キラキラの向こう
海の向こうにキラキラしたものが見える。
それは、僕がどれほど頑張っても辿り着けないほど向こうだ。
世の中には、「キラキラするものは良いものだ」という思い込みがある。僕もだいたいはそう思う。だけど、あのキラキラは、良くないものだと思う。
だって、見ただけで分かる。
キラキラ、ピカピカ、トゲトゲ、グサグサ。
あのキラキラは人を傷つける針だ。近づくとその暴力的な光の刺で身体を貫かれて大怪我してしまう。
きっと血だらけになるだろう。
だから、あのキラキラには近づかないのが正解だ。
そんな事を考えながら、海を眺める。
海の上を船が動いていた。
ここからその船を見ると、とても小さいけれど、実際に近くで見るとたぶんとても大きいのだろう。
その船が、海の向こうのキラキラに向かって進んでいく。
ああ、そっちに行ったらダメだって。
僕の心配にも気がつかないで、船はキラキラの方に進み続けた。
そして、キラキラの向こうに消える。
ああ、だから言ったのに。
あんな感じで、キラキラは今日も何かを飲み込んでいるのだ。
「見つけた」
後ろから女の子の声が聞こえた。
「おーい、私だよ。振り向いて」
どうやら僕に声をかけているようだ。
振り向く。
学生服を着た女の子がいた。僕と同じ制服だ。
「文化祭の準備をほっぽり出して、こんなところで何しているの?」
「いや、特に何もしていないけど」
「海を見るのが好き?」
「別に好きじゃないかな」
「じゃあ、なんで海に来ているの?」
「特に理由はないけれど、でもまあ」
僕は海を指差す。
「あの辺に、宝物が沈んでそうじゃない?」
「えっ?何言って……」
僕は海に向かって歩き出した。足元が海水に浸かり、靴の中に水が入ってきた。
冷たい。
でも、構わず僕は突き進む。
「何しているの!?」
女の子が後ろで叫ぶ。
僕は気にせずどんどん進む。
太ももの上ぐらいまで海の中に入った。
水が重くて、歩くのが少しきつい。
「あそこに宝物あるから取りに行くんだよ」
「あそこってどこ!?」
「だから、あそこ」
僕は、海の向こうのキラキラのその手前を指差す。あそこまでなら大丈夫だろう。キラキラの刺には刺さらない。
そして、そこには何か宝物があると、今、確信した。
「馬鹿なことはやめて!!」
女の子も海に飛び込んできて、僕に抱きついてきた。
人の温かみを感じる。
特に何とも思わないけど。
「あの宝物、欲しくないの?」
「そんなの無いよ!!」
この子が何を言っているか分からない。だって、あそこに宝物があるじゃない。
「あれ?」
気がつくと宝物が消えていた。正確に言うと分からなくった。
でも、まあ良いか。
「じゃあ、帰ろうかな」
「えっ、帰るの?」
「だって、もう、宝物が無いし」
僕は、浜辺に上がる。女の子も後ろからついてくる。
「あのさ」
「何?」
「私たち、付き合っているんだよね」
「そうだね」
僕はそう答えた。
彼女が言うのだ。たぶん僕は彼女と付き合っているのだろう。間違い無い。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん、訳の分からないことしていないで、帰ろう」
僕は砂浜を歩き、舗装された道に出る。
「私、君の事が時々分からなくなる」
「僕も似たようなもんだよ」
そう答えて、僕は学校に向かって歩き出した。
僕も何も分かっていない。
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