第8話 三人の談笑

 仕事がひと段落したので、式は少し遅めの昼食をとることにした。

 時刻は午後一時を回っていた。


「ふう、疲れた」


 脅迫状の調査と館での仕事の二つをこなすのは一苦労だ。


「式くん、お疲れ」


 式と同じく休憩に来た冬彦が隣に座る。


「あ、お疲れさまです」

「お茶飲むかい?」


 手に持っていた缶のお茶を差し出す冬彦。


「ありがとうございます」


 疲れていた式は、それを一気に飲み干した。


「お、いい飲みっぷりだね」

「はは……」

「このお茶は冷蔵庫にたくさん入っているから、喉が乾いたら遠慮なく持って行っていいよ」


 冬彦は冷蔵庫を開け、その中にあるいくつもの缶のお茶を見せた。


「ありがとうございます」

「それで、ここの仕事にはもう慣れたかい?」

「大変ですけど、ある程度は覚えました」


 昼食を食べながら、二人は談笑を始めた。

 そこに、同じく昼食を取りに来た莉奈が式の隣に座った。


「式くん、冬彦くん、お疲れさま」

「あ、莉奈さん。お疲れ様です」


 式は軽く礼をする。


「お嬢様もお食事ですか?」

「ええ。今日は午前で講義が終わりだから、お昼はこっちで食べようと思って。というか今ぐらい普通に呼んでよ冬彦くん」

「いやあ、さすがに仕事中ですし」

「そんなの、私は気にしないのに」


 莉奈と冬彦は同じ大学似通っているため、普段は敬語など使わずに会話をしているが、今は仕事中ということもあり、冬彦はお嬢様に接する言葉遣いにしているのだろう。


「式くんは、私のことを『莉奈さん』って呼んでくれるのにね」


 莉奈は式が脅迫状の調査のためにこの館に来ていることを知っているが、それを他の従業員は知らないので、あくまで館のお嬢様とバイトの高校生という立場で話しかけているのだ。


「はは、年上の女性だと、お嬢様というよりもお姉さまって感じがするので……」

「あら、じゃあお姉さまって呼んでくれてもいいのよ」

「それはまたの機会に……」


 仲良さそうに話す式と莉奈。


「冬彦くんも夏海さんも同年代なのに、皆よそよそしいから、式くんの反応が新鮮ね」

「そりゃ、雇い主なんですからよそよそしくもなりますよ」

「あら、そんなこと言うのね。じゃあ……」


 そう言いながら莉奈は式の腕に抱きついた。


「私、式くんと付き合っちゃおうかな~」

「い、いやさすがにそれは……」


 行き過ぎた莉奈の行動に、式はたじろぐ。


「はは、ご主人様が知ったら驚くだろうな」

「そ、そういえば、今日はご主人様も家にいるんですよね」


 話題を変えるために式が冬彦に尋ねた。


「ああ。今日は執務室でお仕事をなされているよ」


 正は会社とこの館の両方で仕事を行っている。今日は予定があって家での仕事を行っているようだ。


「後でご主人様にもお茶を持って行こう」

「そうですね」


 その後も三人は談笑を続けながらも昼食を平らげ、食器を片づけ始めた。


「よし、じゃあ残りも頑張ろう!」

「はい!」

「あら、いい返事ね」

「いやあ、ごはんを食べたらやる気が出てきましたよ」


 もはやここに来た理由も忘れているかもしれないほど、式はメイド館の掃除にやりがいを感じていた。

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