第11話 お買い物と迷子




 本屋さんでも大興奮で、オレは絵本をいっぱい買ってもらった。

 あと、イラストがいっぱいの本も。薬草の本や魔物の生態に関する本はリア婆ちゃんの書庫にもあるんだ。だけど、もうちょっとね、イラスト~って感じのが見たかったの。

 種族ごとのお洋服や装飾品に関するもの、幻想的な風景画を集めたもの。

 ちょっと女の子っぽいものが好きなのは、姉ちゃんの影響かな?

 でも、ルシは何も言わなかった。


 洋服も見たよ。買わなかったけど。

 ルシが、作ってくれるんだって。ルシは布や糸をいっぱい買ってた。オレが注文を付けるのが嬉しいから、欲しいものは自分が作るんだって張り切ってる。


 屋台で買い食いもした。あれもこれも食べたいのに、オレの小さな体では食べきれない。しょんぼりしてたら、ルシが一つずつ買って収納袋に入れてくれた。食べたいときに食べられるように、だって!

 肉の串焼きや甘辛いタレの肉団子、ピリッとする揚げ魚を挟んだパンと、いっぱいある。


 もちろん、お菓子も売ってたよ。もちもちの皮に包まれた餡の饅頭、揚げた丸いドーナツみたいなもの。果物を摺り下ろしてから凍らせたシャーベットもあった。


 屋台だけじゃなくて、お店にも入った。ガラス越しに見える色とりどりの飴が気になったんだ。べたっと張り付いていたら、ルシに笑われてしまった。お店の人にも。

 中に入ると、飴の専門店だって教えてもらった。いっぱいありすぎて何を選んでいいのか分からない。

 興奮して見て回っていると、ねじねじの飴を発見した。


「ルシ、これ! これがいい!」

「少し大きくないかな。ムイちゃんが食べるのは難しそうだよ」

「リア婆ちゃんにおみやげなの」

「……なるほど」

「リスト兄ちゃんにも、ついでに」

「ついで、か。ははは。じゃあ、どれがいいかな」

「うーんとね。このあかいやつ。ねじりぐあいがかっこいいのが、リア婆ちゃん。ほそくて、あおいのがリスト兄ちゃんね」

「……角で判断してるのか。ひょっとして、向きも同じのを?」

「そうだよ」


 当然だよ、と胸を張って答えると、ルシだけでなく店員さんも笑った。

 竜人族の子供も、ねじねじの飴が好きなんだって。それで必ず、親と同じようなのを見付けるらしい。自分の角は小さいし、鏡でじっくり見ないと分からないもんね。


 そんな風に街歩きを楽しんでいたオレたちなんだけど、そろそろ帰ろうかって話している時に、迷い犬を見付けた。

 毛並みが綺麗で賢そうだし、首輪もしているから良いところの犬っぽいのに薄汚れている。だから、ルシと変だねって話しながら近付いてみた。


「おいでー」

「わたしは離れていよう。どうも怖がられている」

「ルシ、いぬにまでこわがられちゃうの、かわいそー」


 オレが笑うと、ルシは困ったように笑って数歩下がった。

 尻尾を股の間に挟んでいた犬は、途端に尻尾を振りだした。

 オレがおいでおいでと手招きしたら、すぐにやってくる。その時、細い通路から別の犬も出てきた。こっちは正真正銘の野良犬だった。だって汚れ具合がひどいんだもの。


「おともだち?」

「くぅん」

「わふっ!」


 首輪の犬は「そうだよ」と言ってるみたいなんだけど、野良犬は何も考えていなさそう。なんていうのかな、見るからに分かるんだ。

 この子、絶対、脳天気だ! ってのが。

 ……野良犬の見た目がハスキー犬っぽいから言うんじゃないよ?

 実際に、最初から最後まで尻尾を振ってベロベロ舐めてくるのは、どう考えても「何も考えてない」よね。


「しろもふちゃんと、はすきーちゃんね」

「ぉん?」

「わぉん!」

「おなまえ、とりあえずつけてみたの。しろもふちゃんは、たぶんかっこいいのがあるとおもうけど」


 しかも、この世界ではどんな生き物にも真名があるらしい。ひょっとしてびっくりするような名前かもしれないんだけどね。


 あ、この名前についてだけど、生き物の種に大きな隔たりがあると理解できないようになってるんだって。

 たとえば、虫の名前はどうやっても読めないし口にすることもできないんだって。

 あれかな、バグった文字みたいなやつなのかな?


「しろもふちゃんは、まよいいぬだよね~?」

「くぅん」

「はすきーちゃんとは、まよってからともだちになったの?」

「ぉん」

「そうなんだー」


 話しているとルシが近付いてきた。おそるおそるなのが面白い。

 白モフはちょっぴり及び腰だけど、ハスキーは平気。全開で尻尾を振ってる。君、怖いものなんてないでしょ?


 でも、とりあえず――。


「ルシ、まよいいぬはどこにつれていけばいいの~?」

「そうだね、町会に報告するのが一番なんだけど……」


 その先を言わないので、オレが首を傾げていると、笑われた。


「倒れるよ」


 そうだった。オレ、まだ子供だから頭が大きいんだ。

 慌てて戻す。

 ルシは考え込みながら、白モフの首輪に手を伸ばした。白モフはちょっぴり怖がっていたけど、オレが目の前でにこにこ笑ったら落ち着いた。


「この子は貴族に飼われていたかもしれないね」

「そうなの!?」


 やっぱり!

 だって、明らかに高貴な犬っぽものね。あ、ハスキーは違うから。お前そんなに尻尾振ってもお貴族様は飼ってくれないと思うよ。

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