第18話 帰宅後の見回り




 その翌日、オレたちはリア婆ちゃんと共に家へ戻った。

 リスト兄ちゃんはとても残念がっていたけど、オレが「またくるからね~!」と言えば嬉しそうだった。リア婆ちゃん大好きっ子だなあ!

 ぶれないマザコン、それがリスト兄ちゃんです。


 他の兄弟は来なかったし、二番目のラウも姿を見せなかった。ラウは忙しいって言ってたからかもだけど。

 この家族、リスト兄ちゃん以外はサバサバしてるのかな。

 オレの前世とは大違い。

 でも、リア婆ちゃんが子供たちに愛情がないわけじゃないのは分かるんだ。なんだかんだ言いつつ、目が優しいもん。

 こういう視線をオレは知ってるからね。

 親子の形って、それぞれだしね。


「何をニヤニヤしてるんだい?」

「なんでもないの!」

「そうかい。で、帰って早々に外へ行くんだね」

「みまわりなの! ムイちゃんのおしごとだから!」

「ほう。お仕事か。そりゃいい。しっかり見回っておいで。だけど、敷地の外へは行っちゃいけないよ」

「はーい!」


 汚れてもいい貫頭衣服と麦わら帽子を被って、いざ出陣。

 ハスちゃんも準備万端。今にも外へ飛び出しそう。あ、その前に。


「ハスちゃん、もりはこわいところだからね? ぜったいにけっかいのそとにでたらダメなんだよ」

「わぉん!」


 本当に分かってるのかなあ。オレは心配になりつつ、ハスちゃんと一緒に庭へ出た。ルシも一緒だから大丈夫だと思うけど、気をつけよう。

 ハスちゃんにはリードが必要かもね。

 ……引きずられるかもしれないけど!



 さて、お庭の見回りはあっという間に終わった。匂いも嗅いだけど、問題なし。

 次は川までの道のり。ここもオッケー。小さな獣は通ったみたいだけど、悪いのじゃない。

 それから畑を覗いた。ここも大丈夫。雑草も生えてない。って、そうだよね。出掛ける前に抜いたんだもん。


 じゃあ、収穫できそうなものがないか、チェックしよう。

 オレは屈んだ状態で茂った葉の中へ入った。

 ちなみに、ハスちゃんは畑を荒らそうとしたためルシに掴まってる。すごーく怒られて尻尾がどんよりと垂れてしまっていた。


 オレはと言えば、キュウリとナスの出来具合を……

 ナスの出来を……

 ナス?


「にんげんみたい」


 食べ頃に大きくなったナスの中に一つだけ、変わった形の小さなナスがいた。

 うん、いたんだ。

 手と足がある。

 こういうの、テレビでよく観たな~。ふふふ。面白いって話題になってさ。姉ちゃんたちと一緒になって笑ったのを思い出した。


「ナスちゃん~かわいいねぇ~はやくおおきくなぁれ~」


 歌って応援すると、何故かナスのヘタの部分が動いた気がした。

 びっくりして、じいっと観察すると――。

 小さなナスの手足がひょこっと動いた。


「ええ?」

「……ぴゃっ!」

「ええっ!?」


 ナスに顔ができてる!

 しかも、手と足が動いてる!

 手と足って言っても、指はない。全体的にぬいぐるみ的な形だ。そう、国民的アニメの猫型ロボットみたいな――。


「ぴゃ!」

「わぁ!! えと、こんにちは……?」


 異世界ってすごい。野菜まで進化するんだ。

 オレは驚いて、ふとあることに気付いた。野菜このまま食べていいんだろうか。

 もちろん、この目の前の動くナスは食べないよ?

 ……そもそも食べれるわけないよね!?

 動いてるんだよ。意思表示するナス。

 うん? でも待って。獣だって魚だって動いて……。


 オレは考えるのを止めた。


 オレが一人震え上がっていると、ルシが畑の外から声を掛けてきた。

 動かなくなったことがバレたみたい。

 わさわさした葉の隙間から覗いて「ムイちゃん?」と心配そう。オレはそれを聞いてホッとした。


「ルシー!! なんかすごいのがうまれたー!!」

「すごい? なんだろうね。とりあえず、そこから出ておいで」


 と言うから、オレは四つん這いのまま後ろに下がった。すると、小ナスがぴょんと飛び跳ねて。

 ぴょんと……。


「きゃー!!」

「ムイちゃん!?」

「ナスが! ナスが!!」

「ナスがどうしたんだい?」


 ルシの慌てた声と、オレの足が掴まれるのは同時だった。オレの足が見えたからルシが持ったみたい。そしてそのまま引きずり出されてしまった。

 でもさ。畑は柔らかい土だけど、引きずらなくてもいいんじゃないかな!?

 だけど、おかげでルシにすぐ会えた。オレを急いで抱き上げ、傷がないことを確認する。その姿はまるで父親みたい。

 オレは嬉しくなってルシに抱き着いた。


「どこにも怪我はないね」

「うん! ルシ、大好き!」

「そうかい。わたしもムイちゃんが大好きだよ。っと、それはそうと、何があったのかな?」


 ルシってば、クール。こんなにいい父親はいないよね。顔はちょっぴり恐い蜥蜴顔だけど。

 オレは説明しようとして畑を指差した、ところで、例の小ナスがわさわさの葉の間からひょっこり顔を出した。


「……あのこが、とつぜんうごいたの。しかも、ぷちってじぶんではずれて」


 ホラーだよね?

 まあ、野菜が動くこと自体がホラーなんだけど。もっとホラーなのは繋がっている頭の蔓(?)を自分で外して飛び降りたことだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る