第5話 人間関係
「ごめんねー。ちょっとこっちの仕事を手伝ってほしくて」
「あ、俺まだ冬彦さんの仕事を手伝ってたんですけど……」
「いいのよ、あいつは。一人で集中させた方が成果が出るタイプだから」
くすっと夏海は笑いながら語る。
「夏海さんと冬彦さんって仲が良いんですね」
夏海の手伝いをしながら、二人のやりとりを見ていた式が尋ねた。
「仲が良さそうに見えた?」
「ええ、まあ」
「まあ腐れ縁っていうか、あいつとは幼稚園からずっと一緒のとこ通ってたから、姉弟のように育った仲なんだよね」
「羨ましいですね、そんなに親密な人がいるって。俺にはそういう人いないから」
「……そうね」
そう呟く彼女の表情はどこか曇って見えた。
「初めのころは素直で可愛かったのに、今じゃ生意気な小僧って感じよ。式くんもああいう大人になっちゃダメよ」
「はは……」
苦笑いで返答した。
「あ、この書類お嬢様のところへ持って行ってくれる?」
「これですね。わかりました」
式は夏海から書類を受け取った。
「ごめんね。本来なら私が持って行くべきなんだけど……」
「何か理由があるんですか?」
「そういうわけじゃないのよ。ただお嬢様は少し苦手なのよね」
ここで働いているのに苦手とは珍しいな、と式は思った。
「それなら、ここで働くのって結構辛くないですか?」
「まあそうなんだけど。でもほっとけない奴がいるからね……」
夏海が誰のことを言っているのか、式はなんとなく理解できた。
「じゃあ持って行きますね」
「ええ、よろしく」
式は書類を渡すために莉奈の元へ向かった。
「莉奈さん、書類持ってきました」
夏海に頼まれた書類を手に、式は莉奈の部屋に入った。
「式さんが持ってきてくださったんですね。ありがとうございます」
それをにこやかに受け取った。
「それで、調査の方はどうですか?」
「いや、まだなんとも言えません。この館で働いている全員と接触したわけでもないので……」
「そうですか……」
式の言葉に、不安な表情を浮かべる莉奈。
「早く脅迫状を送った犯人を見つけて、父を安心させたいものです。式さん、ぜひとも犯人を見つけ出してくださいね」
「……はい」
先程とは違い、満面の笑みを見せた。
式はこの極端な表情の変化に違和感を覚えた。
「莉奈さん、正さんは脅迫状の内容について心当たりはないと言っていましたが、あなたは何かありますか?」
「……ごめんなさい。私もこれといったものはありません」
「そうですか。正さんの娘であるあなたなら、他の人では気づかないようなことにも気づくことができたと思ったんですが」
式はわざとらしく言った。
「私、結構にぶいと言われることがあるので」
「そうですか。ではまだ仕事も残ってるので失礼しますね」
一礼し、部屋から立ち去る。
「……」
その後ろ姿を、莉奈は無表情で見ていた。
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