第7話 部屋掃除
「それともう一つ」
「まだ何かあるの?」
「ええ、これは調べているときに気づいたことなのですが……」
榊は鞄から資料を取り出し、式に見せた。
「どうやら渋沢さんの会社は、そこまで経営が良くないようです。この資料に載っている通りの利益であのような暮らしができるとは思えません」
「なるほど……」
確かに資料を見てみると、会社としてはそこまで上手くいっていないようだ。
しかし、渋沢の家は豪華な洋館で、室内にも様々な高級品が置かれていた。
「結構無理しているのでしょうか」
「……」
謎は深まるばかりだ。
翌日、式はいつもと同じようにメイド館に出勤し、仕事をしながら調査を進めていた。
朝九時に出勤し、まずは部屋の掃除から始める。
部屋と言ってもこの館には無数ある。これらすべてを一人で掃除すると日が暮れてしまうため、複数人で分担しているのだ。
このメイド館は三階建てとなっていて、部屋数は食堂や風呂場などを除けば各階に十つ存在する。式はそのうち三階の部屋掃除を担当していた。
三階は客室の他に、正と莉奈のプライベートルームが存在する。まずは時間がかかりそうなこの二部屋から掃除をすることにした。
この私室を調べれば何かわかるかもしれないから、という理由もある。
最初は正の部屋からだ。
「よし……」
式は掃除機をかけながらもさりげなく正の部屋を調べ始めた。
正の部屋には、見るからに高級そうな洋酒がズラリと並んでいる。応接室でも見た光景だが、どうやら相当な酒好きのようだ。中には酒の中身が入っておらず、瓶だけを並べているものもあった。
「しかし、本当に酒ばかりだな……」
まだ未成年である式には、酒の良さがわからない。
ここまで集めるほど熱中できるものなのだろうか。
机の引き出しも見てみようと思ったが、鍵がかかっており開けることができない。
よほどの極秘な資料などがあるのだろう。
その他にもいろいろと調べてみたが、特に目新しい発見はなかった。
「うーん、こんなものか」
掃除を一通り終え、次は莉奈の部屋に向かった。
「失礼します……」
女性の部屋に入ったことなどそう多くない式は、少し緊張しながらドアを開けた。
莉奈の部屋には、通っている大学に関係するものが多数あった。講義で使っているであろう参考書やノート、ルーズリーフなどはもちろん、就職に関する資料なども置いてあった。
他には若い女性らしくブランド物のバッグや化粧品などが多数揃っている。やはり金の入りが良いのだろう。
クローゼットを開けてみると、そこにもブランド物の洋服が着飾ってあった。中にはファッションに乏しい式ですら知っているような高級ブランドの物も存在し、経済的な余裕がうかがえる。
「こりゃすごいな」
高級そうなものに傷でもつけたら弁償になるかもしれないので、極力触らないように掃除を行った。
結局、莉奈の部屋にも特に脅迫状に関するものは見つからなかった。
「この二人は特に関係なしなのかな……」
既に証拠となるものは処分している可能性もあるため、そう結論づけるのは早い。
とりあえず他のところも調べた方がいいだろう。
莉奈の部屋から出た式は、他の客室の掃除を素早く済ませ、夏海に報告しに行った。
「夏海さん、掃除終わりました」
「あら、ごくろうさま」
夏海は報告書にチェックをつける。
「それにしても、なんで君が三階の部屋を掃除してるんだろうね」
「え?」
「だって、君ってまだ入ったばかりじゃない。そんな子にいきなりご主人様やお嬢様のプライベートルームの掃除を任せるなんて、変だと思うけど」
掃除の割振りはメイド長である木戸が行っている。
木戸は式が莉奈に雇われてこの館で働いていることを知っているので、不審に思わず式にプライベートルームの掃除を任せたのだ。
式に部屋を調査させるという意味もあった。
しかしその事情を知らない夏海にとっては、この割振りは不自然なものに見えるのも当然だろう。
「はは、まあ信頼されてるんですかね……」
「ふーん、まあいいけど。じゃあ次の仕事は……」
夏海の指示を受け、次の仕事に取り組んだ。
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