第二話 「母なるもの」

第二話 「母なるもの」


少し薄暗く、細い通路を少年は軽快なステップを踏みながら進む。

曲がり角を曲がる直前、シスターに会った。


「あら、おはよう リアム。今朝はなにかいい事でも……って」


笑顔のまま涙をうかべるリアムがそこにいた。






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太陽の温かさかみ少し感じられるようになった朝、俺は……



「…フッ…フッ…フッ…」



ジャンプしている。



「あの馬鹿力め…」



ジャンプしている。



「……痛い…」



そもそも俺の一物を蹴る理由がどこにあるんだ。

聞こえていないと思って、繰り返しただけだ。そう親切心…のはずだ。



「アタタタタ…」



腹部周囲からえも言われぬ痛みを感じながら部屋に戻ろうとしたリアムは道中シスターに出くわした。



「おはよう、リアム。…なにかあったのかい…??」



…言えない。

ローズとの勝負の後に蹴りを喰らって負けましたなんて口が裂けても言えない。

言える訳がないだろう。人生の負けられない戦いで喰らっちゃったんですよ〜。ってか。

想像しただけで鳥肌が立つ。



「例の話をしたんだが…ローズ、納得いってないみたいでな…」



ーそしたら蹴り喰らっちゃった…


シスターには数日前に孤児院を出ることを伝えていた。この話をいつローズにするかというのをシスターに相談していた。



「あら…さっきローズが泣いていたわ。大丈夫か聞いたら気分が悪いって…よほど辛かったのでしょう…」



ー…………。よほど辛かったのだろう。


「確かに伝えた時はすごく悲しそうな顔してたな…とりあえず用意して出る準備を済ませてくる」


「ええ…朝ごはんはどうする?」


「さっき部屋でパン食べたから大丈夫」


「わかったわ」


会話を終えると部屋に戻り、自分用に新調された剣士服に着替える。

爺さんが剣士服を新調してくれていたとは…そんなことしなくていいからもう一度会いたいんだが…(この時点ではまだ死んでいません。)

必要最低限のものを持つと部屋を見渡す。


「思い返せば色んな事があったな…」


過去を振り返ると爺さんに剣を教えられ、木刀でしばかれ、ローズに引っ張られ……



「ひでぇ思い出ばっかだ。早く出よ」



そう言うと、沢山の思い出ある部屋に郷愁を残し扉を閉めた。





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リビングへ向かうとシスターや子供達がご飯を食べていた。


「リアム!もう行くのね…」


「ああ、そろそろ行こうと思う」


シスターの目に涙が浮かぶ。

それを見たリアムは涙をぐっと堪える。考えてみるとまだリアムが小さい頃、

服も食べ物も住む家もない自分に、それらを与えてくれたのはシスターだ。両親の愛を知らないリアムに愛というものが何か、それを教えてくれたのもシスターだ。


ーシスターは必要な物が足りない俺にその足りない物を与えてくれた。

この恩は一生忘れまい、いつか恩返しをしよう。


「リアム、一年に一度は手紙を送りなさい。

それと、住む家とか仕事が決まったらちゃんと教えるのよ」


「わかってる」


「それとなにかあったら戻ってきなさい!分かったわね?」


「ああ、分かったよ。 それとシスター…」


「どうしたの??」


「いや、母さん。あんたはもう俺の母親だ。本当に世話になった、ありがとう」


「ッ!!……リアムッ!!」


そう言うと母さんが飛びついてきた。やっぱり母さんの腕の中は安心する。

(母親の腕の中で温かさを感じたリアムは覚悟が決まったような顔をした。)


「それじゃあ行くよ」


「ええ、くれぐれも体には気をつけて!」


母さんとのやり取りを終えると扉を開ける。

外に出ると体を包み込むような暖かい風が吹き、太陽の光は旅に出るリアムを祝福しているように感じられた。

後ろを振り返ると笑顔で見送る母さんと子供達がいた。

安心したリアムは一歩ずつ足を進める。門をくぐり抜けようとした時…



「待ってリアム!!」



声が聞こえ、後ろを振り向くとローズがこちらへ向かって走ってきていた。


「ローズ…」


「ねぇ、リアム。私も一年後、剣術をしっかり身につけてリアムの後を追うから!」


するとローズは少し恥じらいを見せ…


「だから待っててね!!」


そう言い終えると艶やかな紅い唇がそっとリアムの唇と重なり合う。

なにが起きたか思考するリアムはキスをした事に気がつくと、頬を赤らめる。


「元気でね…大好きだよ」


「ありがとう…行ってくる」


ローズとの会話の後、リアムは門をくぐり抜けた。

お互いの距離が離れ小さくなっていく二人。声も届かないだろう距離になっただろうか



「…バカ……」



そんな事を呟き、ローズの告白に気づけなかったリアムは…



「…やわらかかったな……」



キスの余韻に浸りながら王都へ向かって歩いていった。

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