第13話 最後の調査

 現場に戻った式は、そこで予想外の人物を目にする。


「戻ってきましたか、式くん」

「さ、榊さん!?」


 その人物は正の会社の調査を頼んでいた榊だ。

 なぜ彼女がいるのだろうか。


「なんでここに?」

「隼人兄さんに呼ばれたんですよ。事件がおきたって」

「君たちはやっぱりセットじゃないとね」

「情報漏えいスレスレじゃないですか……」

「それよりも、何かわかりましたか?」


 いつものように事件について聞く榊。


「ああ。さっき取り調べのビデオを見てきたけど、いろいろと収穫はあったよ」

「どのような?」

「わかったのは犯人の正体だ。それに、犯行が起きた時刻に皆がどこで何をやっていたのかも話していた」


 式は取り調べのビデオの内容を二人に話した。


「なるほど。それで、残る謎は凶器のみと」

「うん。隼人さん、何か新たな発見はありませんか?」

「いや、それが特には……」

「これがありましたよ」


 榊が取りだしたのは伸縮自在の棒だった。


「これは?」

「自撮り棒ですよ。今流行っているじゃないですか、ここにあるホルダーにスマホを取り付けて、こうやって写真を撮るんです」


 榊は自撮り棒での撮影方法を実践してみせた。


「確かにこの部屋から見つかったものだけど、それは事件とは関係ないだろう」

「この棒で殴った可能性もあるのでは? この自撮り棒は結構しっかりとした造りになってますし」

「いや、殴られた痕とこの棒の形は一致しないから、それはないよ」

「そうですか……」


 凶器を発見したと意気込んでいた榊は消沈する。

 その一部始終を、式は黙ってみていた。


「そうか、もしかしたら……」

「何か思いつきましたか?」

「榊さん、隼人さん。ちょっと手伝ってほしいことが」


 そういって式はある準備を行い、実践した。


「どうですか、隼人さん。これなら……」

「ああ、あり得るな」

「よし。それなら後は最後の詰めだ」

「最後の詰め?」

「ええ。もう一度容疑者から話を聞きたいんです。これから集まってもらっている客室に行きましょう」


 式は榊と隼人を連れ、容疑者たちが待つ客室へと向かった。




 客室の扉を開けて中に入る。

 そこには容疑者の四人が待っていた。


「すみません、皆さん。お待たせしました」

「式さん、何かわかりましたか?」


 心配そうな表情で莉奈が尋ねる。


「ええ、この事件の謎は大体わかっています。ただ……」

「ただ?」

「あと一つ、最後の押しが欲しいので、これから皆さんを一人ずつ呼んで質問をしたいんです」

「質問? ここじゃダメなの?」


 夏海が質問する。


「はい。できれば一人ずつがいいんです」

「僕に異論はないよ。夏海だって、別にやましいことがあるわけじゃないだろ」

「そんなの当たり前でしょ!」

「私も異論はありません」

「私も大丈夫です」


 どうやら全員承諾したようだ。


「ありがとうございます。では取り調べを行った順番に来てください。まずは木戸さんから」


 式は木戸を廊下に呼び出し、部屋のドアを閉めた。


「ここで大丈夫です。すぐ終わるので」

「はあ……」

「では質問です。木戸さん、あなたは誰を犯人だと思っていますか?」


 式の質問に、木戸は一瞬驚いた表情を見せた。


「えっと……」

「直感でもいいので、誰が犯人だと思いますか」

「私は正直、他の三人誰もが可能性があると思っています。私が現場に到着した時には、既に三人とも揃っていましたし、三人がいつどの順番で来たのかもわかりません。だから誰にも可能性があると思っています」

「……わかりました。質問は以上です。この質問をしたことを他の人には言わないでください」


 続いて式は夏海を呼び出した。


「夏海さん、あなたは誰を犯人だと思っていますか?」

「唐突に聞くわね。私はまずあなたは犯人だと思っていないわ」

「それは取り調べのときに聞きました。ああいう理由があったんですね」

「ええ。それで犯人だけど、私はお嬢様か冬彦だと思っているわ」


 きっぱりと言う夏海。


「理由を聞いてもいいですか?」

「私が悲鳴を聞いたときに、既に到着していたのがあの二人だったからね。悲鳴は冬彦のものだったのは声を聴けばわかるから、第一発見者はあいつでしょ。で次に発見したのがお嬢様って順番よね」

「そうですね」

「それならどちらにも犯行が可能だったと思うわ。冬彦は現場から一番近い倉庫にいたから当然として、お嬢様の場合は倉庫を掃除している冬彦に見つかってしまうけど、あいつなら見逃しそうだしね」

「そう思うんですか」

「だってあいつ、お嬢様のこと好きだから」


 気に食わない様子で夏海は言った。


「たとえ好きだとしても、犯罪行為を行おうとしている人を見逃すと思います?」

「……さあね」

「わかりました。質問は以上です。この質問をしたことを他の人には言わないでください」


 その次は冬彦だ。


「冬彦さん、あなたは誰を犯人だと思っていますか?」

「犯人か。そうだな、俺は木戸さんが怪しんじゃないかと思ってる」

「理由はありますか?」

「うーん、何となくなんだけど、現場から一番離れているからこそ怪しいんだよな」


 冬彦の言うことはわからなくもない。


「莉奈さんや夏海さんは疑いには入りませんか?」

「まさか、あの二人が殺人をするわけないだろ」

「わかりました。質問は以上です。この質問をしたことを他の人には言わないでください」


 最後に呼び出したのは莉奈だ。


「莉奈さん、あなたは誰を犯人だと思っていますか?」

「犯人は……第一発見者の冬彦さんじゃないかと思います」

「その理由はありますか?」

「いえ、ただ単に第一発見者って結構怪しいじゃないですか。自分のタイミングで死体を見つけられるので、今回もそうだったのかなと思っただけです」

「夏海さんや木戸さんは犯人じゃないと思ってますか?」

「うーん、もちろんその二人の可能性もあると思いますが、でも特に怪しい要素もないように見えます。少なくとも冬彦さんよりは」

「わかりました。質問は以上です」


 全員に質問し終えた式は再び客室に戻った。


「お待たせしました」

「それで、何かわかりましたか?」


 榊が尋ねる。


「うん、全てわかったよ。犯人の正体も凶器の謎も、脅迫状を出した人も」


 式がそう言った瞬間、容疑者の四人の表情がこわばった。

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