第16話 次の使い魔の仕事は




 リア婆ちゃんは嫌そうな顔になった。

 口にも出した。


「犬を迎えに来たんだろう? そのまま帰ってもらいな。あたしは、ここでゆっくり過ごしているんだ。邪魔はされたくないよ」

「では、そのように。ムイちゃんを連れていきますがよろしいですか?」

「おや」

「どうやら、ムイちゃんが気になるようです」

「そうかい。じゃ、そうしな。ムイ、あんたの次の仕事だよ。お姫様を見送ってあげな」

「はーい!」


 お仕事なら仕方ない。

 オレはまた一階に行くことにした。当然のようにハスちゃんも付いてくる。一応、言っておかねば。


「ハスちゃん、おきゃくさんのまえでぶつかるのはきんし。わかった? あと、白モフちゃんにもだよ? おわかれするから、ペロペロするのはきょかするね」

「わぉん!」

「もう、ほんとにわかってる?」

「わぉん!!」


 分かってない、絶対に分かってない。

 でも躾とは一朝一夕にはいかないのだ。ルシもそう言った。オレも三年育ててもらってるけど、ルシに注意をされるんだ。

 犬のハスちゃんは何年かかることやら。

 オレは半ば諦めて、ハスちゃんと一緒に一階へ向かった。




 広間には誰もいなかった。ルシが言うには、お姫様たちは客間に通されたらしい。

 客間って、リア婆ちゃんが今いる部屋じゃないの?

 ルシは小声で「リア様のお部屋は最上級の客人用なんだよ」と教えてくれた。お姫様が通されたのは次のお部屋らしい。

 重大な事実に、オレはお口チャックを決意した。


 客間に入ると白モフが飛んできた。

 やっぱり、ハスちゃんじゃなくてオレに向かってくる。愛されてしまったのかしら。


 お姫様はちょっぴり寂しそうな顔だけど、微笑ましそうに笑ってる。白モフちゃんが可愛いんだね。

 うちのハスちゃんときたら、そういうの全く気にせずオレと白モフちゃんに交ざって尻尾ふりふりしてる。うん、まあ、可愛いんだけどね!


 お姫様は「カルラ王女十二歳」なんだって。秘書さんも侍女さんも通さずに、ご挨拶した。オレももちろん「ムイちゃんです!」って名乗ったよ。

 侍女さんは恐い顔だけど、カルラ姫も秘書のセバス(……)さんも笑顔だった。


「では白竜様の使い魔をしているのね。ムイちゃん、小さいのに偉いわ」

「えへー」

「それに、リボリエンヌを見付けてくれたわ。お仕事ができるのね」

「うふー」


 褒められて嬉しくて、つい体がくねくねしてしまう。

 尻尾も動いちゃうのは仕方ないのです。


 お姫様はずっと笑顔で、オレの尻尾を見ている。分かる。分かるよ。オレの尻尾モフモフしてるもんね! オレも大好き。これを抱っこして寝るのが気持ち良いのだ。

 獣姿の時はなんとも思わないのに(追いかけちゃうこともあるけど!)獣人姿になると気になる。これは魅惑の尻尾なのです。ふふふ。


「ムイちゃんは普段、何をしているの? 白竜様のお屋敷にいらっしゃるのよね?」

「リア婆ちゃんのおうちは、おやしきじゃないよ?」

「そうなの?」

「うん。えっとね、リア婆ちゃんはかいこしゅぎなの。ろぐはうすの、ちょっとすごいかんじ?」

「……そ、そうなのね。ムイちゃんはそこでお仕事してるのね」

「ムイちゃんのおしごとはあそぶことだよ!」

「そうなの?」

「リア婆ちゃんが、小さいときはあそびなさいって。でもちょっとだけなら、おしごともするよ。きょうもていさつしたの。いまも、おひめさまとおはなしするっていうおしごとだよ!」

「まあ。……わたしとのお話はお仕事なの?」


 お姫様が寂しそうに言うので、オレは慌ててソファから立ち上がった。まあ、ソファから落ちたって感じになるんだけど。

 それで、テーブルを回って、お姫様に近付いた。侍女さんの目がキラーンってなるけど、恐くない。


「リア婆ちゃんのかわり、っていみなの。おしごとじゃないよ! すっごくたのしいよ!」

「まあ。ありがとう、ムイちゃん」

「いいの!」


 それから普段何をしているのか聞かれたから、お庭で遊んでいる話をした。


「はたけのおせわもしてるんだよ。ムイちゃんがつくったナス、そろそろたべごろなの」

「偉いわね。畑まで作っているなんて」


 本当はルシがほとんどの世話をしているけど、オレだって虫を取ったりしてるからね。夢中になって虫取りしてたらフラーッとなってしまって、怒られたこともあるけど。その後に「ムイちゃんは狭いところにも入れるし、しっかり虫取りしてくれるから助かるよ」って褒めてもらったのだ。

 オレ、素質あるんじゃないかな?


「じきゅーじそくなんだよ。おにくとおさかなはリア婆ちゃんがたんとうだけど」

「まあ。白竜様が買いに行かれるのね。お店はどこかしら?」

「ん?」

「お店のことまでは知らないわよね。白竜様と同じお店のものを食してみたいけれど……」


 お姫様はリア婆ちゃんが好きなんだー。同じ物を買って食べたいだなんて。

 ていうか、そっちの「かう」じゃない。

 オレはしゅたっと右手を挙げた。


「どうしたの、ムイちゃん」

「リア婆ちゃんはもりにはいって、えものをかってくるんだよ。シュパーッとやって、ドパーッとしたら、こーんな大きなまものがかれるの」


 こーんな、と両手を目一杯広げて示してみた。逆ハの字にしたので、その延長線にある大きさだと想像してもらえると思う。

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