第44話 公爵の迷走
「あやつの件はどうなった?」
公爵は書類作業をしながら部下に尋ねる。
「は!秘密裏の護衛と王都のヘルム子爵への根回しも済んでおります!」
部下の報告に少し表情を弛める。
「そうか…」
公爵の立場では銀狼族に粗相を働いた娘を表立って買い戻すのは憚られたため一旦王都へと移った所を自分の派閥の人間に買い戻させそのまま人里離れた場所に匿おうとしていた。
(アニタ…もう少しの辛抱だぞ…)
「領主様!!大変です!!!」
部下が慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「なんだ!どうした!?ドラゴンが出たのか!?」
町の精鋭で探索した結果もう危険無しと報告したばかりだぞ!?
「いえ!ドラゴンではありませんが…アニタ様が!」
「な!?」
ドラゴンのではない事に一瞬安堵するも娘の名前が出たことでまた冷静さを失う。
「どうした!?アニタがどうしたんだ!」
「それが…この町を出る直前にハンターに買われました…」
領主の剣幕に怯えながらも答える部下。
「な、なんだと…」
他の町より大きいとはいえ奴隷購入に800万マーニを払えるものなどこの町に居ないと踏んでいた為町中では監査しと護衛しか用意をしていなかったがそれが仇となってしまったようだ。
「まさか!
買った方がハンターという事で最近報酬に1,000万マーニ払ったハンター銀狼族のユウトを思い浮かべる。…まあ正解なのだが。
「いえ…それが女性のようです…」
「女性…か…」
銀狼族でも男でも無いという事に少し安堵する。銀狼族なら不評を買っているのでそのまま八つ裂きにされていたかも知れないし、男なら言わずもがな…
「アイツにそんな友人が居たのか?」
そもそもぽんと一括で800万出せる女ハンターに心当たりは無い。
「それが…アニタ様の女性からの評判は…その…最悪の為…友人では無いと思われます…」
「なんだと?では何故?」
まさか…何かの仕返しのつもりで使い潰す気か?
「…理由はわかりません…ですが待遇は悪くは無いようです。」
…ますますわからん…
「密偵の話では買った家の管理をさせると言っているそうです。」
「…家の管理か…まあそれなら問題無いか…」
ハンターの荷物持ちとしてつれ回されたりするのではとも危惧したがそれでも無いらしい。
「してその者の名は?」
「リリスという黒級ハンターだそうです。」
「…黒級だと!?」
黒級が800万を払った?どこかの貴族の隠し子か?
「…素性を洗え…監視を続けろ。」
「御意」
「報告します。」
「うむ」
「この町に来たのは約一月前で犯罪歴はありません。ハンター登録はここでしたようです。」
なるほど…この町で登録したからランクが低いのか。
「前回報告した時点で銅級昇格の権利を得ていたようで昨日付けで銅級へと昇格しています。」
「…まて…一月で銅級だと?」
流石に早すぎではないか?
「それが…受けた依頼が全てゴブリン討伐で…討伐数が300を超えています。」
「………は?」
一月にゴブリン300匹?何を言っているんだ?
「単独でか?」
「いえ、女性二人とパーティーを組んでいるようです」
「そうか…3人で300なら…」
「…3人合わせると800を超えますが…?」
「…続けてくれ…」
化け物かと思う反面800ものゴブリンが近くに生息していた事にも驚く。
…あとで見回りの数を増やしておいた方が良さそうだな。
「一部の目撃情報によりゴブリンと犬?を従魔にしているようです。」
従魔持ち…なるほどそれが討伐数の理由か…
「武器は杖ですが試験の時は杖の他に盾を使用していまして…」
杖に盾か…よほどの力持ちか
領主の頭には金属の杖を振り回しながら盾を構えるガチムチの女性が浮かぶ。
「それが…魔術師らしいのです」
「…ほう!?珍しいのう…」
イメージがガチムチの女性が消え少し年を取った女性に 変わる。
「実際に見たものの話だとまだ少女だというのにニキー殿の槍を弾き飛ばし圧倒的な魔術で一方的に倒したそうです。」
「少女だと!?」
ニキーを弾き飛ばしたという事よりも少女だったという事に驚く。
「は、はい…恐らくアニタ様よりも年下かと…」
「何者なのだ其奴は…」
「ニキー殿が直接本人に聞いた所…『深淵の魔王』と名乗ったそうです。」
「ま、魔王!!?」
ちょっとした中二発言が更なる迷走を呼んでいた。
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