第4話 小熊猫の獣人族です!




「ムイちゃんがじゅーじんぞくになったら、にんげんのところにいってもいい?」

「あたしら以外の人間に会いたいのかい?」

「リア婆ちゃんはにんげんじゃないよね」

「広義では人間さ。その中に獣人族や鱗人族がいるんだ」

「……えっ。じゃ、じゃ、つるんつるんで『け』がないのは?」


 オレが戸惑っていると、リア婆ちゃんは「ああ」と気付いてくれた。

 ルシもぽんと手を叩く。


「只人族のことか。リア様、やっぱりムイちゃんは前世があるのですね。教えていない種族のことを知っているとは」

「前世については、また聞いておあげ。そうだね、勉強の幅を広げようか。魔法の使い方も本格的でいいよ」

「わーい」


 魔法の勉強だ!

 そう、オレでも魔法が使えるのだ!!



 って、喜んだのも束の間……。


「でも、ちゃんと使い魔の勉強もするんだよ。お使いの一つもできなきゃ、使い魔とは言えない」

「……はぁい」


 オレのふさふさ尻尾は項垂れた。

 そうそう、オレ、獣人族になっても耳と尻尾は残ってる。それが獣人族でもある証拠なんだ。顔は「人」なんだけどね。

 で、何の獣人族かっていうと――。


「ムイちゃん、じゅーじんぞくでもかわいい! やっぱりレッサーパンダはさいこうなの!」


 リア婆ちゃんとルシは呆れたような、でも可愛いって顔でオレを見ていたと思う。




 その後ルシに教えてもらった。オレは獣人族の中の小熊猫という種族なんだって。

 最初は魔物だと思ってたのにな~。

 使い魔契約したことで進化が早まったとかなんとか。ルシが蜥蜴から鱗人族に進化するのに数十年かかったらしいから、オレ優秀。

 ……だと思ったら、単純に前世が人間だったからだろうってことだった。

 人間がどんなものか分かっていると変身しやすいよね!


 ところで、獣人族っていうのは人の顔や体に、獣の特徴がある人のことを言うんだ。

 元々獣人族の人は獣の姿になれない。たまーに先祖返りって人がなれるらしい。

 あと、オレみたいな「徳を積んで、獣から進化した」種も「獣姿と人姿」どちらにもなれる。これも魔法の一種。


 オレの魔法の勉強が進んだこともあって、自然と変身できたみたい。

 その後、先輩使い魔のルシからビシビシ教育を受けて、自在に変身できるようになった。まだ洋服ごとの変身はできないけどね! ルシがパラッと外れる服を作ってくれたからいいのだ。

 変身自体はルシもオススメしてる。レッサーパンダの獣姿だと愛らしいし、人間姿だと細かい作業ができるから、いろいろお仕事の幅が広がるだろうって。


 ルシは体が大きいし蜥蜴の顔だから、世間的にはちょっと遠巻きにされちゃうらしい。怖がられるんだって。

 同じく、神竜族のリア婆ちゃんも恐れられてるそうだよ。

 まあね。四十代ぐらいの凜々しいイケメン顔に筋肉モリモリの体、その上、頭にはネジネジの角だもん。怖がらない方がおかしいよね!


 リア婆ちゃんには他にも使い魔がたくさんいるけど、可愛いのはいないらしい。

 だから、とっても期待されているんだ。


 分かってるけど、オレ、まだ三歳だからね。

 お勉強よりも遊びが大事なのだ。




 オレの遊び場は家の裏庭。

 家はリア婆ちゃんのだ。大きいログハウスって感じ。前世で姉ちゃんたちが旅行先の写真を見せてくれたことがあるんだけど、外国の山奥にある木組みのホテルみたい。

 お掃除とか手の回らない分だけルシが魔法でやっちゃう。ルシはリア婆ちゃんの身の回りのお世話や、この家の管理を任されてるんだって。

 近くには綺麗な川も流れてるから、遊ぶのには困らない場所なのだ。


 おままごとしたり、ちょうちょを追いかけたり。畑もあって、オレには楽しいことだらけ。

 午前中のお勉強を頑張ったら、お昼ご飯のあとは遊びに行ってもいいことになってる。あんまり遠くに行っちゃいけないのと、おやつの時間は守ること。それがルール。


 獣人姿に変身できるようになったオレはルシの作った帽子を被って、レッツゴー裏庭である。


「えっとー、まりょくがいっぱいあるのは、りゅうの人ー。もりびとぞくは、みみがツンツンしてるのー」


 地面に絵を描きながら復習する。森人族はたぶんエルフのことだ。

 リア婆ちゃんの家にはたくさんの本があるけれど、イラスト入りが本当に少ない。文字ばっかりで説明されるから、前世で培った想像力(に漫画やネットの記憶)がなければ全然分かんないよ。

 でもたぶん、大体のことは分かった。

 ここは魔法もある異世界ファンタジーなのだ。人種もたくさん。


「ムイちゃんはー、じゅーじんぞくー。レッサーパンダのかわいい赤ちゃん……じゃなかった、こどもー」


 尻尾をふりふり木の枝で落書きしていると、影ができた。

 顔を上げたらルシが笑ってた。


「おやつの時間だよ」

「わーい!」

「それと、お客様だからね。おとなしくしていること」

「はぁい」


 返事をして、それから両手を天に向ける。

 ルシは、どうかしたら恐竜みたいに見えるお顔を震わせて、抱っこしてくれた。鱗人族って、見た目で損してるよね。よくよく見ると笑ってるのが分かるんだけど。


「まったく、甘えん坊なことだ。赤ちゃんじゃないんだろう?」

「いいのー。ルシのまえではムイちゃん、赤ちゃんだから!」

「ははは」


 とまあ、甘やかしてくれるのだった。

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