第7話 おまえはナニを言っているんだ?
○秋葉原上空・午後八時
上空からの秋葉原の夜の眺め、ハプニングバーのあるビルがアップになる。
○ハプニングバー『ただしイケメンに限る』・店内
ドア横の看板ナメ、店内に入るカメラ。女の子同士が抱き合ったり、ヘソ出しメイドさんのヘソの上につけられたジャムを舐める男性客などの退廃的なカット。
カメラ下から、琴橋が得意げに店内に入る。
メイドA「おかえりなさいませ、ご主人様」
続いて安藤、伊藤、林原の順に入っていく。
メイドA、B、C「おかえりなさいませ、ご主人様」
メイドたちが一斉に挨拶をする。
安藤たち四人が店内を見回すように並ぶ。安藤の右横に琴橋。琴橋、安藤に耳打ちする。
琴橋「いいか安藤、本日のミッションを通達する。ハイヒールが折れるほど、グデングデンに酔っ払った女をゲットするんだ」
安藤「それって、“酔っ払った女の子を襲え”ってことだろ? 女性とは同意の上でのエッチが望ましいと……」
琴橋「おまえはナニを言っているんだ? ここに来た女たちは、みんなそーいう“ハプニング”を望んできているんだよ」
安藤「ボ、ボクの良心がそ、それを許さないんだよ」
琴橋「はっ! まるっきり偽善だな。エロゲ売り場で嬉々としてレイプゲームを売っている男が良心をうたってどうする? ああん?」
安藤「失敬な。昨日今日に手を染めた中学生じゃあるまいし、その矛盾の自覚くらいはありますよ。ただ」
琴橋「ただ?」
安藤「エロゲはあくまでも妄想で、それを現実でやったら犯罪だってこと、マニュアルにも起動時画面にも出てますよ」
琴橋、時計を見ながら、
琴橋「あーっ、おまえと禅問答している場合じゃない。この店にいる制限時間は残り一時間を切っているぞ。早く酔った女を捜すんだ。行け、ナンパーマン!」
安藤、イヤイヤながらも水割りをあおってから、歩き出す。
安藤「どうすれバインダー……」
ソファに眠っている女の子に声をかける安藤。
安藤「もしもーし。眠っていますか?」
琴橋「それは酔いすぎだ。別なのを探せ」
遠くから指示する琴橋。
安藤、しぶしぶ彼女から離れて別の女の子を捜す。後ろ姿の女の子の肩をたたく
安藤「もしもーし。ナンパしにきたんですけどー」
くるりと振り向いたのは着ぐるみの美少女(アニメ顔のマスクを被った男)。
琴橋「バカッ! それは男だ!」
安藤「ええっ? 男なの?」
着ぐるみ「……」
マジックペンで色紙に何かを書いたあとに安藤に見せる着ぐるみ。
安藤「え? 『中身は男の娘でも心は乙女よ』って? ディープすぎるよー」
琴橋「作戦は失敗だ! 安藤! ただちに帰還せよ」
安藤、しぶしぶ戻る。そこに伊藤が近づく。
伊藤「おい、別室で女たちが“独身最後の夜パーティ”をやっているぞ」
琴橋「伊藤! でかした」
○ハプニングバー・店内別室のカラオケ室
女の子が気持ちよく持ち歌を歌い、女の子ばかりの空間で恥ずかしがる安藤と対照的に酒に酔ってハイになる伊藤。
女の子にのど仏をくすぐられてネコの真似をする林原と巨乳女の胸を触る琴橋。
伊藤「ぶっちゃけて三十代半ばになるまでエロゲ売り場の店員続けていて 、予約の人いっぱいきたーわー、なんて事をしてるなんて思ってもいなかった。非常に痛い。非情なまでに痛い。万引き対策よりそっちの方が重大かつ深刻な予想外」
女たち「あはははー」
安藤「ボクも伊藤さんに憧れて“ボクも痛い系のひとになりたい!”と思ったら、本当に立ち直れないレベルの痛い人になってしまったという夢はいつか叶う的な悪夢。そんなもんだけ叶うなよって、でっでいうー」
安藤、両手の人差し指を伊藤に向けておどけるしぐさ。
女たち「でっでいうー、あはははー」
伊藤「さすがにそろそろエロゲ売り場の店員なんか引退して、お金持ちになって、シャム猫を膝に乗せつつ上から目線で 『あーチミもエロゲ担当をやってるのかね。ワシも若い頃は……』なんて語ってないといけないのに、なんで相変わらず最前線で現役なんだよー」
女の子の輪の中からフラフラの二ノ宮弘美(以下、弘美)が立ち上がる。
弘美「あたしぃートイレェー」
倒れそうになる弘美の腕をはっしと捕まえる安藤。
琴橋「安藤! 彼女を支えてトイレに連れて行ってやれ」
安藤「よし、まかされた!」
安藤、弘美を支えながら別室を出て行く。はやし立てる女の子たち。
林原「先輩が始めて女の子をお持ち帰りー。あっ、コレ忘れ物」
林原、弘美のバッグを持って安藤を追う。
伊藤だけハイになったまま一人語りを続けている。
伊藤「しかもなんで未だにコンスタントに朝と晩にオナニュとかしてるの?『朝は触手アニメだったから、晩のオカズはジュニアアイドルのDVDにしちゃおうかなー』 とかロリなの? バカなの? しぬの?『慣れるとウィンブルドンの試合でもヌケるお!』じゃねえよマジキチ……ウィィイッ、ヒック」
○ハプニングバー・女子トイレ前
女子トイレからフラフラと出てくる弘美。彼女のカバンを持って再び支えようとする安藤。
安藤「大丈夫かい?」
弘美「ああ、待っていてくれたんだー。ありがたうー」
安藤「今日はこのまま帰ったほうがいいよ」
弘美「じゃあ、一緒に帰ろっかー。ドライブにも付き合ってね」
安藤、弘美を支えながら店の出口へ、伊藤とすれ違う。
伊藤「明日、精算するから、うまくやれよ!」
伊藤と安藤の手と手をバチンと当てて“やった”というしぐさ。
○地下駐車場
安藤、弘美を支えながら彼女の小型車へ。弘美がバックの中からカギを出す。
弘美「そう、この赤いクルマがアタスィーの」
弘美、赤い小型車に向けてカギを向けて無線ロックを外して中に入る。反対側のドアを開けて安藤を招きいれようとする。
弘美「童貞クン、カモオーン」
安藤、驚きながら車の中に入る。ドアを閉める。
安藤「ど、どうしてボクが童貞だと?」
弘美「アタシの助手の杉山クンと同じ匂いがしたからよ。フツーのオトコならアタシの後ろをついてまわってトイレまで入ってくるわ」
安藤「杉山? なんだって! わっ!」
クルマが急発進して安藤が驚く。
○夜の秋葉原の国道・午後十一時半
クルマ、駐車場から出て細道から国道に出る。
安藤「杉山の言っていた教授って、貴女のことだったのか」
弘美「ええっ! じゃあ、あなたが安藤クンなの!」
安藤「そんなことより、シートベルト、シートベルトしてっ」
安藤、シートベルトをしようとするとクルマが急に蛇行して揺れてしまう。
弘美「ベルトなんてさせてあげないんだから! お互い敵同士じゃないのさ」
安藤「敵だなんてそんな、万引き犯と店員という相容れない関係だけだ!」
弘美「あーっ、気になるわ、その“関係”って、腐った乙女のハートがダコウしちゃうーん!」
クルマ、さらに蛇行して安藤、気持ちが悪くなる。
安藤「ワケわかんないこと、うっぷ」
弘美「杉山クンを三度も捕まえた男にしてはグロッキーするのが早いわよ。杉山クンもいい男だったから、捕まえるたびにイケナイコトしちゃってるのかしらん?」
対向車線に乗り出して、向かってくる車に当たりそうになる。
安藤「ちょっと、前見て、前」
弘美「ダーメ、アタシをちゃんと見て! でないとさせてあーげないっ」
安藤「させるってナニを?」
弘美「アタシにそれを言わせるつもりっ?」
クルマ、今度は路肩に駐車中の車の列に突っ込もうとする。
安藤「もういいから、前見てよ!」
弘美「それぃはーセックス! 一心不乱になってキミがアタシの上でピストン運動することなのーぉぉぉぉおお」
クルマ、次々と駐車中の車のサイドミラーだけを撥ねていく。
弘美「でもアタシの体を許すのも許さないのもキミ次第よ。どう、アタシの仲間にならない?」
安藤「答えはNo!」
クルマ、急停止して前につんのめりそうになる安藤。クルマは道路の真ん中に止まっている。
弘美「ちょっとぉー。うっぷ」
吐きそうになる弘美。
安藤「ど、どうしたの?」
弘美、安藤の顔にブッと勢いよく白いゲロを吐く。
安藤「ぐ……」
弘美「きゃははははは! カニミソのゲロまみれになってやんの。カニミソって」
安藤「帰る!」
弘美「ああん! ウソウソ、帰っちゃやだー」
安藤、クルマから降りて近くの公園に向けて走り出す。遠くでサイレン音。
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