第2話 異世界転生して、拾われ、ました?
なんとなくだけど、神様っぽい人から「この世界に転生させてあげるよ」って言ってもらったような記憶はあるんだ。
だけど、目が覚めて気付いた瞬間から記憶がどんどん抜け落ちていった。
今では「夢だったのかな?」という気持ち。
むしろ夢であってほしい現実が、目の前にあるんだもん。思考停止してる間は現実の時間も止まっててほしいよね。
ていうか、なんでオレの前足に毛が生えてるんだろ。ちっこい前足をひっくり返して見ようとしたら転がっちゃうし。そしたら空が見えて、太陽の周りに二つの衛星とか。
あ、異世界だ。
って、分かった。
そんなことより目の端にチラチラ見えるモフモフの毛が気になった。茶と黒のしましま模様。
制御不能な感じだけど、明らか、オレに連動して動いてるよね!?
たぶん、尻尾だ。
「きゅんっ」
尻尾、って叫んだら、きゅんって……。
そうね。分かった。理解した。
でも理解したのと納得とは別ってことで。
オレは途方に暮れてしまった。
だって赤ちゃんだよ。獣の赤ちゃん! 鳴き声が可愛いったらない。
姉ちゃんたち、ごめん。オレ、生き物の中の最下層にいるみたい。長生きするって約束したのに。
「俺、来世では健康で長生きして幸せになるから、泣かないで」
「バカ。今、長生きして幸せになってよ」
「そうだよ、むっちゃん」
「それより、むっちゃんに『俺』は合わないよ。少し前まで『僕』だったのに」
「ほんとだね。いつの間に『俺』って言うようになったの」
まだ意識があった頃、こんな会話をした。
姉ちゃんたち。来世はあったけど、残念ながらオレはちっこい動物になっちゃったよ。
あと、オレはオレなの。
大人ぶりたいお年頃、って笑ってたけどさ。オレだって、本当だったら高校生だったんだから。
ああ、でも本当にどうしよう。
せっかく生まれ変わったのになあ。
今のところ、まだ怖い獣には出会ってないけど、そこそこ危険な気はするんだ。
だって、オレはどう見たって食物連鎖の下の方っぽい小ささで、モフモフの尻尾からして可愛い。危険動物じゃないと思うんだよ。
「きゅん……」
困ったな。どうしようかな。
うろうろ歩いていたら、茂みがガサガサと音を立てた。思わず毛が逆立った。人間だと鳥肌だ。オレは後ろに歩こうとして、ころんと転がり座った。
あ、もうダメ。
ギュッと目を瞑った。
すると――。
「おや、妙な気配がすると思ったら」
人の言葉だ!!
オレは「きゅん!」と鳴いて、目を開けた。
そこには、背の高いナイスバディな女の人が変わった服装で立っていた。露出の高いアオザイみたいなやつ。
人間に出会えて嬉しくて、思わず尻尾が勝手に動くんだけど、見上げるのがつらい。顔がよく見えなくて、でもここで人間に拾ってもらえないとオレたぶん死んじゃう。
必死に駆け寄って、足下にまとわりついた。
「おや……。あたしを怖がらないとは珍しい」
「きゅんっ」
「ふふ。案外、可愛いもんだ。こういうのも、一つ持ってていいかねえ」
オレはこの時、ちゃんと女の人の言葉を聞いておくべきだったんだ。
でも、森の中に突然、小さな手足の獣で放り出されてるという事実はパニックになっても仕方ないよね?
うん、パニックになるのも当然だ。
けど、やっぱり冷静だったら、違ってたと思う。
ただ、じゃあ異世界の森の中で生きていけたかって言われたら「絶対むりー」だったんだけどさ。
チートでもなんでもなかったし。普通に生まれたての獣だったし。
オレ、女の人に首根っこ掴まれてぶらんぶらんされながら家に連れていってもらった。
そこで言われたんだ。
「あんた、あたしの使い魔にしてやるよ」
「きゅん?」
「使い魔になったら、喋れるようになるよ。魔法も使えるようになる。どうだい?」
「きゅん!!」
魔法魔法!!
オレはもう尻尾を目一杯振ったとも。
喋りたいっていうのは、どうでも良かった。意思疎通できるんだから、そっちの方が大事なのにね。
だけど、そんなことよりも「魔法」って言葉に釘付けだった。
魔法に憧れない子供っていないよね?
一度は考えるよね!
そう、オレだって何度思ったことか。
ベッドの中から、スマホこっち来い! って命じたこと、何度もある。
病院の窓から空へ飛び立つ空想。
それに念力でリンゴを割るんだ。
オレはもう「きゅんきゅん」鳴いて、尻尾を振りに振った。
女の人は顔の前にオレを持ち上げて、にこにこと笑った。
こと、ここに来て、オレは彼女の全体像を知ることになったんだ。
「……きゅん?」
「ふふ。あたしの角が気になるのかい?」
「きゅぅ」
「おや、尻尾が垂れたね。今更、怖がってもどうしようもないよ。あんたは、もうあたしのものさ」
褐色肌に白く長い髪。頭にはネジネジした角。イケメンっぽいキリリとしたお顔。その下の体はナイスバディなんだけど……。
あの、それってもしかして筋肉ですか?
チラッと横目で女の人の腕を見た。それから、オレを持ち上げている右手を。
二の腕が、盛り上がってる?
肩が、山に、なってる?
お胸はかろうじて隠れてるけど、もりもりっと盛り上がってるよね!
あの、もしかして、あなた様は鬼か何かなんでしょうか?
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