第12話 保護と保護




 白モフは鼻筋が通っていて、お顔が細くて……なんだっけ? なんとかゾイって名前の犬っぽい。本当に貴族みたいな顔だから、貴族が飼ってても不思議はない。

 ただし、ルシが「貴族に飼われていたかも」といった理由はそれじゃなかった。


「首輪に高価な石が使われているね。犬にこんなものを付ける平民はいないよ」


 というわけで、一度連れて帰ることにした。

 お屋敷の人なら貴族の犬について、どこに届けを出したらいいか分かるだろうしね。何よりも、オレとルシが「この迷子の犬どなたのですか~」って言って回っても、貴族の人たち聞いてくれなさそう。


「はすきーちゃんも来る?」

「わぉん!」


 だよねー。オレはルシを見上げた。ルシはやっぱり困ったような顔で笑うけど、ふうと溜息を吐いて「自分でリア様に頼むように」と言った。やった!

 オレは「わふわふ」騒いでいる野良ハスキーの顔を小さい両手で挟んで掴んだ。


「はすきーちゃん、これからとってもこわぁぁぁい人のところにあいにいきます。そそうしちゃ、だめだよ?」

「わふ?」

「とってもとっても、おそろしいからね!」

「わぉん!」


 あ、これは分かってない。

 そう思ったけど仕方ないよね。ルシもやれやれって顔だけど、オレは一縷の望みにかけるのだ。



 お屋敷に戻って秘書さんに事情を話すと、お犬様、じゃなくて白モフちゃんはメイドさんたちにドナドナされていった。丁寧に洗ってもらえるようです。

 ハスキー? 家僕の人が裏庭でゴシゴシ洗ってくれました。





 さて、オレはリア婆ちゃんに町での楽しかった出来事をいっぱい語って、お話を盛り上げた。

 ねじねじ飴も献上する。

 これでもかって身振り手振りで説明して、リア婆ちゃんがニコニコになってるところへ本題を投下するのだ。


「でね、でね。まよいいぬと、いっしょののらを、かいたいの!」


 むふー。むふー。

 鼻息荒く、ドヤッと宣言した。のだけど、リア婆ちゃんのお顔がちょっぴりね、こわくてね。視線がどうしても定まらなくて、こうウロウロっと。

 ……ふぇぇぇぇん。

 怒ってたらどうしよう。オレはドキドキして、リア婆ちゃんのお顔が見れなくなった。


「ふふ」

「ぶふっ」

「ぐふっ」


 笑ったのはリア婆ちゃん。でも、その背後? 近くで同じように笑った人が二人。

 誰!?

 オレが顔を上げると、リスト兄ちゃんと知らない男の人が立っていた。

 首を傾げていたら、リア婆ちゃんがオレを呼んだ。


「ムイ。あんた、本当に飼いたいのなら、ちゃんとあたしの目を見て言うんだよ。悪いことでもしているみたいじゃないか」

「わるいこと、してないよ!」

「だったら堂々としな」

「う、うん。でもあのぅ」

「どうしたんだい?」

「ムイちゃん、つかいまだから。つかいまが、いぬをかうのって、だめかなっておもったの」

「ふふ。そうかい。でも、ムイは自分でちゃんと面倒を見るんだろ?」

「みる!」

「だったら、やってみな。ま、ルシも手伝ってくれるだろうよ。だけど、頼り切ってちゃダメだ。分かったね?」

「うん! リア婆ちゃん、だいすきー!!」


 たたっと走ってリア婆ちゃんの胸に飛び込む。リア婆ちゃんはちゃんとしっかりオレを受け止めて抱っこしてくれた。

 えへー。

 嬉しくて、お胸に頭をぐりぐりしていると、ゴホンゴホンと咳が聞こえる。

 オレは顔を上げて、そっちを見た。


「だいじょうぶ? おかぜ?」

「……いや」

「リスト兄ちゃんの、おともだち?」

「ぶふっ」

「おともだちっ? いや、俺は弟だ」

「おとーと!!」


 リア婆ちゃんの息子②だ!

 俺はリア婆ちゃんのお腹に抱きついたまま、弟を観察した。リスト兄ちゃんより筋肉がすごい。ていうか、肌が見えてます。見せてるの?

 同じような褐色肌に白い髪の毛なんだけど、弟は短髪だった。えっと、まるで軍隊の人みたい。

 ていうか、格好も軍服みたいな気がするけど……。

 筋肉チラ見せとかじゃなくて、えっと、爆見せ? になってるよ。

 卑猥だって通報されないのかな。

 リア婆ちゃんも結構露出がすごいと思うけどさー。でも女の人だしー。

 あ、そうか。筋肉の人って人に見せるのが好きなんだ。


「ムイ、あんた、変なこと考えているね?」

「えっ。かんがえてないヨ」

「ふふ。あんたは顔によく出るんだ」

「ムイちゃん、れっさーぱんだにもどろうかな! かわいいし!」

「あはは!」

「おふくろ……が、笑ってる、だと?」


 え、そこ突っ込むところ?

 オレは驚いたものの、またリア婆ちゃんに顔をぐりぐり擦りつけた。これで誤魔化せたはず。


「ほら、甘えてないで顔をあげな。この子はあたしの二番目の息子さ。名前は――」

「ラウだ。よろしくな、新しいの」

「ムイちゃんは、ムイちゃんです! リア婆ちゃんのつかいまなの! よろしくね!」

「……あ、ああ。リストが変だったのは、これか」

「リスト兄ちゃん、へんだったの?」

「ラウ! 余計なことを言うな」


 リスト兄ちゃんが慌てて止めてる。そっか、変態な部分をバラされそうになったんだな。弟って、そういうところ、あるのかも。

 オレも前世では弟ポジションだったけど、姉ばっかりだったからね。男兄弟って、ちょっぴり羨ましい。

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