16. 豚の角煮(トンポウロウ)
マナハルとの戦いが史上まれに見る平和的かつアホらしい終焉を向かえて、数週間経過したある日の厨房。この日も厨房では、アサクラとジョージアが料理に勤しんでいた。
今日は、晴れて国交を結ぶことになったマナハルから、外交官の一行が到着するらしい。城をあげて歓迎の晩餐会が行われる手はずとなっている。アサクラたちは、その料理の準備のため、朝からとても忙しい。
「貴公」
「んー」
「今は何の準備をしているのだ」
「豚の角煮だ」
「カクニとは」
「豚肉の塊とゆで卵を煮付けて味をつけたものだ。それに茹でた青菜をつけて盛り付ける」
「なるほど。豚のアバラを釜茹でするか」
「アバラって言うな。バラ肉と言え。釜茹では拷問だろうが」
「どっちでも意味は変わらんだろう」
「お前が言うと血なまぐさい」
普段どおりそんな軽口を叩きながら、2人は豚の角煮の準備を行っていく。ジョージアはゆで卵の殻を熱さでヒーヒー悲鳴を上げながら剥き、アサクラはその間、豚のバラ肉の塊を下茹でしていた。下茹でしている鍋の中には、何か白くてふわふわしたものが大量に浮かんでいる。
「その白いものは何だ」
「オカラだ」
「オカラってあれか。潰した豆の液を搾り取ったあとに出来るカスか」
「……これで脂身の脂を吸着して、脂身もさっぱり食べられるようにしている」
「豚の脂をそれで削ぎ落とすか」
「お前が言うとなぜか残酷に聞こえる……」
「失礼なッ」
やがて下茹でが終わり、アサクラは鍋から肉の塊を取り出して適度な大きさに切り分け始めた。ジョージアの卵の殻向きも終わり、そろそろ本格的な煮付けに入ろうというとき……
「アサクラっ!!!」
「……」
「おお、姫」
厨房のドアがドバンと開き、厨房にドアの轟音が響き渡る。ドアを開いたのは、いつもの通りのデイジー姫だ。肩で息をし、額には冷や汗を垂らして鬼気迫る表情。いつもと変わらないデイジー姫が、そこにはいる。
「また来たのか……今日は何だ?」
「ハァッ……ハァッ……ちょっとアサクラ! 隠れさせなさいッ!!!」
「いつもどおりか……今日は何をやらかした?」
息切れ激しいデイジー姫いわく……今日は城内にある歴代国王の肖像画……といっても初代と二代目の2人分しかいないが……すべてに落書きをしてきたのだと言う。
「お前なぁ……もっと他にすべきことがあるだろう……」
「だって! お祖父様の肖像画にちょび髭描いて、頭をハゲにして髪の毛を一本だけにしたらめちゃくちゃ似合ってるんですよ!?」
「似合っていたら何をしてもいいというわけではないだろうがッ!!」
「それで気になってヒイお祖父様の肖像画にも同じ落書きしてみたら、これまた信じられないレベルで似合っていてですね!?」
「ギラギラと目を輝かせて言うセリフではない!!!」
「これは王家の血族として、すべての肖像画にちょび髭とハゲを描かねばならないという使命が芽生えたわけですよアサクラっ!!!」
「もっと他に姫としての大切な使命がお前にはあるはずだぞ!!! なぜそうお前は無駄かつ迷惑なイタズラに心血を注ぎ続ける!?」
「ハァー……ハァー……クックックッ……ァァアアーッハッハッハッ!!!」
「悪の総大将みたいな高笑いと変態極まりない息遣いをなんとかしろッ!!!」
とこんな具合で、デイジー姫とアサクラの軽口の叩きあいも、以前と変わらない。そんな変わらない軽口を叩きながらも、アサクラはテキパキと豚の角煮の煮汁を作っていく。水と酒、ミリンと醤油を合わせて出来た煮汁に、豚肉とゆで卵を入れ、火にかけた。
さて、デイジー姫がイタズラを働いてここに逃げ込んできたということは、そろそろ彼が訪れる頃である。
「姫ッ!!!」
再びドアがドバンと開き、その音でデイジー姫は肩をすくめ、ジョージアは目をハート型に変形させた。アサクラはいつものようにプラスマイナスゼロの表情のまま微動だにせず、ただ顔だけをドアに向ける。
「げえッ!? バル太!?」
「やはりここにいらっしゃったのですかッ!!!」
ドアの前にいたのは、この国の騎士団の副団長バル太。あのアホらしい秋鍋パーティーの最中、デイジー姫の手によって身体のどこかにマンドラゴラを植え込まれるという悪夢に苛まれ続けていた、悲劇の副団長バル太である。
「バル太さまっ!!!」
「おおジョージアさん。それにアサクラ様もお疲れ様です」
「ああおつかれ。姫のイタズラの後始末か」
「はい……おかげで大変です……城内の肖像画すべてにイタズラをされたものですから……」
「しかも狙いすましたかのようにこのタイミングだからな……」
「ええ……しかも運が悪いことに、イタズラを最初に見つけたのがマナハルの外交官ご一行だというのが……」
「……マジか」
「マジです……おかげでオルレアン王家の権威も失墜ですよ……」
と、肩をがっくりと落として説明をするバル太。一方のデイジー姫は、そんなアサクラとバル太の視界からこっそりと外れ、そろーりそろーりと食料貯蔵庫に歩を進めている……が、アサクラの目を盗むことなぞ出来るはずもなく……
「逃げるな姫」
「ッ!?」
と釘を刺され、姫はふてくされたように口を尖らせてチューチュー言わせながら、アサクラの隣に戻ってきた。
「ちなみにマナハルの外交官からは何か言われなかったか」
「ええ。今回赴任された外交官は、先の鍋パーティーでご一緒したあの司令官さんでして」
「あの大物のくせに言動が子供じみててどこかうちの王に似ている司令官殿が外交官か」
「はい。とても気さくな方ですので、見た瞬間に大笑いしたあと……」
『やはりオルレアン王国は楽しいですね。次にマナハルに帰ったときは、私も王家の肖像画に同じイタズラをしてみんなをびっくりさせてやりますよ。ニヤリ』
「と口走ってましたね」
「この国の王族といい司令官殿といい……なぜ、こう……子供じみた変人が多いのか……」
「ええ。まったくです」
ここでアサクラとバル太の視線が、デイジー姫へと移る。デイジー姫はいつの間にか豚の角煮の鍋へと移動していて、獲物を狙う鷹のような眼差しで、鍋の中でコトコト煮付けられている角煮を見つめていた。
「おい姫」
「ひゃいッ!? な、なんですかアサクラッ!!! 私はつまみ食いしようだなんて企んでないですよ!!?」
「まだその角煮には味はついてないぞ」
さて……ここでアサクラは、バル太が気になることを口走っていたことを思い出した。
「あの司令官が外交官としてここに来たということは、シャオリン殿もおいでなのか」
「そうですね。シャオリン様もおいでです。先程の話の続きですが、イタズラ宣言をしてた司令官さんを素手で張り倒してましたね」
――もう容赦しません!!! やめなさい司令官ッ!!! ズベシッ!!!
――げふぅッ!?
シャオリンも来訪しているという事実が、アサクラの胸を熱くさせる。互いに認め合い、似た者同士の苦労人気質であるシャオリンに対し、シンパシーを感じていたアサクラ。互いに似た文化のバックボーンを持ち、なぜか他人とは思えない気持ちを抱いていたアサクラは、またシャオリンと会いたいと思っていた。
出来るなら、晩餐会前に一度会いたい……そう思い、いつの間にか隣に移動していたデイジー姫の顰蹙を買っていたら……
「こんにちはー……?」
三度、厨房のドアが開いた。それも、今回は先程までのように『ドバン』と勢いよくではない。静かに上品とキィと開き、そのドアの隙間から、とても上品な……この厨房では今まで聞いたこともないような、とても柔らかく上品な声が響いた。
その声は、厨房内にいる全員の耳に優しく届いた。ジョージアとバル太を優しく振り向かせ、アサクラの胸を高鳴らせて、デイジー姫の眉間に深いシワを刻み込んだ。
「厨房に行けば、アサクラ様がいらっしゃると聞いたのですがー……」
静かに開いたドアの向こう側に上品に佇んでいたのは、クリーム色のキモノに薄水色の帯を合わせ、その上から薄く透けた羽衣を纏った黒髪の女性、シャオリンだった。
「久しいな。シャオリン殿」
「ああアサクラ様! ご無沙汰してます」
「いや、同じ苦労人同士、あなたにはまたお会いしたいと思っていた」
「上司に苦労させられる者同士、私もあなたとまたお会いしたいと思っていました」
とこんな調子で、時間が空いた後の再開というのに、アサクラとシャオリンは会った途端に打ち解ける。これも、『上の者に苦労させられる者同士』という、似た境遇がそうさせるのかもしれない。
「ジョージア様とバル太様もご無沙汰してます。おかわり無いようで、なによりです」
「貴公も元気なようで何よりだ」
「あなたもお元気で何よりですが……あなたも俺をバル太と呼びますか……」
「アサクラ様からそう教えられましたからね。ダメですか?」
「もうそろそろ観念したらどうだバル太」
「嫌ですよっ!」
とこんな具合で、シャオリンはアサクラだけでなくバル太とジョージアの2人ともすぐに打ち解けた。やはり、あの困惑しかない鍋パーティーを体験した者同士、何か仲間意識のようなものが芽生えたようだ。笑顔が絶えない四人の間で、和やかな空気が流れていた。
ただ、この場にいる人間の中でただ一人、この和やかな空気に入れない者がいるが……
「アサクラ様。私の主が外交官としてこの国に赴任したのはご存知ですか?」
「バル太より伺っている。ではあなたも、この国に滞在なさるのか」
「ええ。私は司令官の側近ですから。これから司令官ともども、この城内で過ごさせていただくことになります。今後はアサクラ様のお世話になることも多いかと」
「そうか。では私の料理を食べることになることもあるだろう」
「ええ。私も楽しみにしています。それに、私にも料理の嗜みはあります。その方面でも、あなたのお力になれると思いますよ?」
「心強い。では今後はあなたのお力を借りる場面も出てくるかも知れないな」
「その時は喜んで。……ときにアサクラ様、この香りは……?」
「ああ。今は晩餐会の料理を作っている。これは豚の角煮だな」
「トンポウロウですか。よい香りですね」
「シャオリン殿の祖国にも、角煮はあるのか」
「はい。もっとも私の祖国のトンポウロウは、もっとスパイスを効かせた香りがしますけど」
「角煮にスパイスをか……どんなものなのか気になるな。いつかそのレシピを教えていただこうか」
「喜んで。その代わり私にも、このトンポウロウのレシピ、教えて下さいね」
「もちろんだ」
こんな具合で、まるで数年来の親友のように打ち解け合うアサクラとシャオリンの2人は、他の3人を蚊帳の外にして盛り上がっている。
そして、この二人の様子に、危機感を持った人物が一人いた。
「くっそ……私のおもちゃが……ッ!!」
「なんだか俺たちを無視して盛り上がってますね……コソコソ……」
「私はァ……ハァー……バル太さまと盛り上がれれば……ハァー……ハァー……」
「呼吸が危険域ですジョージアさん」
「バル太さまぁ……バル……ウッ……ァー……」
「その『ウッ』てところで何が起こったのか教えてもらえますかジョージアさん」
「クッ……こんなどこぞのホースボーンに……私のおもちゃを取り上げられるわけには……ッ!!」
デイジー姫である。互いに意気投合して和やかに盛り上がる2人の様子が、デイジー姫の目にはこのように写ったらしいということを、後日アサクラはバル太から聞かされた。
――シャオリン……私はこれから、あなたのものに……
――アサクラ様……私も同じく、あなたのもの……
「ちょっとあなた!!!」
そんなデイジー姫だから、シャオリン様に怒りを顕にしたのも、後から考えてみれば必然だったんでしょうねぇ……などと意味不明なことを話すバル太は、終始にやついていて非常に不快だったと、後日アサクラは語っている。
「はい? あなたは?」
「私はこのオルレアン王国の姫、デイジー・ローズ・フォン・オルレアンですっ!」
「ああ、あなたが。私はマナハル西方軍所属、ホン・シャオリンといいます。この度、こちらの王国でお世話になることになりました」
「うッ……!?」
「姫。どうかよろしくお願いいたしますね? ニコッ」
そう言って、デイジー姫に優しく微笑むシャオリン。途端にデイジー姫は顔をそむけてシャオリンに背を向けた。アサクラが顔を覗き込んでみると、なぜか顔が青白い。
「姫? どうした?」
「て、手強い……ッ!」
「何がだ?」
「私の挑発に乗らないどころか、あんなにも好感度の高い笑みで私を籠絡しようとしてくるとは……危うく私の気持ちが彼女に心を開きそうに……ッ!?」
「お前が何と戦っているのかさっぱりわからん……」
「ダメなんですよ彼女に負けては!!」
「シャオリン殿は素敵な方だぞ? 勝ち負けなんて……」
「素敵な方だからこそ! 負けられない戦いがあるんですよアサクラッ!!」
「?」
デイジー姫は再び振り返る。そして苦笑いを浮かべて困惑しているシャオリンをギンと睨み、ビシッと彼女を指差して、いつもの大声でこう吠えた。
「アサクラは!!! 私のおも……ゲフンっ」
「?」
「今何を言おうとした姫。ことと次第によっちゃ私が斬るぞ」
「アサクラは、私の嫁です!!!」
「あら。そうなんですかアサクラ様?」
「私は姫との結婚を約束したことなどないッ!」
「あぁなるほど……ぴーん」
「シャオリンとやら! 聞けばあなた、出身はマナハルではないそうですが!?」
「はい。私は極東よりもちょい西より……アサクラ様の故郷と海を隔てて隣同士の国の出身です」
「なん……だと……!?」
「私とアサクラ様、とても良く似た文化圏の出身同士なんですよね〜」
「バカなぁあッ!?」
「その証拠にほら。私とアサクラ様、髪の色と瞳の色がそっくりなんですよ〜」
「わ! わ! 私だって!? アサクラに!? 『キレイな髪と目ですね』て褒められましたし!?」
「……そんなことあったか?」
「ありましたよッ!! 私の許嫁なのになんでこんな大事なこと覚えてないんですかッ!!」
「それに私達、食事の好みも割と近いんですよ? アサクラ様、嫌いな食べ物はセロリでしたっけ?」
「ああ、よくご存知で。しかしセロリの件をシャオリン殿に話した記憶はないが……」
「セロリの味見をして変な顔されてましたから。私もセロリが苦手なんです。奇遇ですね〜」
「バカなぁあッ……!?」
シャオリンの返答一つひとつに慟哭し、白目を向いて口から泡を吹くデイジー姫。そんなデイジー姫を見て、シャオリンはくすくす笑いが止まらない。口を押さえ、実に楽しそうにプププと笑っている。
そんな楽しそうなシャオリンだが……その後のことを考えると、アサクラはとても愉快な気持ちにはなれない。あとからデイジー姫に何を言われるか、わかったものではない……シャオリンを制止するため、アサクラはシャオリンの隣に移動して彼女に小声で話しかけるのだが……
「シャオリン殿……」
「? どうかされましたか?」
「その辺でやめていただけないか」
「どうして?」
とこんな具合で、シャオリンはアサクラの制止を聞かない。ただ、大きな瞳をパチクリとさせ、不思議そうにアサクラを見つめ返すだけだ。
「いや、これ以上姫を煽ると、あとあと面倒なことになる……」
「ぁあー。姫が子供っぽいので、つい楽しくてからかっちゃいました」
「それを止めてほしいんだが……」
それどころか……
「それに、アサクラ様すみません。先に謝っておきますね?」
「……?」
「私、相手が誰であれ喧嘩を売られてヘラヘラ笑っていられるような、情けない女ではありませんから」
アサクラに対してニッと笑みを向けてそう話すシャオリンの瞳は、それはもう、美しくキラキラと輝いている。
その光景を見たアサクラの直感が、『この女はマズイ』とアサクラに告げていた。
「し、しかしィイイ!!? アサクラは、私の許嫁ッ!!! 譲りませんよッ!!!」
「許嫁も何も、アサクラ様自身は否定されてますよーぷぷー」
「!? 決闘です!! こうなったら、オルレアン王家の威信をかけて決闘ですよシャオリンとやらッ!!!」
「いいですよ? 何で雌雄を決するんですか? 剣ですか? 私、強いですよ?」
「クッ……剣など、私には扱えない……ッ!?」
「では2人で料理でも作って、どちらがアサクラ様の舌を納得させられるかの味勝負でもしますか?」
「クッ……私は、料理など……出来んッ!?」
「では一体何で雌雄を決するのですか?」
「し、しりとりとか……ッ!!」
「しりとり……乗った!!」
「では私から行きますよシャオリンとやらッ!! しり!!!」
「リスザル!!!」
とこんな具合で、最後はしりとりで雌雄を決するという、よくわからない状況に陥っていた。互いに一歩も譲らないしょぼい争いは、それを眺めるアサクラの心に影を落とし、徐々にアサクラの気持ちを暗闇へと沈み込ませていった。
アサクラが見るに、このシャオリンという女、物腰は柔らかくとても魅力的な女性だが、どうやら度を越した負けず嫌いのようだ。たとえ相手が王族であれ何であれ……とにかく相手が誰であれ、勝負を挑まれれば決して勝ちを譲らない……そんな、規格外の負けず嫌いの性格なようだ。
「むむむ……やりますねシャオリン……ケツアゴ!!!」
「姫、あなたこそ! ……ごっつぁんです!!!」
その勝負はアサクラたち3人が悲しい眼差しで見守る中、未だに終わる気配がない。
「あの……アサクラ様」
「なんだ……」
そうしてしりとりが未だ終わる気配を見せず、デイジー姫が165個目のワード『かんぴょう』を口走ったときだった。聞いているのももはやくたびれたアサクラの隣で、バル太が申し訳無さそうに口を開いた。
「そろそろ、晩餐会の準備をせねば……」
「だなぁ……しかし、あいつらを止められんだろ……」
「アサクラ様でも、無理でしょうか……?」
「無理だな」
「そんなノータイムで答えられても……」
そんな、くだらない喧騒が厨房内でいつまでも響き続ける中、デイジー姫とシャオリンの叫びに混じって、アサクラの耳に届く声があった。
――ふふ……あさくらっ
それは、懐かしい幼馴染の声。
アサクラの耳に届く彼女の声は、遠い思い出の中の最期の姿ような、血と苦痛に塗れた叫びでは、決してない。
――そなたの話を聞けるのを、私は楽しみにしておるでのう?
特に、自慢の妻の話をじゃ
その声を気のせいだと思いつつ、でも懐かしく感じたアサクラは胸の内で『少なくともコイツラではないわ』と答えた後、ため息をついて苦笑いを浮かべた。
厨房内には、豚の角煮の良い香りが少しずつ少しずつ漂いはじめ、アサクラたち五人のハラヘリを刺激し始めていた。
ちなみに余談だが、デイジー姫とシャオリンのしりとり対決は実に語句数17863を超え、姫が自国名『オルレアン』を答えたところで、その幕を閉じた。
「バカなぁぁぁああああ!!? このままではアサクラが寝取られてしまうぅぅううう!!?」
「アッハッハッハ!!! アサクラ様はいただきますよデイジー姫ェェエエ!!!」
そしてこれはさらに余談だが、こんなしりとりの激戦が行われている中で晩餐会の準備など行えるはずもなく、晩餐会はかなり時間が遅れて開催された。アサクラは謁見の間にて、その責任を王に厳しく追求される羽目になった。
「うう……ひぐっ……アサクラぁ……」
「も、申し訳、ございませぬ……」
「予はね? アサクラを信じて……ずっと、待ってたんだよ? ひぐっ……」
「か、返す言葉も、ご、ございませぬ……ッ」
「お腹が空いても大臣から怒られても、外交官殿に笑われても……ずっとずっと我慢して、待ってたんだよ……?」
「ひ、平にご容赦をぉぉおッ!!?」
おわり。
【完結】姫さまと宮廷料理人。ちょくちょく騎士副団長。あとから暗殺者 おかぴ @okapi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます