第15話 秘書さんの名前とお仕事
秘書さんは驚いていたけど、感動のあまり抱きついてしまったオレをちゃんと受け止めてくれた。
だってね、ドラゴル国に来てから思ったんだけどね?
みんな強そうなんだ。メイドさんも、実は結構筋肉ある感じで。
オレはちょっぴり拗ねていたのだ。
獣人族だってきっとムキムキになれるはず。そう信じてるけど、オレ、
……まさか、ね?
不安に思っていたところで秘書さんが来たものだから嬉しくなってしまった。
むふー。仲間仲間。
あ、噂によると只人族もひょろっとしているらしい。早く会ってみたいものです。
「ええと、君はリスト宰相の? どういう関係の……」
「ムイちゃんはムイちゃんです!」
「あ、いや……」
「リア婆ちゃんのつかいまなの。よろしくね!」
ご挨拶すると、秘書さんは固まってしまった。それからゆっくりと首を傾げ、そのまま立ち上がった。
残されたオレは、ハスちゃんにハフハフされてる。白モフもくっついてくるし、幼児なのであっちへヨロヨロこっちへヨロヨロ。
ヨロヨロしたまま、秘書さんの足にしがみついた。
「まさか、まさか、白竜様の?」
「リア婆ちゃんのこと?」
このお屋敷の秘書お爺さんがそう言っていたので、たぶんそうだと思う。
でも間違ってたら困るので、オレはリア婆ちゃんについて説明した。
「きんにくがモリモリで、おむねがバーンとしてて、こーんな目をしてる? とってもこわくて、でもガッハッハってわらうの。あとねえ、かっこいいツノがこっちにネジネジしてるんだよ。大きさは、これぐらいなの。とってもかっこいいんだよ」
分かりやすい説明に、秘書さんは驚いたみたい。ふふふ。
その間に、倒れてた女の子も身なりを整え終わったようで、こっちへ歩いてきた。
白モフを見て、途中で秘書さんやオレを見る。
オレを見た途端に、女の子は目を丸くした。
「まあ。なんて可愛らしいの」
「姫、いけませぬ。どこの者とも分からぬのですよ」
「素性の知れぬ者をリスト宰相が屋敷で自由にさせているというのですか?」
女の子は十歳より少し上ぐらい? お付きの女性は幾つだろ。いっぱい上。リア婆ちゃんよりは若いと思う。でも女性の年齢は深く追求してはダメなのだ。オレは前世で学んだ。姉ちゃんたちから学ばされた。
よって、お付きの女性については言及しないのである。
女の子はOK。だって女の子だもん!
「失礼なことを言ってはいけませんよ、メアリ」
「……はい」
「それより、セバス。その子がリボリエンヌを見付けてくれたという『客人の子供』さんかしら」
「あ、いえ、まだそこまで伺っておりません」
秘書さんが女の子に返事をしてるのを見ながら、オレは心の中で大きくツッコミを入れていた。
その若さでセバスなの!?
どうせなら、このお屋敷にいる勘違い突っ走り秘書さんがセバスであってほしかったよ。セバスは執事の名前に付けたいナンバーワンだけど、こういうのじゃなかった!
オレが密かにショックを受けていると、二階からルシが下りてきた。
様子を見に来てくれたみたい。
あ、そうだ。
オレ、使い魔の仕事をしている最中だった。
「ルシ、ムイちゃんいちじてったいするね!」
「うん?」
「つかいまのおしごと、してくるー!」
そう言うと、ハスちゃんにカムカムして階段を駆け上がった。
……嘘です。
よいしょよいしょって上がった。ハスちゃんがあっという間に追い抜いていくのが、ちょっと悔しい。
とにかく、オレはお仕事の最中なので戻らねばならないのだ。
誰かとすれ違っても気にせず、リア婆ちゃんの部屋まで駆け戻った。えっと、脚色したけど、オレ史上最高の走りで戻った。
リア婆ちゃんには、ちゃんと「おひめさまがきた!」と報告した。
無事にハスちゃんも連れ戻したし、オレって偉い。
あと、秘書さんが細くて竜人族ぽくなかったことや、セバスって名前にびっくりしたことも報告。
ついでに、お屋敷の秘書さんの名前を聞き出したら「ルソー」だって。えぇぇぇぇ。
それで、お仕事も終えてまったりしてたら、ルシが帰ってきた。メイドさんたちも一緒。
「ムイちゃん、お仕事は終わったのかい?」
「おわった! ちゃんとほうこくしたよ!」
「そう。でも、お客様との話し中に突然いなくなるのはダメだよ」
「あっ!」
「ムイちゃんは賢いから、あのお方がお姫様だと気付いたよね?」
「うん……」
「お姫様の許しなく急にどこかへ行くことは、時に無礼だと叱られることもあるからね。気をつけようね」
「はぁい」
しゅん、として謝った。
ルシは怒ってるわけじゃないし、リア婆ちゃんも笑ってるんだけど。
オレ、これでも前世高校生だったのになー。
体年齢に引っ張られてるのか、時々自分でも思考や行動が幼児っぽいって感じる。
まだ三歳だって思ってたけど、せっかく進化したんだし、もうちょっと落ち着いて考えるようにしよう。
オレが決心してるとルシがキリッと報告した。
「リア様、カルラ王女殿下がいらしてます。ご挨拶したいとのことですが、どうなさいますか?」
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