第10話 現場捜査
数十分後、警察が到着し捜査が始まった。
捜査を指揮するのは、榊の従兄である園田隼人だ。
彼は元々警部補であったが、式が解決した事件の成績を称えられ、この度警部へと昇進した。
「式くん、君は事件に巻き込まれてばかりだね」
「まあ、奇妙な縁がありますね……」
「とりあえず捜査を始めるから、まずはこの館にいる人たちを集めてくれ。その間に僕たちが現場を調べる」
隼人は部下に指示を出す。
「あの、今この館にいるのはここにいる私たちだけです」
隼人の言葉を聞いて、木戸が発言した。
「ここにいる人たちだけ? こんな大きな館で、これだけの人数で足りるんですか?」
「いえ、他にもいるんですが、皆買い出しに出ていて。だから今いるのはここにいる5人なんです」
「なるほど……。ではあなたたちからお話を伺いたいと思いますので、どこか適当な空き室を用意してください。私の部下に取り調べをさせます」
「わかりました。ではご案内致します」
木戸は刑事を連れ、空き室へと向かった。
「私たちもいきましょ、式くん」
「あ、俺は……」
「彼は私たちと一緒に捜査をしてもらうんです」
式を連れて行こうとした夏海を、隼人は止めた。
「え、なんでこの子が?」
「彼はこれまでにいくつもの事件を解決してきた実績があります。私も付き合いは結構長いですし、彼の能力には信頼を置いているんですよ」
「ふーん、そうなんだ」
夏海はじーっと式を見る。
「それなら、この事件を早く解決してね」
「必ずご主人様を殺した犯人を捕まえてくれよな!」
夏海と冬彦がエールを送る。
「ありがとうございます。この事件、必ず俺が解決します」
式は深呼吸をし、現場に向かった。
「それで、調査はどこまで進んでいるんですか?」
「まず死亡推定時刻だが、午後二時から三時の間で、死因は頭部からの出血によるもの。頭部には鈍器のようなもので殴られた痕があり、その他に特に外傷はないようだ」
だいたい式が予想した通りだった。
「殴られた痕が深いことから、これは他殺であることが推測できますね」
「だろうな。どこかにぶつけたとしてもこんなに出血する事は考えられない」
「……」
他殺であることが確定したところで、式は考え込む。
「後、被害者の体からは睡眠薬の反応が出ている」
「睡眠薬が?」
「ああ。自主的に飲んだのか、飲まされたのかは調査しないとわからないな」
式はもう一つ気になっていることを隼人に話した。
「隼人さん、この湯呑みを見てください」
「これか。どうしたんだ」
「この湯呑みなんですが、下にこぼれている液体に浸っているんです」
式にそういわれて隼人が確認してみると、確かに湯呑みの下には液体が広がっていた。
「なるほど、つまり君はこぼれた液体の上にこの湯呑みが置かれたということを言いたいんだな」
「はい」
「だが、何のためにこんなことをしたんだ?」
「それはまだわかりません。それにこの湯呑みは全体が濡れている。これにも当然意味があるのだろうけど、それもまだわからないですね」
他に現時点で気になっているのは二つ。
一つ目は凶器だ。
死因は鈍器のようなもので殴られたことだが、その肝心の鈍器がどのようなものなのか、まだ見当がついていない。
そして犯人がどこでそれを処分したのかもわからないままだ。
二つ目は犯人がどうやってこの部屋に入り、殺害したのか。
この部屋は二階の一番隅に位置している。部屋の前の廊下は一本道となっており、途中には物置が一つあるのみで、その一本道を通る以外でこの部屋に入ることはできない。
式は一応警察に隠し扉が無いかを確認してもらったが、そういった類のものは見つからなかった。
つまり犯人は、誰にも目撃されずに一本道を通ってこの部屋に入り、正を殺害した後に来た道を戻ったということになる。
この館にいるのは式を除けば木戸、夏海、冬彦、莉奈の四人だ。他の人間は買い出しに行っているため、犯行時刻に殺人は出来なかったと考えると、犯人はこの中にいる可能性が高い。
重要なのは、この四人が犯行時刻にどこにいたのか、だ。
それを知るためには、彼らから話を聞く必要がある。
「お、この湯呑みは……」
突然隼人が呟く。
「何かありました?」
「いや、この湯呑みは良い備前の作品だなって思ったんだ」
「備前? 隼人さん陶芸に詳しいんですか?」
「最近ハマってきてね」
隼人は湯呑みを持ち上げて眺める。
「備前というのは釉薬を使っていないんだが、それでいて他の陶器にも劣らない耐久性と防水性を持っているんだ。それで僕が一番好きな備前というのが……」
「わかりましたよ、その話は後で聞きますって」
話が脱線しそうなので、強引に打ち切る。
「隼人さんは引き続き現場を捜査してください。俺はちょっと取り調べをみてきます」
「わかった。何か発見したら知らせるよ」
「ありがとうございます」
一礼し、取り調べを行っている客室に向かった。
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