第6話 情報交換
翌日、式は榊と情報交換を行うことにした。
式は大した情報を持っていないが、榊があれからどれくらい調査をしたのか確認するためだ。
榊はこの一週間、持ち前のIT技術を使って会社のPCにアクセスし、何か痕跡がないかを確認していた。
その他にも、実際に会社に出向いて平社員をはじめとする会社員から話を聞いていた。
「というか、他人のパソコンにアクセスして平気なの?」
「正さんが調べる際には何をしてもいいと言っていたので。もちろん機密情報等は見ていませんよ。明日は許可を得て役員などからも話を伺う予定です」
「それで、どうだった?」
榊は自分の鞄から複数の書類を取り出し、式に見せた。
そこには何人もの社員の名前が記載されてあった。
「私が調べた限りでは、大小あれど会社に対して不満を持っている人はこれくらいいました。直接聞いた話はもちろん、社員のSNSなどもチェックして不満や愚痴を漏らしている人がどれくらいいるのかも確認済みです」
「すごいな、そこまで調べたのか」
「ただ……」
榊は納得できていない表情を浮かべる。
「結局、手に入ったのはこれだけで脅迫状の犯人を特定するまでには至りませんでした。会社のPCに痕跡を残している人はいないというのは、ある意味社員としては正しい人ばかりですが。さすがに社員たちが自宅に持っているPCにまではアクセスできないので、ここで頭打ちだと思います」
「そっか」
「それに会社に対する不満を漏らしている人が犯人とは限りません。誰にも話さず証拠も残さず自分の中だけに留めている可能性だってあります。ここまで考えるともう何でもありな気もしてきますが」
「まあそうだよね」
調査の成果が出ていない榊の表情は暗い。
その榊を見て、式は言わないでおいた自身の考えを話すことを決意した。
「実はさ、脅迫状の犯人についてはある程度検討はついているんだ」
「え?」
突然の式の言葉に、意表をつかれる榊。
「ど、どういうことですか?」
「少なくとも、会社で働いている平社員や取引先の人の中に、犯人はいないと思ってる」
「それは何故ですか?」
「この脅迫状が家に届いたという事実がそう告げているんだ」
式は自分の推理を榊に聞かせた。
脅迫状が家に届いているということは、犯人は渋沢正の住所を知っているということになる。だが渋沢家の住所を知っている人物など、そう多くはないはず。
何故なら、住所を知っているということは正とは親しい間柄であるからだ。大して親しくもない人間や目下の人間に自分の住所を教えることはない。
たとえば会社の平社員だ。彼らにとって社長は身近な存在ではなく、目上の存在だ。当然彼らが社長の住所を知る術はないはずだ。
取引先の人物も同様だ。親密な間柄ではないため、住所を知っているとは思えない。
となると残るのは館で働いている人物か、会社の役員たちである。館で働いている人間は当然自宅の住所を知っている。役員たちに関しても、社長との接点が多いため、知っていても不思議ではない。
そして、館の所有者である渋沢正やその娘である莉奈も条件に当てはまる。
「なるほど、式くんの考えはわかりました。ですが……」
式の推理を聞いた榊は、素直な感想を話した。
「それでは、私がこの一週間やったことは全て無意味だったということですよね」
「……まあ、そうなるかな」
「……」
榊はぷるぷると震えている。流石にまずいと思った式は、
「で、でも渋沢親子に対して一応仕事をしている感じは出さなきゃいけなかったから、仕方なかったんだよ。俺の考えでは渋沢親子も脅迫状を出した犯人の候補なんだ。もし彼らが犯人だったら、彼らに対してさっきの推理を話したら警戒されて尻尾を出さなくなるかもしれない。だから形だけでも仕事をしているように見せなきゃいけなかったんだ」
と一応理由をつけておいた。
榊は大きくため息をついて、
「まあ、そういうことにしておきましょう」
と言った。
「それで、式くんの方は収穫はありましたか?」
「収穫か。あるようなないような」
「はっきりしませんね」
煮え切らない態度を出す式に対して疑問を抱く。
「確信があるわけじゃないんだけど、何となく違和感があるんだ」
「そうですか。ではその違和感を解消するためにもっと調査を続けてくださいね」
榊は突き放すような口調で言う。
「なんか結構言葉に棘がない?」
「気のせいでしょう」
榊はそっぽを向いた。
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