第13話 二番目の息子とペット
ラウはリア婆ちゃんの二番目の息子で将軍様なんだってー。
リスト兄ちゃんは宰相だから、この二人はドラゴル国の重鎮というわけ。
すごいなあ。
オレが尊敬の眼差しで見ていると、二人とも満更でもなさそう。ラウなんて「ふふん」と小鼻をうごめかしている。彼は分かりやすい脳筋タイプのようです。
それはそうと、ハスキーだ。
オレはリア婆ちゃんに呼び名を付けてあげるように言われた。
「……ええとね。んーと。きみのなまえは、ハスちゃん!」
「わぉん!」
「うれしい?」
「わぉん!」
綺麗になったハスちゃんは尻尾をぶんぶん振っている。
まあ、ずっと振ってるんだけどね。
リア婆ちゃんはイケメン顔で、クールに頬を少しだけ歪めて笑う。男だったら絶対にモテてた! と思うけど、今でもモテてる気がする。メイドさんたちがポーッとなって見てるもの。何なの、あれ。
で、本物のイケメンなのに全然ポーッとされてない兄弟二人が、呆れた様子でオレを見た。
「ハスちゃん……。そんな名前にするのか?」
「せめて真名から取ってあげれば良いものを」
「えっ?」
何やら聞き捨てならない台詞が。
オレはリスト兄ちゃんを見た。
「まなって、わかるの?」
「分かるだろう?」
「えっ」
「……いや、そんなに見つめられても。母上か、もしくは使い魔にも視られる者がいたはずだが」
オレは今度はリア婆ちゃんを見た。リア婆ちゃんは相変わらずイケメン顔でオレをじいっと見ている。
三年育ててもらっていると段々分かってくるけど、これは面白がってる顔だ。
「リア婆ちゃん。なんで、ムイちゃんのなまえ、まなからとってくれなかったの!!」
「……っ、ははは!」
リア婆ちゃんは耐えきれなくなって笑い出した。あっはっは、と声を上げて笑うものだから、みんながぽかんとしてる。
でもオレはそれどころじゃない。
真名が分かるなら、そこから付けてくれてもいいのに!!
「ムイちゃんにもかっこいーまなが、あるのに!」
「格好良い、かねえ? ははは。冗談だよ。ほら、暴れるんじゃない。あんたの真名が分かったのは、三歳の時なんだよ。それまで視ようとは思わなかったんだ。小さな生き物の名だからね」
「むぅ」
オレがぽかぽか叩いていると、リア婆ちゃんは喜んでしまった。暴れるんじゃないと言いながらオレを撫でる。
それから、事実を話してくれた。
そりゃ、隔たりがある種族だと真名は見えても読めないって聞いたけどさ~。
オレはむくれてお顔でぐりぐりした。
リア婆ちゃんは笑っているらしく、腹筋で揺れてしまう。
「第一、小さい子に真名は教えられない。それに関する呼び名も、連想されたら困るじゃないか。ほら、機嫌を直しな。その子の真名を教えてやるから。あんたは主だから知っておいてもいいだろうさ。いいかい、耳をかしてごらん」
リア婆ちゃんの目が光った。魔法でハスちゃんを鑑定したみたい。
それから、オレの耳元で囁いた。他の誰にも聞こえないように。たとえ犬でも、真名を守る。それぐらい大事なのだ。
肝心のハスちゃんの真名は「アレクサンダー」だった。
嘘!?
なんで? 犬だよ?
じゃあオレの真名は!?
って思ったけど、それは教えてくれないのだった。子供には教えられないんだってー。
ふん、だ!
その後、従魔契約をするといいと勧められ、リア婆ちゃんが魔法を掛けてくれた。
ちなみに主がオレで従がハスちゃんなので、真名はハスちゃんの分だけあればいい。従う方の名前が分かっているとOKなのだ。
もちろん真名が分からなくても契約はできる。オレもリア婆ちゃんと使い魔契約してるからね。その代わり、ちょっと緩い契約になるんだ。
もっとも、リア婆ちゃんは超上位の存在なので真名がなくともガッツリと使い魔契約できるし、なんなら緩い契約でちょうどいいぐらいなのだそうだ。
そんなこんなで、ハスちゃんはオレのペットになった。
「うれしい?」
「わぉん!」
「ハスちゃんは、それしかいわないねー」
まあ、でも哀しいのよりはいいよね。
というのも、丁寧に洗われてブラッシングされた白モフがメイドさんに連れられてやって来たんだけど……。
しょんぼりしてる。
「どうしたの? いたいいたい?」
「くぅん」
「さみしかったの?」
「ぉん」
白モフが甘えてくる。オレとハスちゃんが仲良くなってて嫉妬したのかな。と、思ったけど、オレに対して甘えるんだから嫉妬でもないか。
ということは、飼い主さんのことを思い出して寂しくなったんだ。
「リスト兄ちゃん! かいぬしさんを、はやくみつけてあげてね!!」
それが一番だよね。
リスト兄ちゃんは、もごもご言いながらも、任せておけとドーンと胸を叩いていた。
ラウも何か言ってるけど、脳筋の人に任せるのは恐いので無視なのだ。
オレがつーんと無視してたら、リア婆ちゃんが腹筋で笑う。オレはやっぱりロデオ状態。甘えていた白モフもぶるぶる震えて変な顔。ハスちゃんはぶるぶるが楽しいみたいで鼻先をくっつけては「わふわふ」と喜んでいた。
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