第10話 いざ、街へ




 メイドさんは怒ってたんじゃなくて、オレが可愛いので震えてたみたい。

 名前を呼んでもいいって言われて、ぱあっと笑顔になった。ついでに、ルシが「朝食までの間遊んであげてもらえますか」と頼んだら「喜んで!」とオレを受け取った。

 オレは従者が泊まる部屋に連れて行かれて、メイドさんとシーツ潜り遊びをして過ごした。



 大きな食堂でも秘書さんに変な目で見られたけど、オレはいつも通りにリア婆ちゃんの隣で一生懸命食べた。時々、美味しいのを分けてもらえるのだ。ルシが見てないうちに、ピーマンをこっそりリア婆ちゃんのお皿に入れることもあるんだけど、さすがに今日はしないよ。


 食べ終わったら、早速王都を観光するんだ。

 部屋に戻ってリュックを背負って準備万端でいると、やっぱり笑われてしまった。

 リア婆ちゃんの前に立つと、ソファにだらっと寝転んで出かける様子がない。


「リア婆ちゃん、いかないの?」

「この後、二番目の息子が来るんだよ。面倒だけどね。森の家に来られるよりはマシだから、待ってるのさ。あんたはルシと二人で観光しておいで」

「ムイちゃんたちだけでいってもいいの? つかいまなのに」

「ふふ。まだ子供だからね。ああ、そうだ。お小遣いをあげよう」

「いいの!?」


 いいとも。そう言って、指をパッチンと鳴らす。すると何もない空間から金貨が!


「わ、わ!」

「そら、ちゃんと受け止めるんだ。財布は持ってるのかい?」

「ないよ」

「そうかい。ちょいとお待ち。確か、前に『破滅の三蛇ガラドス』で作った財布が――」


 なんだか恐いことを言いながら、時空魔法の「リア婆ちゃん専用物置」から財布を取り出した。

 ポンと渡されたのは、まんまヘビ柄の財布だった。お金は金貨や銀貨の丸い金属だけで紙はないみたい。だから、硬貨を入れるだけのお財布。


「小さいと思っていたが、ムイにはまだ少し大きいかね?」

「ううん。かっこいいの!」

「そうかい。じゃ、ムイにやろう。盗まれても戻ってくるようにしといてやるからね。ムイ専用の財布だ」

「わーい。ありがとう、リア婆ちゃん。だいすき!」

「ムイは大好きが多いねえ」


 頭を撫でて、オレに財布をくれた。黒いヘビ柄の財布は、男らしくて格好良い。リュックに入れようとして、取り出しにくいことに気付いたからズボンのポケットに入れる。

 でも、大きいから少しはみ出てる。

 うーん、うーんと悩んでいたら、ルシが革紐を取り出して財布に細工してくれた。


「こうやって首に掛けて、ポケットに入れておけば大丈夫」

「うん! ありがとう、ルシ」

「では、行こうか。リア様、行って参ります」

「ああ。楽しんでおいで。ルシもだよ?」

「ありがとうございます」


 ルシもオレも、今日はちゃんとした格好をしてる。

 ルシはいつもは作務衣みたいな形のお坊さんルックなんだけど、今日は着崩した騎士みたいな服を着てる。オレはちょいちょい変身するせいで普段は貫頭衣ルック。ワンピースみたいな服しか着たことなかった。

 でも、今はお坊ちゃまみたいな服だよ。

 白いシャツにサスペンダー付きの黒の半ズボン。お尻にはちゃんと尻尾用の穴もあるんだ。

 ベストを着用してその上からリュック。ジャケットは着ないの。暑いし邪魔だから。


 オレは見送ってくれるメイドさんや秘書さんに手を振って、ルシと手を繋いでお屋敷を出た。




 お屋敷は王都の中でも王城に近くて、オレが行ってみたい街中には程遠い。

 ずーっと歩くのかなーと思っていたら、ルシが「辻馬車に乗ろう」と言ってくれた。

 本当はお屋敷の馬車も使っていいそうなんだけど、オレたち使い魔だし、偉い人の馬車は目立つんだって。


 それで辻馬車を使って街へ向かった。

 馬車に壁はなくて、景色は見放題。オレは「あれはなに」「これはなに」って質問しながら、馬車からの景色を楽しんだ。


 下町でも少し治安のいい地区へ着くと、商店街を歩いた。

 竜人族の国だから、やっぱり竜人族が多い。だけど、ねじねじの角は控え目だった。

 ルシにこっそり聞くと「リア様やリスト様は貴種であらせられますから」との答え。つまり、偉い人(?)になればなるほど、ねじねじも強化されるみたい。


 竜人族以外の人も歩いている。獣人族や角人族が多かった。只人族は見かけない。


「ねえ、あの人たち、なんであんなかっこうなの」

「獣人族や角人族か。あれは冒険者だね」

「ぼうけんしゃ!!」

「ムイちゃんは、そう言えば冒険者の話をすると喜んでいたね」

「だって、ぼうけんだよ?」

「ははは」


 子供が一度は憧れる職業じゃないのかなあ。

 オレの目が興味津々だったからか、ルシは冒険者ギルドに寄ってくれた。


「おー。かっこいい」

「あそこで依頼を調べて、受けたいときは紙を持って受付してもらうんだよ」

「わかるー」

「この間、勇者の物語を読んであげたからかな」

「おもしろかったの!」

「じゃ、今日は本も見に行こうか」

「ほんと!?」

「王都は本屋が多いんだよ。ムイちゃん向けの本もたくさん買おう」

「わーい!」


 そうして興味を別に移されて、オレはギルドを後にした。

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