あついはきらい
オグリアヤ
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あたしの嫌いなもの。
手で切れないシャンプーの詰め替え。
断ってもしつこいエステの営業。
あとは、夏、全般。
「あーつーいー」
ぬるくなったお湯をぱちゃりと足で蹴飛ばし、あたしは目の前の豊満な身体に抱きつく。
やわこくて、ちょっとじっとりしていて、熱い身体。
「なら、1人で入ったらいいんじゃないかなぁ」
ぽつりと呟いて、尚代は口をとがらせた。ふてくされてるのもかわいいなぁ……なんて思いながらも、その首筋にキスを落とす。
「だって夏のお風呂って憂鬱でしょ?2人で入った方がまだ楽しいじゃん」
「それならシャワーだけでいいと思うんだけどなぁ」
尚代の言うことはもっともだけど、でもシャワーだってあたしは浴びたくないくらいなのだ。
ただ暑さが今すぐなくなって、汗も全部霧になって消えて、きれいな身体でこの子とキスをしたい。
(そう願うのは悪いことじゃないでしょ)
そんなことを考えながらも手を伸ばして、おなかのあたりに手を置く。
女の子のやわらかいおなかは、ここからじゃよく見えない。ただ、色っぽい胸元だけが視界に入った。
「あつ……やっぱり、もう出ていい?」
「え、あーうん。いいよー」
「ありがと」
軽い返事に、やさしい微笑みが返ってくる。
湿った髪をひとまとめにした尚代は妙に色っぽくて、あたしは思わず見とれてしまった。
そのままバタバタと浴室から出ていって、ドアの向こうに置きっぱなしだったバスタオルを取りに行く。すると、しばらくして浴室の外から声が聞こえた。
「あ、ねぇービール飲んでいー?」
たぶん、冷蔵庫の中を漁ったんだろう。アルコールは苦手な彼女だけど、なぜかこういう時だけは飲みたがるから。
「あたしにもちょうだいよ」
「えー、いいよ」
「なんで一旦ごねるかなぁ」
バスタオルで身体を吹きつつ、手早く体をくるむ。すでにバスローブ姿になってる尚代は、その言葉とは裏腹ににこにこと楽しそうな笑みを浮かべた。
冷蔵庫の棚の中から1本ずつ缶ビールを取り出し、彼女は目を細める。
「飲んで、エッチしたら、今日で最後だからね」
その言葉に、あたしは小さくうなづいた。
右手にはやたら価格の高い缶ビール。尚代から差し出された缶に角をぶつけると、ぱきんと間抜けな音がした。
「じゃあ、これは暑気払いってことで」
喉を通り抜けていく苦味が、舌を刺激する。
目の前の尚代は一口だけビールを口に含むと、薄く笑ってバスローブの紐を解いた。
「ねぇ、あなたのこと、ちょっと好きだったよ」
「……いまさら」
あたしは小さくつぶやいて、そのくちびるを追いかける。
だから、夏は嫌い。
熱が冷めたあとのことを、考えてしまうから。
あついはきらい オグリアヤ @oguri_aya
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