第20話 お誘いとお出掛け前
オレの一生懸命のお手伝いをリスト兄ちゃんは喜んだみたい。
頬を赤くして、にこーっと笑う。
ついでにリア婆ちゃんも笑顔だ。イケメンの笑顔だから格好良い。
「ムイ、よくできたじゃないか」
「がんばったの!」
リスト兄ちゃんが口元を手で抑えた。笑いをこらえているみたいだけど、三歳がここまでできるのはすごいことなんだからね?
まったくもう。
オレは堂々と胸を張って台を降り、さあ部屋を出て行こうとしたら。
「待ってくれ。ムイちゃん、君に話があるんだ」
「ムイちゃんに?」
リア婆ちゃんを見ると頷いたので、オレはたたっと走ってソファに座った。
……よじ登った。途中でリア婆ちゃんが引き上げてくれて。
何故か、リスト兄ちゃんはゴホンゴホンと咳払いだ。早くしろってことかな。オレはもぞもぞと座り直してからリスト兄ちゃんを見た。
「王女殿下からムイちゃんに伝言だ。『明後日、城下を散策するから一緒に遊びに行きましょう』と」
「わぁ!」
「王女殿下ねぇ」
「リア婆ちゃん、ダメ?」
オレがうるうるの瞳で見上げると、リア婆ちゃんはフッと溜息を漏らした。
「ムイが遊びたいのなら構やしないがね。でもね、言っておくが、あんたは王女にへいこらしなくていいんだよ」
「うーんと。こんなことしなくていいってこと?」
オレは少し考え、ソファから降りてジェスチャーした。手をごますりにして、ペコペコするやつだ。へいこら、って言われたらコレしか思い付かなかった。
リア婆ちゃんはそれを見て大笑いした。
リスト兄ちゃんはちょっと呆れ顔。でも、すぐに苦笑いで頷いた。
「確かに。ムイちゃんは母上の使い魔だから、王女に頭を下げる必要はない。とはいえ、相手は王族です。失礼のないように」
「わかったの!」
しゅたっと右手を挙げて答えた。大丈夫、オレだって最低限のマナーぐらいは分かってる。それに失敗しても、三歳だからセーフ。
……セーフだと思う、たぶん。
ということで、明後日はまた王都へお出掛けです。
ハスちゃんもコナスも連れていっていいというので、ふたりに言い聞かせた。
「いい? しつれいなこと、したらダメだよ」
「わぉん!」
「ぴゃ!」
「うん、いいへんじです。あ、ハスちゃん、おちついて。あばれちゃダメ。もう!!」
コナスは小さいし、オレの言うことを聞いてくれるからいいんだ。でも、ハスちゃんは心配だ。
明後日までになんとか躾を頑張ろう。
オレはルシにお願いして、ハスちゃんのリードを作り直してもらった。ギュッと引っ張れば動きを止められるような仕組み。といっても、もちろん痛くはない。オレも獣化して四つ足の時にハメてもらって確認したけど大丈夫だった。
準備万端で当日を迎えたオレたちは、リア婆ちゃんに連れられてリスト兄ちゃんの家に転移した。
またしてもキリリッとした顔のお爺さんが待っていて、ちょっとドキドキ。大丈夫、短刀は出さなかったよ。それにずらっと並ぶメイドさんたちもいなかった。
キリッと顔のルソーお爺さんは、今回は普通にリア婆ちゃんと挨拶してすぐお部屋に案内してくれた。
「もうすぐ王女殿下が参ります。ムイちゃんは一階でお待ちください。今日はルシ殿はどうされますか?」
「ご一緒するのは止めておきましょう」
「さようでございますか。では、不肖わたくしめが共に――」
「ムイちゃん、ひとりでもだいじょうぶなの!」
「いえ、ですが――」
「ムイが一人で行くと言ってるんだ。行かせておあげ」
リア婆ちゃんの鶴の一声で、ルソーお爺さんは黙った。さすが魔王、じゃなかった、リア婆ちゃんです。
「それはそうと、そこのペットたち」
「わぉん!」
「ぴゃ!」
「あんたたち、飼い主に似て返事はいいねぇ。まあいいさ。それより、主であるムイの言うことをよく聞くんだよ。いいね?」
「わぉん!」
「ぴゃー!!」
リア婆ちゃんが目を細めて真剣に話す。聞いていたオレだけでなくルソーお爺さんもビシッと直立不動になるような、ちょっと恐い感じがした。
あ、ルソーお爺さんは秘書さんの鑑っぽいので元から直立不動なんだけどね!
それより、ハスちゃんは全然動じてない感じで、いつものように「ただ返事しました」状態。うんうん、君はぶれないね!
反対にコナスはやる気を漲らせてる。「わかりました、魔王様!」って感じで短い手を挙げた。
ナスのヘタが髪の毛だとすると、そこに全然届かないほどの短い手です。
可愛い。
「不安だねぇ」
「……わたくしめが心配するのも分かっていただけると思うのですが」
「まあ、いいさ。そこまで心配することもない。ここは天下の王都じゃないか。何よりも、あたしがいるんだ」
「さようでございました」
ルソーお爺さん、納得してしまった。
オレもリア婆ちゃんがいれば問題ないって思うけど。
でもとりあえず。
「おひめさまの、ごえいがいるからだいじょうぶ。ムイちゃんもがんばるし!」
「そうだねぇ」
リア婆ちゃんは笑って片方の眉をひょいと上げた。
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