第24話 ドーン、追跡




 何人かは怪我をしていた。

 もちろん、悪者の方だよ。

 護衛騎士は傷一つなく立っている。

 あと、セバスちゃんが地味にひどいことを言っていた。


「ハスちゃん、悪党どもの股を噛んでやりなさい! リボリエンヌ様は攪乱ありがとうございます!」


 うーん。何があったのか想像できてしまう。


 それはともかく、冒険者のリーダーっぽい男が到着したことで悪者たちは目に見えて狼狽え始めた。

 逃げようとしたんだ。

 でもそうはいかない。護衛騎士と冒険者たちは協力して悪者たちを捕まえた。


 お店の人がロープを持ってきてくれたのでグルグル巻きにする。

 悪者が動けない段になって、ハスちゃんは股を噛もうとした。


「ダメー、ハスちゃん! きたないから、ぺっして、ぺっ」

「わぉん!!」


 オレに気付いたハスちゃんは急いでやって来た。

 ドーンって、うん、そうだよね。分かってた。

 それに白モフちゃんも一緒になってドーン。

 その後はペロペロされるし、もう、もう!!


 オレは急いで獣人姿に戻ろうとして慌てて止めた。だって、お洋服がないもの。

 お姫様の前ですっぽんぽんはアウト。

 いくら三歳児でもダメなものはダメなのだ。


「お手助けいただき誠にありがとうございました」

「いや、俺たちがいなくても問題なかったろう。それより、表の広場で小熊猫の子供が活躍していてな」


 そこで皆がオレを見た。

 オレはうんうん頷いて、それから気になっていたことを訴えた。


「まだにげてる、わるものがいるよ!」


 馬車に乗ってた男二人だ。

 護衛騎士と冒険者たちは顔を見合わせた。


「あなた方はお嬢様をお守りください。俺たちで追ってみましょう」

「助かる。いずれ礼を」


 大人同士の会話が簡単に進んでいる間、お姫様が震えながらオレのところへ来た。


「ムイちゃん、ムイちゃんは大丈夫なの? 怪我はしていない?」

「だいじょうぶだよ!」

「ああ、なんてこと。びっくりしたのよ。お願いだから、あんなことはもう止めて」


 メアリも頷いている。でも、それには応えられない。

 オレは二本足で立って、お姫様に宣言した。


「ムイちゃんは男なの! 男は女の子をまもらなくちゃダメ」

「ムイちゃん……」

「わるいやつを、ムイちゃんはつかまえる」


 だって、あの男二人を間近で見たのはオレだけだし、匂いだって分かる。

 オレの宣言は裏通りに響いた。


 冒険者の男は「ははは!」と大きな声で笑った。


「そうだ、それでこそ、男ってもんだ! 偉いぞ、チビ」

「ムイちゃんだもん!」

「ああ、ムイちゃん、だな。分かった分かった。じゃあ、行くぞ!」


 他の男たちもオーと拳を振り上げ、走り始めた。

 オレも付いていこうとして、セバスちゃんに抱っこされていたコナスが飛び降りてくるのを見て、待った。


「ぴゃっ!」


 自分も行く、そう言ってた。

 ハスちゃんもだ。わふわふ言いながらも、その目は真剣だった。ハスちゃんも男だったらしい。脳天気で何にも考えてないハスキー犬ではなかったのだ。


「つかいまムイちゃんと、そのこぶんたちでわるものをやっつけるぞー! おー!」

「ぴゃ!」

「わぉん!!」

「ぉん」

「あ、白モフちゃんはダメ」


 オレが冷静に止めたら、白モフちゃんは「えっ、なんで!?」って顔でがーんとショックを受けている。

 いやでも、ダメだよね。君、リボリエンヌって名前の、お姫様のペットでしょうが。

 だけど、そんな説明は聞き入れられないよね。

 オッケー。分かってる。

 オレは魔法の言葉を知ってるんだ。ふふ。よく、聞くがいい。


「白モフちゃんはおひめさまのごえいがかりじゃないの? かよわい女の子をまもってあげなくて、それでりっぱなしんしといえるのかな!」


 どやっ。

 オレが胸を張って説得していると、セバスちゃんが小さく言った。


「リボリエンヌ様は淑女です」

「……あ、そうなの」


 少し離れた場所で聞いていた冒険者の男が「ぶはっ」と笑った。

 それでオレは我に返った。こんなコントをやっている暇はなかったんだ。

 オレは急いで男に駆け寄り、それから振り返って白モフちゃんに「とまれ」を命じた。


「ぉん」

「ムイちゃんのかわりに、おひめさまをまもってね!」

「ぉん!」

「すぐにもどるからね。わるものをやっつけたら、みんなでばんざいしようね!」

「ぉん!」


 よし。

 オレは今度こそ走り出した。でも四つ足で走ってるのに追いつけない。どうしようかと思っていたら男がひょいと担いでくれた。

 おおお。

 なかなか良い感じ。


 あ、でも、止まってください。


「うん? どうしたんだ」

「におい、かがないと」

「……そうか。そうだよな。うん」


 ごめんね。タイミング悪くて。


 でも、ちょうど広場の端だったので良かった。何故ならここから男たちが逃げていったからだ。

 オレは早速、四つん這いのまま鼻先を地面に寄せた。何故かハスちゃんも一緒になってクンクン匂ってる。

 本当に分かってるのかな。ハスちゃんは犬だから嗅覚はいいけど、対象の匂いを嗅ぎ分けられてるんだろうか。

 心配になったけど、まあいいやとオレは匂いを特定する作業に戻った。

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