスちゃんも一緒になって嗅いでる。今度はオレの方をチラッと見て、様子見だ。ちょっと賢くなったね。


 オレは二本足で立ち上がると、右の方向を指差した。


「あっち!」

「よしっ、行くぞ!」

「「「おー!!」」」


 また走って行く。

 そうやって何度も何度も立ち止まるけど、段々と降りなくても分かってきた。匂いがきつくなってきたから。

 それにフランがオレを下の方で抱えるようになった。毎回、地面に降ろさなくてもいいように両手で抱え直して地面近くでぷらぷらさせるんだ。

 オレが地面に鼻をくっつけなくても匂いが分かるって、気付いたみたい。ちなみにハスちゃんは毎回お鼻をくっつけてます。


 あと、ハスちゃん、何気に「どの匂い」を探しているのか分かってきたっぽい。

 最初はオレのことを見て答え合わせしていたけど、五回目ぐらいから「こっちじゃね?」って顔をするようになったんだ。

 十回目あたりで、もう前足が出るようになった。

 尻尾をぶんぶん振って「こっちですぜ、旦那!」って岡っ引き状態。

 ハス兵衛も一人前になってきたようで、オレは嬉しいよ。



 で、狭い路地裏を逃げていった男たちが追い詰められるのは当然のこと。

 オレたちは男二人を追い込んだのだ。


「手間ぁ掛けさせやがって。たかが悪人二人に、俺たちも舐められたもんだぜ」


 どっちが悪人か分からない声でフランが言うと、周りにいた大勢の冒険者たちもやんやと声を上げた。

 やっちまいなー、とか。

 ぼこっちまえー、とか。


 恐いですね!


 でも、フランの腕にはレッサーパンダ姿の可愛いオレがいるんだ。

 これって客観的に見ておかしいよね!


 ハスちゃんなんて嬉しそうに尻尾をぶんぶん振っているし。

 最後なんて、ハスちゃん勝手に走って行って男の一人を背中から押し倒したもんね。「コイツ、コイツですよね!?」って顔して振り返った時の、輝く笑顔ときたらなかった。


 でも、ハスキー犬一匹が背中に乗ったぐらいじゃ、大柄な男の人には重しにもならなくてね。普通に起き上がってしまった。

 その代わり、その数秒のおかげで男二人を追い込むことができたんだ。

 ぶんぶん尻尾は許されるよ。


「さあて。お前らの目的はなんだ?」


 フランが一歩踏み出して質問した。男二人のうち、より人相が悪い方が唾を吐く。


「……ちっ」

「兄貴ぃ」

「テメーは黙ってろ」


 分かりやすいなーと思って、オレは抱っこされたまま二人を観察した。フランはニヤニヤしていて、周りの人はまだワイワイ騒いでいる。

 話が進まない気がしたので、オレは手を挙げた。


「はい、はいっ!」

「うん? どうしたんだ、ムイちゃん」

「ムイちゃん、わるもののもくてきをすいりしたよ!」


 ふふふ。オレの名探偵ぶりを聞くがいい。

 オレは自信満々に続けた。


「おかねもちの子をゆうかいしようとしたの! あばれてみんなの目をひきつけて、べつのひとがゆうかいしようとしたんだ」

「おおー」


 フランが目を見開いて驚いている。三歳児の推理に驚いたようだ。ふっふー。

 オレはどや顔でフランだけでなく悪人二人や周りの冒険者たちを見た。


 冒険者の中には「可愛い-」とか「何あれ、俺も欲しい」や「喋るペットとか最高じゃねえか」なんて言ってる人がいる。

 あの、でも、オレはペットじゃないからね。

 これでも獣人族ですし、その前に(その後でもいいんだけど)オレはリア婆ちゃんの使い魔なんです。


 フランは笑って、オレの頭を撫でた。


「ま、理由はどうあれ、騒乱罪でしょっ引くことに代わりはないな」


 理由はどうでもいいの!?

 オレの名推理は!?


「それに今ここで明かすわけにもいかんだろ。な、ムイちゃん」


 と、最後は小声で言う。

 うん?

 オレが頭の中に「?」マークを飛ばしている間に、フランはまた一歩足を前に進めた。

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