自由(J)気ままな(K)コスプレ(C)研究会(K)
「はい、こっちです」
美里愛ちゃんは僕の右手を掴んだまま扉を指差した。
「部屋の許可とか得たの?いきなり入っちゃって大丈夫?」
「その辺の手続きなら私がチャッチャと済ませてるわよ」
美里愛ちゃんは振り向きもせず、自信満々に答えた。
「あとは入学から3週間までに2人以上メンバーがいないと研究会としての活動も認めてもらえないから、その条件を満たすだけ」
「えっ、じゃあ僕じゃなくても」
「コスプレって、私が思っているよりも結構まだまだアンダーグラウンドみたい。要するに理解度が低い。だから最初に誰もメンバーを入れられなくてアッサリ活動終了なんて泣いちゃうからさ、そこで隣人のアンタという名の安全パイよ。私にとって工藤高校で最初に知った同級生、かつ最初にパンツ見ちゃった同級生だからね」
彼女のパンツを見てしまったことで目をつけられた僕は、J.K.C.K.を延命させるための2人目のメンバーとして、安易に選ばれてしまったわけか。
「さあ、入りましょう」
美里愛ちゃんに右手を掴まれたままの僕は、彼女の開けた扉の奥へ連れ込まれた。入口と窓の面を除く壁際にハンガーラックが1台ずつ置かれ、それぞれバリエーションに富んだ衣装がびっしりと並んでいる。
「こんなに、あるの?」
「見たらわかるでしょ、これらは全て私のもの。まあ状況によってはアンタにも着てもらうけどね」
「何!?」
僕は美里愛ちゃんのドヤ顔に戦慄を覚えた。彼女は驚く僕などつゆ知らず、扉を閉めると、その場でスカートのファスナーを下ろした。
「えっ、ちょっと待って!?」
「だってコスプレしたくてたまらないんだもーん」
美里愛ちゃんの腰から、スカートがストンとフォールした。その奥から、水色無地の下着が顔を出す。僕はとっさに左手で鼻を押さえつつ、目を背けてしまった。右手を必死に振るって逃げようとするが、なかなか離れない。クールな見た目とは裏腹に、握力が強い。
「あの、着替えるなら早くしてくれないかな?ていうか何で離さないの?何でこの手を離さないの?」
「アンタが逃げないかどうか、心配でちょっとチェックしちゃった」
美里愛ちゃんの意地悪な人ことを聞きながら、僕は鼻を覆った左手の中に、生温かいものを感じていた。
「大丈夫だよ、逃げないからさ」
と言いながら僕の抵抗は続いたままだ。
「どうして鼻を押さえてるの?」
美里愛ちゃんが僕の顔をのぞき込もうとすると、僕は必死に彼女の視線をかわそうと顔を無軌道に動かした。美里愛ちゃんは毅然と僕の左腕を取った。
「また鼻血出してる。アンタ、体中の血液全部鼻から出す気?」
「そんなわけないじゃん!死にたくないし!」
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「しょうがないわね」
そう呟いた美里愛ちゃんを背に、僕は玄関に向かって段差に座りながら、またも鼻の右側の穴にティッシュを挿し、得体の知れない敗北感に悶えていた。
「すみません」
「とりあえず手を洗ってきて。男の血で衣装汚したくないからさ。ましてやそんな手で衣装には触らないで。触ったら即その衣装でコスプレの刑だから」
「だから何で僕が女のコスプレしなきゃいけないの?ここにあるの全部女ものの衣装だよね?」
「そうよ。だってここは、J.K.C.K。自由(J)気ままな(K)コスプレ(C)研究会(K)なんだから。活動から間もなく神聖な衣装に男の鼻血がついてましたなんて、正直に言えると思う?」
「自由気ままなコスプレが目的なら、僕みたいな男向けの衣装も用意してくれよ」
「私、男装って専門外なのよね~」
美里愛ちゃんは相変わらずのクールな顔でとぼけた。
「はあ、とにかく手を洗ってくるから」
僕は呆れながらも一旦部屋を後にした。
近くの手洗い場で血液を落とす。蛇口を締めたところで、部屋の様子を思い返した。
美里愛ちゃんは一人であんなに衣装を集めたのか。 確かに一朝一夕で集められる量じゃない。それにしても衣装のバリエーションのすごいこと。まさか全部美里愛ちゃんのものなの。美里愛ちゃん全部着る気なの。
今日はどんなコスプレで僕を楽しませる、もとい僕を怖がらせる気なんだ。
定番のメイドかな?いや、 今までの彼女の破天荒な言動を考えれば、「お帰りなさいませご主人様」なんてかえって言いそうもない。
じゃあ何だ?看護師か?いや、診察と称してベットに横たわる僕にまたがったら、僕の病状は余計ひどくなる。
警察官?逮捕された僕を牢屋に入れながら、自分も牢屋に入って……ああっ、これ以上想像したくない。
花嫁か?正面の壁際に白くて重厚でふんわりした衣装が目立っているけどあれ、花嫁の衣装だろ?美里愛ちゃんまだ高校1年生だよね?僕と同じタイミングで入学したばかりだよね?確か日本では女性は16歳から結婚できるけど、男性は18歳だよ?だから僕は違うよね?
でもコスプレで一芝居するのが目的なら、僕は結局彼女の指輪を交換して、誓いのキスをすることになるの?
こんなところで妄想を重ねていたら、美里愛ちゃんに「遅い」と怒られそうなので、大人しく部屋に戻ることにした。
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