第6話 長男は複雑
イケメン息子は、長い白髪の上部分をクルクルっと後ろでまとめてる。その姿はまるでエリート秘書みたい。我ながら想像力がすごいかも。三十代ぐらいに見えるイケメン息子を見て、むきゅむきゅ笑う。
リア婆ちゃんはオレをお胸に置いて撫でてくれる。愚痴を零してるっぽいけど、手は優しいんだ。うふー。
そのうち開きになっちゃいそう。と、思ってたら、イケメン息子がじとっとした目でオレを見た。
「新しい使い魔を拾ったから忙しいとおっしゃってましたが……」
「そうさ。あたしだっていろいろと忙しいんだ」
「たまには国へお越しくださってもよろしいのでは?」
「嫌だね。あたしは国民でもなんでもないんだ」
あれ?
親子喧嘩かな。リア婆ちゃんは全然気にしてないけど、イケメン息子の額がピキピキしてきた。
オレは二人の顔をキョロキョロ見て、立ち上がった。喧嘩はダメだ。
リア婆ちゃんがまた何か言おうとしたので前足でむぎゅっとお口を押さえた。
「んんん、どうしたんだい、ムイ」
「きゅん」
「ふふ。あたしには分かるが、リストには通じないよ。そうだ、変身してごらん」
と言うので、オレはぴょんと飛び降りてから「むむっ」と力を込めた。いや、込めなくても変身できるんだけどね。変身シーンって大事だもの。本当はポーズも考えてたんだけど、さすがに恥ずかしいからね!
それでポンと、獣人姿になった。真っ裸だけど三歳児なので全然オッケー!
「……もう進化したのですか? 確か、拾ったのは魔物でしたよね?」
「そうとも。この子は優秀だろう?」
リア婆ちゃんがオレを褒めると、イケメン息子はやっぱり不機嫌そう。
たぶんね、余所の子が褒められてるのが悔しいんだと思う。
オレはその気持ちがちょっと分かる。
姉ちゃんたちは全員できが良くて、両親も祖父母もみーんなが褒めてたんだ。
オレは可愛がられていたけど、病弱だったし引け目もあって。
お爺ちゃんが一番上のお姉ちゃんの大学進学の時にすごく褒めたんだよね。お前は偉い。運動も良くできて頭も良くてって。あの時、オレだって同じように誇りに思ったのに、ちょっぴり悔しかったんだ。
オレも学校行きたかったな、運動もしたかったな、って。
だからね、親や親しい人が余所の子を褒めたら、幾つになっても悲しいと思うんだ。
オレはイケメン息子のところに近付くと、ソファをよじ登って肘置きに立ち、頭を撫でた。
「だいじょうぶ! リア婆ちゃんは、いけめんむすこもだいじだよ!」
「……はっ?」
「リア婆ちゃんは、みためはこわいし、つよいけど。やさしいんだよ」
「あ、ああ……」
「いけめんむすこのばしょは、だれもとらないからね!」
「いや、あの」
「ムイちゃんは、しょせん、ただのつかいまなの」
「は?」
だから安心したらいいんだよ。と、言いたかったんだけど、なんだかあまり伝わってない。間抜けな顔でぽかんとしてる。イケメンがその顔はアウトだと思うよ。
オレはそっと、手で顎を持ち上げてあげた。
優しさはリア婆ちゃん譲りなのです。
すると、リア婆ちゃんが大笑いした。さすがイケメン、男らしい笑い方だ。がっはっは、みたいな。ちょっと違う?
「ムイ。ありがとうよ。この子はいい歳していまだにマザコンなのさ。長男だから厳しく育てたのがいけなかったのかねえ」
「は、いや、母上。それは――」
「我が子なんだから大事なのは当たり前さ。リスト、あんただって分かってるんだろう?」
「あ、はい」
「だったら、三歳の子に慰められてるんじゃないよ。ったく。さあ、ムイ、こっちへおいで」
「はーい!」
ソファから飛び降りて、てってっと歩いてリア婆ちゃんに飛びつく。安定してるから、オレが飛びついてもびくともしない。さすがなのだ。
「ふふ。よしよし。あんたは賢いね。でも、だからかね。考えすぎなところがあるよ」
「ムイちゃんが?」
「そうさ。あたしはね、ムイのことを『ただの使い魔』だなんて思ってやしないよ」
「……そうなの?」
リア婆ちゃんは「気付いていなかったのかい?」と、片方の眉をキリリと上げて、オレのほっぺをびよーんと引っ張った。
「あたしは、使い魔たちを大事にしている。もちろん我が子だって大事さ。だけどね、使い魔も我が子同然なんだよ」
「……そうなんだ」
「そのせいで、リストはどうやら嫉妬をしているようだがね」
「いや、母上、そういうことではありません」
「だったら、毎回あたしの使い魔を睨み付けるんじゃないよ」
「……はい」
「弟たちに厳しくするのも、やめな」
「いえ、それは」
「なんだい。また兄弟喧嘩かい?」
そうではないと必死になって言い訳してるんだけど、なんだかどう聞いても兄弟喧嘩だった。
リア婆ちゃんには息子が五人いるんだって。それぞれ性格が違ってて、長男は頭は良いんだけど愛情に飢えたところがあるらしい。
なるほどなー。
腕を組んで、うんうん頷いた。
何故か長男が変な顔だ。オレの腕が組めてないことに気付いたのかな。
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