第39話 現場捜査②

「式くん、爆発の原因がわかったぞ」


 と、隼人が話しかけてくる。


「何だったんですか?」

「どうやら、エアコンにガスが注入された跡があったらしい。調べてみると確かにガスの臭いが仄かに残っていた」

「エアコンにガスが注入って、どうやってですか?」

「恐らく、エアコンのドレンホースから注入したのだろう。ドレンホースには虫が侵入することもあるから、そこからならガスを注入することも不可能じゃないかもしれない」


 ドレンホースとは、エアコンから出てくる水を排出するためのホースである。隼人の話によると、ここからガスが注入された可能性があるのではないか、という。


「ということは、事件当時この部屋はガスで充満されていたということですか」

「そういえば、めーぷるちゃんの放送中にもそのようなことを言っていた気がします。『何か変な臭いがする』と」


 式もめーぷるちゃんの配信内容を思い出す。

 確かにそのようなことを言っていた覚えがあった。


「ということは、これは仕組まれた殺人、いえ殺人未遂であることが発覚したというわけですね」

「でも、それなら何故今はガスの臭いがしないんだろう」

「この部屋の窓は今も開いているではありませんか。恐らく消火活動の際に開けた窓でしょうが、これならガスの臭いも逃げていくことでしょう」

「……」


 式は樅に視線を向けた。


「樅さん、あなたが楓さんを救出するとき、部屋の窓を開けましたか?」

「え、いや、私は開けてないわよ」

「そうですか」


 式は少し考え、


「隼人さん、消防の人に消火活動を行っていた時にガスの臭いがしていたかどうかを確認してもらってもいいですか?」


 と頼んだ。


「わかった。連絡しておこう」

「あ、そういえば……」


 何かを思い出したように、樅が話す。


「確か楓って、最近ストーカーに悩んでいたって言ってたわ」

「ストーカー?」

「ええ。なんでも、最近自分の部屋の窓から見える位置からこっちをずっと眺めている怪しげな男がいるんだって」

「それ、私も聞いたことがあります」


 榊が同意する。


「めーぷるちゃんのSNSにも書かれていました。最近怪しげな人物の視線を感じていると」

「なるほど、それも調べておいた方がいいな」

「……」


 もしかしたら、そのストーカーとやらが犯人である可能性もある。

 その線を追う必要も出てきた。

 だが、式には疑問が生まれていた。


「でも、そのストーカーが犯人だとしたら、どうやってエアコンにガスを注入できたんだろう」

「このベランダから侵入したのではないでしょうか。どうやらこの部屋にはベランダがついているようですし」


 榊はベランダに出て外を確認する。


「この柵にロープでも巻き付けておけば、外から侵入することも不可能ではないでしょう。そしてエアコンのドレンホースからガスを注入すれば、仕掛けは完了です」

「うーん……」


 式もベランダに出てみる。

 確かに榊の言う通りにできなくもない。


「桐さん、この部屋の真下って、何がありますか?」

「先ほどまで私たちがいたリビングがありますよ」

「なるほど、ありがとうございます」


 少しは考えがまとまってきたようだ。


「少しはわかってきたかもしれない。けど、最大の謎が残っている」

「それは?」

「この部屋がガスで充満していたことは事実だろう。でもガスが充満しているだけじゃ爆発はしない。ガスが爆発する原因となったものが判明していないんだ」

「確かにな。それは気になるところだが……」


 部屋をいくら探しても、それらしきものは見つからない。


「部屋がガスで充満しているなら、小さな火花が散っただけでも爆発しそうですが。それならめーぷるちゃんが気づかないうちに火花が散るような動作をしていたかもしれません」

「確かにその可能性も十分考えられる。でもガスをエアコンのドレンホースから注入していたということは、これは計画的に仕組まれたことのはず。ということは、自分で爆発させるタイミングを計っていたはずだ」

「確かにそうですね。めーぷるちゃんの行動に頼った犯行では、彼女がガスの臭いに気づいてすぐに換気をしていた可能性もありました。それでは計画も全て破綻してしまい、意味のないものとなってしまいますね」

「だからこそ、犯人は自分の意思で爆発できるようにしておいたはずだ。恐らくそれが何かしらのトリックだと思うんだけど……」


 頭を悩ませる式。


「あら、これは……」


 榊があるものを拾う。


「部屋の照明を操作するリモコンですね。これで部屋の明かりをつけているのですね」


 榊がリモコンを操作すると、部屋の照明が消えた。

 そして再び点灯する。


「……え?」


 その榊の行動を見て、式の頭に疑問が浮かぶ。


(じゃあ、あれは一体何なんだ?)


 浮かんだ疑問を解決すべく、長考する。


「そうか、もしかしたら……」


 式は再びポスターの前まで行き、そこから部屋の照明をつけるスイッチを視界に入れる。

 ポスターとスイッチは対角線上に位置する。


「そういうことか」

「何かわかったのですか?」

「うん、部屋にガスを充満させた後にどうやって爆発的させたのか、そのトリックがわかった」

「本当ですか。犯人の方は?」

「大体の目星はついてる。後はちょっと確認したいことがあるんだ。それには榊さんの協力が必要だ」

「私の?」


 榊はキョトンとしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る