第17話 お姫様と友達に




 お姫様はよく分からなかったみたいだけど、秘書のセバスさんが教えてあげてた。侍女のメアリさんと共に「ええっ!?」とか「狩り!?」と驚いていたけど。

 ところで、オレはセバスさんのことをセバスちゃんと呼びたい衝動に駆られていた。

 ……いいんじゃないかな? いいよね。うん。


「セバスちゃん?」

「あ、はい。え、ちゃん、ですか?」

「ダメ?」


 とてとて近付いて上目遣いでお願いすると、セバスちゃんは口を手で覆って震えた。

 同じく立ったままのメアリさんも、ふるふると震えている。

 お姫様は「きゃぁ」と小さな声を上げた。


「い、いえ、構いません。大丈夫でございます」

「ホント!? わーい!!」


 喜んで万歳し、ぴょんぴょん飛び跳ねるとハスちゃんも「わふわふっ」と飛び跳ねた。白モフちゃんも一緒になってるけど、やっぱりどこか貴族っぽい。

 イケメンがどんなに格好悪いことをしても格好良いようにしか見えない法則。あれだね。


 オレはハスちゃんに同情した。

 でも大丈夫。

 お笑い要員の方がモテるらしいから。姉ちゃんたちが言ってたんだ。

 そう言えば姉ちゃんたちは、こうも言ってたんだけど――。


「ムイちゃんったら、本当に可愛いわ」

「それは認めざるを得ませんわね。確かに、可愛い獣人族です」

「メアリも同じね」


 ――可愛い系の男はモテない、と。


 ううん、そんなことない。だって、二番目の姉ちゃんは違うって言ったもん。

 可愛い系男子が好きな肉食系女子もいる、と。

 肉食系……。

 待って。ものすごく思い当たる人がいる。

 オレの主、完全に肉食系だよね!

 リア婆ちゃん!!


「どうされましたか? ムイちゃん?」

「あら、どうしたのかしら」

「もしかして……」

「メアリ、分かるの?」

「ええ、もしや、ですが。わたしくが愚考いたしますに、子供といえども男の子です。可愛い、と言われてショックだったのではないでしょうか」

「まあ」

「それでしたら、わたしにも覚えがございます」

「そうだったわね。セバスは竜人族の中でも細身だからと、いろいろ言われたのよね」

「はい」

「分かりました。ムイちゃんには言わないでおきましょう。ね、ムイちゃん。安心してね。大丈夫よ。あなたは格好良いわ」


 オレはハッとして、意識を戻した。

 リア婆ちゃんが肉食系だから嫌いだとか、そういうのではないんだ。

 ただ、ただね? 筋肉モリモリの女性に追いかけられる妄想をしてしまって!

 リア婆ちゃんは好きなの。

 でもそれはお母さんみたいなお婆ちゃんみたいな、そういうのだから。


 できれば可愛い女の子とお付き合いしたいです。


「ムイちゃんがモリモリの人になれば、いいんだ!」

「え?」

「リア婆ちゃんよりもムキムキになる! あしたからとっくんしなきゃ!」


 オレの宣言をお姫様たちはポカンとして聞いていた。

 部屋の端で待機していたルシが、慌ててオレを回収したけど時すでに遅し。

 客間は微妙な空気になってしまった。



 リア婆ちゃん、すっごく尊い存在で崇められているらしいからね!

 でもムキムキなのは真実だと思うんだけどなー。

 ま、いっか。

 その後、お姫様が帰る時にも見送りに出て、オレはまた会う約束をした。

 お姫様はリア婆ちゃんだけじゃなくて、オレ自身にも興味があるらしい。これから筋肉ムキムキになるのを見ていたいのかも。ふっふっふ。


「じゃ、またこんどね!」

「ええ。王都に来たら教えてね。デートしましょう」

「おひめさまとデート!!」

「ふふ。ムイちゃんにエスコートしてもらいましょう」

「がんばるの! まかせて!」


 メアリさんはちょっぴり恐い顔になったけれど、オレを見下ろして溜息だ。人畜無害って気付いたっぽい。諦めたように、笑う。

 オレは一生懸命に愛想良くして手を振った。


「セバスちゃんもまたね! ひしょのおしごと、がんばってね!」

「はい。ムイちゃん、ありがとうございます。では、後日またお目に掛かりましょう」


 白モフちゃんを連れて、お姫様一行は帰っていった。

 ハスちゃんが心なしか寂しそう。尻尾が緩く振られている。


「ハスちゃん、またあえるからね。リア婆ちゃんにおねがいしようね。つれてきてって」

「わぉん!」

「おうちにもどったら、はたけにいこうね。おにわでもあそべるよ。川あそびもできるし、たのしいから」

「わぉん!」


 ハスちゃんは寂しかったのなんてもう忘れたみたいに、いつものハスちゃんに戻った。わふわふ言いながらオレを舐める。

 オレたちが玄関先でコロコロ転がっていると、ルシがやって来て首根っこを掴まれた。そして、そのまま二階へ連れられていったのだった。

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