第12話 取り調べ②

 次に来たのは冬彦だった。


「死亡推定時刻は午後二時から三時の間ですが、荻原冬彦さん、あなたはこの時間何をしていましたか?」

「僕はその時間、倉庫の掃除をしていました。倉庫というのはご主人様の執務室の途中にある部屋のことです。昼食を摂った後にご主人様にお茶を届けたときに、倉庫の掃除をしてくれと頼まれたもので」

「なるほど、あなたはお茶を届けにいったんですね。その時の時間は?」

「確か午後二時くらいだったと思います」

「午後二時ですね」


 薫は今の発言をメモした。


「では少なくともその時間は被害者は生きていたと」

「そうなりますね」


 この発言は覚えておいた方が良いだろう。


「その後の流れを覚えている限り話してください。

「はい。午後二時頃にお茶を届けた後、倉庫の掃除を行いました。それから三十分くらい経ってから喉が渇いたので二階にある食堂に水を飲みに行ったんです。そのときに木戸さんと会って、ご主人様が疲れていて眠たそうにしていたから、睡眠薬を届けにいってほしいと頼まれました」


 この発言も木戸の証言と一致する。


「その後睡眠薬を届けに執務室に行き、ご主人様に薬を渡しました。このときも当然生きていましたよ」


 つまり、午後二時三十分までは生きていたということになる。


「睡眠薬を届けた後はまた倉庫の掃除に戻りました。あの睡眠薬は効果が効き始めるのが十分くらいなので、頃合いを見てご主人様の様子を見に行こうと思っていたんです。早くに行き過ぎるとまだ眠っていない可能性もあったし、倉庫の掃除も行っていたこともあって三十分後にご主人様の様子を見に行ったら、その時にはもう……」

「ということは、あなたが第一発見者なんですね?」

「はい。僕以外に人はいなかったので」


 冬彦の話が確かなら、正は午後二時半から午後三時までの間に殺されたことになる。


「その後警察が来るまでの流れを教えてください」

「僕がご主人様の遺体を発見して悲鳴を上げた後、すぐにお嬢様が来ました。その後は夏海、木戸さん、最後に式くんの順番だったかと」

「あなたは部屋には入っていないんですか?」

「はい。一切入っていません」

「わかりました」


 五人の来た順番は、木戸や夏海が発言したものと矛盾はなかった。


「第一発見者はあなたとのことで、あなたは被害者に薬を届けた後は殺害現場の近くにあった倉庫の掃除をしていたと」

「はい」

「倉庫から殺害現場までは一本道で、他に部屋も通路もないとのことですが、被害者に薬を届けてからあなたが死体を発見するまで、誰か倉庫の前の道を通った人を見かけませんでしたか?」


 この確認は非常に重要だ。

 もしかしたら、冬彦が犯人を見ているかもしれない。


「いや、誰も通りかかりませんでした」


 はっきりと発言する冬彦。


「それは本当ですか? なぜそこまではっきり言えるのですか。見逃している可能性もあると思いますが!」


 執拗に聞く薫。


「倉庫の掃除をしているときは、埃っぽくならないために入り口のドアを開けた状態で行っていたので。誰かが通れば当然視界に入りますし、ドアの方向を見ていなくても、誰かが通ったなら足音でわかるはずです」

「なるほど……」


 冬彦の発言は一理ある。


「わかりました。ありがとうございます」


 最後に来たのは莉奈だ。


「死亡推定時刻は午後二時から三時の間ですが、渋沢莉奈さん、あなたはこの時間何をしていましたか?」

「私は三階の自室にいました。今日は講義が午前中に終わったので、家に帰って昼食をとり、午後からは自室で明日の予習や準備をしていたんです」


 午前中で講義が終わったことは、式や冬彦も知っていることだ。


「その時間の間はずっと自室にいたんですか?」

「はい」

「では、その後の流れを覚えている限り教えてください」

「えっと、自室で予習をしていたら、突然下の方から悲鳴が聞こえてきたので、何事かと思って降りていったら、父の執務室の前で冬彦さんが座り込んでいたんです。中を見ていたら、頭から血を流して座っている父の姿が……」


 その光景を思い出したのか、暗い表情になる。


「その後のことは覚えていますか?」

「えっと、私が来た後は夏海さんが来て、その後に木戸さん、最後に式さんだったと思います」


 この発言も特に矛盾はない。


「わかりました。ありがとうございます」


 これでビデオは終わっていた。

 式はこの取り調べの発言を鑑みて、今回の事件を改めて考察する。


(なるほどな、大体わかってきたぞ。犯人の正体が)


 残る謎は凶器だ。

 警察の調べでは鈍器のようなもので殴られたことによる犯行だという。だがその鈍器はいまだに見つかっていない。


「もう一度現場に戻ってみるか」


 もしかしたら、現場を調査していた隼人が何か見つけているかもしれない。

 新たな発見があると信じ、一度現場に戻ることにした。

 その時。


「し、式さ~ん!」


 先程調査を頼んでいた薫が戻ってきた。


「あ、畠山さん。どうでしたか?」

「どうでしたも何も、とんでもない発見ですよ。あれって……」


 調査結果を言おうとする薫の口を、式が塞ぐ。


「今はまだ伏せておいてください。あと三階の正さんのプライベートルームにも酒があったので、それも調べてもらえると助かります」

「わ、わかりました。式さんはどうするんですか?」

「俺はもう一度現場に行って、調査をし直します。残りの謎を解くために。一応容疑者の四人にはまだ残っているように言ってもらえませんか」

「わかりました!」


 薫に託し、式は現場へと向かった。

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