あなたに警告です

 昼休みの教室で僕が窓の外を眺めていたときだった。

「すみません」

「ハッ!」

 僕は驚きながら振り向いた。そこにいたのは杏である。


「なんでここにいるの?君、D組だよね」

「今はお昼休みよ」

 杏が至極当然みたいな感じで言葉を返した。


「あなたに警告です」


 彼女は続けて重みのある言葉を口にした。僕の気が必要以上に引き締まる。一体何を警告されるんだ?

「奥原美里愛は、工藤高校の要注意人物です」

「何で?確かにちょっと見せたがりだけど、別にカツアゲみたいな悪いことしてるわけじゃないし」


「はっきり言うわ。彼女は、この日本から、品位を巻き上げているのよ」

 オーバーすぎる言葉を放つ杏に、僕は愕然とした。

「そりゃ確かに美里愛ちゃんは上品なイメージじゃないかもしれないけど、だからってはっきりそんなことを言わなくてもいいよね?」


「いいえ、彼女は露出度高めのコスプレでいろんな場所を練り歩き、民衆を不当に扇情させる、モラルブレイカーよ」

「何でそこまで言うの!?美里愛ちゃんに何か恨みでもあるの?」

「ハッ、もしかしてアンタ、美里愛に惚れた?そうか、美里愛ちゃんのコスプレがあまりにも美しすぎるから、興奮していつも鼻血を」

「確かによく鼻血出しちゃうけど、惚れたわけじゃないから!」


「これは緊急事態ね!美里愛はアンタと香帆を利用して、お下劣なコスプレを美徳とする考えを流布し、この学校の生徒という生徒をマインドコントロールして、地獄絵図を作り出す気よ!」

 杏の強烈かつネガティブすぎる妄想に、僕は言葉を失った。彼女は僕の両肩を掴んで揺する。突然の重すぎるプレッシャーに僕の体が縮みあがる。


「ヒッ!ちょっと待って、急に触ってこないで!」

「アンタ、まだ大丈夫?洗脳されてない?美里愛にイヤな服着せられてない?なんていうかその、セ、セ、セク……」

 杏は再び恥ずかしそうに言葉をためらった。明らかに頬が赤らんでいる。僕は仕方なく助け舟を出すことにした。

「セック○?」


「セクシイイイイイイイイイイ!」

 杏はそう叫びながら、僕に凄まじい平手打ちを放った。あまりの威力に、僕は窓枠に体を預ける形でくずおれた。


「イヤア、どうしよう。なんか、品のない言葉を言っちゃった」

 杏は「セクシー」と言った自分を恥じているようだった。何がそんなに恥ずかしいのか。

「とにかく、美里愛ちゃんに近づいちゃダメ!メよ!わかった!?」


 杏は僕に背を向けたまま、赤ちゃんを叱るような怒声を上げると、スタコラと教室を出た。突然の出来事に、教室中の生徒たち皆が唖然としていた。

 一体彼女は何がしたいのか。

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