第11話 取り調べ①
「取り調べ、どこまで進んでますか?」
取り調べを行っている客室についた式は、そこにいた刑事に進捗具合を確かめた。
「あ、式さんですね! 園田警部から話は聞いています」
式の問いに返答したのは、年若い女性刑事だった。
「これまでにいくつもの殺人事件を解決してきたんですよね」
「そんなに多くないですよ。それよりも……」
「あ、すいません申し遅れました。私は畠山薫と申します!」
「あ、どうも式です。それよりも取り調べはどうなっていますか?」
話が進みそうにないので、式は強引に取り調べがどうなっているのかを確認した。
「えーとですね、今ちょうど最後の渋沢莉奈さんのお話が終わったところです」
「どうも、式さん」
薫の前に座っていた莉奈が一礼する。
「莉奈さん、ちょうどよかった。あなたにもう一度聞きたいことがあったんです」
「私に?」
莉奈が首をかしげる。
「ええ。以前も聞いたんですけど、脅迫状に書かれていた『隠された悪事』というのに本当に覚えがないんですね?」
「はい……」
「わかりました」
式は薫に向き直り、
「刑事さん、この館の至るところに飾られているお酒を全て調べてください」
と言った。
その言葉を聞いた莉奈の表情が変わる。
「お酒をですか?」
「ええ、理由は後で話しますので、迅速にお願いします」
「わ、わかりました。あ、これが取り調べの様子を撮影したビデオです」
薫はビデオカメラを式に渡した。
「ありがとうございます。莉奈さんも」
「え、ええ」
張り詰めた表情を浮かべながら、莉奈は部屋を出ていった。
「さて……」
一人になったところで、式は取り調べのビデオを確認する。
まずはメイド長の木戸からだ。
「先ほど入った情報だと、死亡時刻は午後二時から三時の間とのことです。木戸さん、あなたはこの時間何をしていましたか?」
「私はその時刻、二階の東にある部屋にいました。その部屋は私の執務室になっていて、普段からご主人様の会社のお手伝いをしているんです」
「そうだったんですね」
「ええ。それでご主人様の執務室は、二階の西側に位置していて、私の仕事部屋のちょうど反対の場所にあるんです。私がいた部屋から執務室に行くにはホールを通らなくてはいけません。しかしその時間は確か夏海さんにホールの掃除を頼んでいたはず。それなら私がご主人様を殺した犯人だとしたら、彼女に見つかってしまう恐れがあります」
これについては、夏海の証言を聞いてみる必要がありそうだ。
「あ、それと二時二十分くらいに一度仕事のことを聞きにご主人様の部屋を訪れました」
「本当ですか!? その時被害者は」
「当然生きていました」
力強く発言する木戸。
薫はしっかりとこの発言をメモしておく。
「それで、その後の流れは?」
「部屋に訪れた時にご主人様が酷く疲れていた様子だったので、睡眠薬をお持ちしますと言って部屋を出ました。その後二階にある食堂で飲み物と薬を取りにいったところ、冬彦さんと出会って彼に薬を届けてもらいました」
「木戸さんが薬を届けたわけじゃないんですね?」
「はい。私も仕事で忙しかったので、睡眠薬を届けるだけだったら冬彦さんでもできますし、彼はご主人様の信頼も得ていたので問題ないかと」
「わかりました」
次に聞きたいことは死体発見時の様子だ。
「では死体が発見されたときの状況を詳しく教えてください」
「部屋で仕事をしていたら、突然悲鳴が聞こえたんです。何事かと思ってすぐに駆け付けたら、冬彦さんとお嬢様、そして夏海さんの三人が部屋の入り口に集まっていました」
「そのとき中に入っていた人はいなかったんですね?」
「はい。私が来たすぐ後に式さんも到着して、彼が私に警察に連絡をしてくれと指示した後、現場に誰もいれないようにしていましたので」
「わかりました。ありがとうございます」
次に部屋に来たのは夏海だ。
「死亡推定時刻は午後二時から三時の間ですが、萩原夏海さん、あなたはこの時間何をしていましたか?」
「その時間は一階のホールを掃除していました。玄関から入ってすぐのところです」
「ああ、あの大きいホールですね」
「はい。あそこには一階から二階へと通じる階段があって、私はずっとそこで掃除をしていたから、誰が一階から二階に行ったのかを知っているんです」
「なるほど」
先ほどの木戸の発言と一致する。
「あなたがホールを掃除していた間、誰かホールを通りましたか?」
「いえ、誰も通りませんでしたよ」
はっきりと言い切った。
「死亡推定時刻の間、私はずっとホールにいましたから、そこから誰も登っていないことを見ています。殺害現場は二階にあるご主人様の部屋で、かつこの館は二階に上るための階段はホールにしかないから、一階にいた人が犯行を行うのは不可能ですよ」
「なるほど、それは有力な情報ですね」
「だから私、式くんが犯人じゃないってことを知っているんです。彼はあの時間一階にあるお風呂場を掃除していましたから。じゃないといくら警察と知り合いとはいえ、さすがに彼が現場を調べるのを黙って見過ごしたりしませんよ」
あの時夏海があっさり引き下がったのにはこういったわけがあったのだ。
「他の人たちがどこにいたのかは知りませんが、もしこれが殺人事件だとしたら、私と式くん以外の人が犯人だと思います」
「一階から二階に登った人がいないのはわかりました。しかし二階の東から西に移動した人はいませんでしたか?」
「えーと、私が見た限りではいなかったと思います。私もずっと二階付近を見ていたわけじゃないので、私が見ていない隙を狙って通り抜けた可能性はありますけど」
「わかりました。では死体が発見されたときの状況を詳しく教えてください」
「えーとですね」
唸りながら夏海は答える。
「ホールを掃除していたときに、二階のご主人様の部屋の方から大きな悲鳴が聞こえたから、何があったんだと思って向かったんです。そしたら部屋の入口前で尻もちをついていた冬彦と顔が青ざめてたお嬢様がいたんです。私も部屋の中を覗いたら、頭から血を流して椅子にもたれかかっているご主人様を見たんです」
「なるほど」
「その後、木戸さんと式くんがついて、式くんが現場を調べて木戸さんが電話で警察を呼んでいました。その間私と冬彦とお嬢様は部屋の中に入らず、その場で佇んでいましたよ」
覚えている限りの状況を話した。
「わかりました。ありがとうございます」
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