眠れない夜に

 夜、寝床についてもなかなか寝付けない日は、その日にやり残した事があるからだと聞いた事がある。1日を満足に過ごせなかったから、このままではいけない、まだ自分は寝るわけにはいかないと、脳みそが眠る事を拒否するらしいと。

 一理あるかも知れない。

 ベッドに入って1時間経っても寝付けない僕はそう思った。確かに、僕は今日に満足していない。何か、やり残した事がある気がする。後悔がある。今日という日をもっと有意義に使えたのではないかという。目をつむって眠ろうとしても頭が悶々として締め付けられるようで苦しくて、それが証拠だ。

 今日は何したっけ?

 いつものように、昼過ぎまで寝ていた。前日に夜更かししていたからだ。何で夜更かしをしたのかは覚えていない。とにかく、太陽が真上に登る頃に僕は起きた。

 それから何をしたか。ああ、そうだ。ご飯を食べた。机の上に放置されていた食べ残しのクリームパン。水道の水をコップに入れ飲んだ。クリームパンと水道水だけでは足りなかったので、他に何か食べたかった。冷蔵庫を開ける。マヨネーズなどの調味料、缶チューハイ、ちくわ。それぐらいしかなかった。

 食べ物は無いかと部屋中を探し回った。やっと見つけたのはカップ麺。仕方なくそれを食べる事にした。不摂生だとは思いつつも、汁まで飲んだ。健康に気を使うなんて、もう今の僕にはそんな気力も残っていなかったし。

 それから。

 あれ、それから何たっけ?思い出せない。

 たぶん、パソコンを使って動画サイトを見て、それで。そうか、ネットサーフィンをしていたらもう午前0時を回っていて、それで寝ようと思ったんだ。

 ゴミが散乱した部屋、食べこぼしが付着した汚いテーブルの上を見る。缶チューハイの缶が開いていた。人間として、全く人類の発展に貢献出来ていない、むしろお荷物の僕のくせに、飲むものはしっかり飲んでいる。

 はは、ゴミみたいな生活だな。穀潰しという言葉がぴったりだ僕には。そりゃ、脳みそももっと何かやれって僕を寝かさないようにするよな。

 でも、僕は何をしたら良いんだよ?そう、自分の脳に尋ねてみるけれど、眠らせてくれないだけで、何をしたら良いのかは答えてくれない。自分の脳みそのくせに意地悪だ。それは、きっと、僕が意地悪な性格だからだろう。なら仕方ない。

 「ああ、ムシャクシャする!」

 僕はシーツを蹴っ飛ばした。もう、これ以上ベッドに横になっていたところで寝られるわけがない。僕が寝るためには、今日という日に何かを成し遂げなくてはいけないのだ。自分が納得出来る何かを。

 「やってやろうじゃないか」

 自分の脳みそに喧嘩を売る。

 僕は、コートを羽織る。冬の寒い夜に外に出るのは嫌だけれど、外に出よう。良く良く考えてみたら、僕が最後に外に出たのは1週間ぐらい前な気がする。そうか、僕はそれだけの期間を引きこもっていたのだな。

 久しぶりに外に出るとなると、少し不安になったが、それでもなんだか今日は妙にテンションが高く、僕は履き潰して穴が空いたランニングシューズを履くと、玄関の扉を開けて外に飛び出した。

 「ああ、寒い」

 首にマフラーでも巻けば良かったかなと少し思った。

 でも、まあ良い。いつも暖房の効いた暖かい部屋で惰眠を貪っているのだ。たまには寒さを味わうのも悪くはないだろう。

 空を見上げる。とても綺麗に晴れていた。星が良く見える。

 僕は空全体を見渡して、1番気になった星のある方角に歩き出した。きっとそこに何かがあると信じて。

 僕の今日は、今始まったばかりだ。

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