第40話 めーぷるちゃんの情報
「めーぷるちゃんについてもっと知っておく必要がある。榊さんの知る限りの情報を教えてもらいたい」
「そういうことでしたらご協力します。それで何を知りたいのですか?」
「まずは普段彼女がどういうスタイルで配信をしているかを知りたい」
式の質問の意味が、榊にはイマイチ理解できていない。
「というと?」
「えっと、例えばゲーム実況中はヘッドフォンをしているとか、パソコンの画面はどの位置にあるとか、電気はつけているかとか、そんな感じのこと」
「それでしたら、めーぷるちゃんは基本的には配信を行う時はヘッドフォンを着用しています。パソコンのモニターについてはわかりませんが、電気はつけずに暗闇の中で配信していますよ」
「それは何でだか、理由はわかる?」
「先程樅さんも言っていたストーカーですよ。窓から見える位置でその人物から見られているのが怖くて、カーテンを閉めて電気も消して自分が家にいないように見せているようです」
「なるほど」
少し考える。
「ちなみに、なんでストーカーに見られるようになったのか、その原因って話していたことある?」
「めーぷるちゃん本人が話していたことはありませんね。私の見解でも、特にSNS上で個人を特定するような情報を出しているようには見えませんし、少なくともネット上のめーぷるちゃんファンが個人を特定してストーカーになったようには思えないですね」
榊の意見では、ネット上ではなく現実でのめーぷるちゃん、つまり松永楓個人を知っている人物がストーカー行為をしているのでは、という。
「桐さん、楓さんは何か友人関係で悩んでいたりとか聞いていませんか?」
「そもそも、あの子に友人はいないのよ。高校生になってからひきこもってばかりで家から出ることも稀という感じで。碌に学校にも通っていないし、一応近くの高校に籍だけはあるけど、ほとんど通っていないから留年はほぼ免れないでしょうね」
「つまり、楓さんは引きこもりだったというわけですね」
式の頭の中で、真実が見えてくる。
「式くん、消防に確認してみたが、消火活動を行うときに事件現場の部屋の窓は開いていたらしい」
「わかりました。ありがとうございます」
隼人からの確認も取れた。
「榊さん、めーぷるちゃんはSNSをやっているってことだけど、そこで配信の告知とかやってたりしない?」
「していますよ。月初に今月の配信予定をSNSに投稿していますので、ファンはその予定表を見て配信待機をしているのです。私も時間が合えばいつも待機していますよ」
「最後に桐さん樅さん、楓さんの一日の生活スケジュールを知っている限りで教えてください。たとえば何時に朝食を食べるとか、何時に就寝するとかです」
「自分の娘のこととはいえ、あまり詳しく知らないけど……」
桐と樅は知っている限りのスケジュールを答えた。
「まず、起きるのは大体午後一時くらいです。毎日夜更かししているので朝に寝る生活を送っているんです」
「そうなのよね。たまに一日中起きているときがあって、私が夜勤に行って帰ってくる間もずっと騒がしいから、ある意味寂しくなくて助かるけど」
「それで、朝食というか昼食を食べるのが午後二時くらい。そこからはずっと部屋に引きこもって夜の十一時くらいに夕食を食べてお風呂に入っています」
「たまにお風呂に入らない日もあるよね。特に冬の日なんかは一週間くらい入ってなかったときもあったし」
流石にそこまでの情報は得る必要はなかったが、これでも十分な収穫だ。
「就寝時間についてはわかりません。私が朝起きるのが六時頃なんですが、その頃には寝ているようですし、多分夜中の三時か四時くらいに寝ていると思います」
「就寝時間がわからないということは、毎日夜更かししているというのもわからないのでは?」
「夜中寝ているときに結構聞こえるんですよ、あの子の声が。ゲームか何かをやっているんでしょうが、うるさくて目が覚めてしまうこともあります。以前はその度に注意していましたが、最近は気を遣うようになったのか、なるべく小さな声でやっているみたいです」
「あ、それ私も休みの日は聞いてるよ。夜中にうるさくてたまんないし」
どうやら、昼夜逆転生活で家族には迷惑をかけているようだ。
「貴重なお話ありがとうございます。大体この事件の真相が見えてきました」
「ということは式くん……」
榊は期待の眼差しで見てくる。
「どうやって部屋を爆発させたのか、犯人は誰なのかをお話します」
それに応えるかのように式は言った。
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