第19話 鈍感×本気
今日は競技大会を迎えていた。元々そこまで乗り気でない俺に対してクラスの人々はワックスやジェルで髪を整えたり、女子は編み込みなんかをしている。
文化祭じゃあるまいしワックスいる?
「絶対にボコボコにする……。」
あそこにいるのは捕獲レベルが測定不能の集団だ。
どう見ても今からバレーをするような顔ではない、何人も殺ってきた目だろアレ。
「アンタ最初から本気出しなさいよね。」
「俺は出ないから安心しろ。それ故に今日はシューズも持ってきてない。」
乗り気でない人間がいたところでクラスの足手まといになるのは目に見えている。
俺は今日は応援やらパシリやらに専念して補欠要因として頑張らせていただく。
「ちょ!呆れたわ……そのくせして無駄に身体能力は高いから羨ましい限りよ。」
「失礼な奴だな、これは普段の鍛錬の成果だ。」
遊びで得た筋肉だ。俺は部活とか熱血スポ根に興味はないが遊びには常に全力を尽くしてきた人間だ。小3の頃の増え鬼クラス全員捕まるまではかなり面白かった。まるで自分以外がゾンビになった世界に迷い込んだようだった。
「とりあえずお前らは頑張れよ。」
「言われなくても全力は出すわよ。」
*
見事としか言いようがなかった。10年以上のブランクがあるとはいってもトスの位置も完璧でスパイクの打点の高さも完璧だった。
強いて言うなら昔は自分たちの高さにネットを合わせた居たのもあって、ブロックがお粗末な点だった。
しかしこいつら……それ以上に点をたたき出せばいい理論なので相手にサーブが回らないなんてこともあった。
男の方はいたって普通、ありがたいことにウチのクラスは弱くもなく、2回戦までは順調に勝てていた。3回戦になるとやはり未経験とバレー部の差が激しくなりつつあった、バレー部の参加はクラス1つにつき原則1人のはずだが1人いるといないとでは差が大きい。
「アンタが出ないとあの試合、負けるわよ?」
「ポッと出のやつがいきなりスパイク6連続とかで決めたら勝てても喜べないだろ。」
「じゃあ、流れを変えてきなさいよ。」
「1回出たやつがすぐに交代できるわけないだろ。」
有栖はこちらを見ると妖艶の顔の笑みを浮かべていた。
*
「これをマジでやるのか……」
審判の座っている台の足元で俺は軽く準備運動を済ませていた。
1撃で流れを変えたのち、すぐに撤退することが出来る作戦が一つだけある、と言われ聞かされた作戦の内容はあまりにもひどく、俺の学生生活の崩壊を招こうとするものであった。
まじでこれで友達いなくなったら
満面の笑みでこちらを応援するその姿はまさに鬼だ、これから起こることを知っていてなのでなおさらひどい。
「チェンジ!」
俺はチェンジをする生徒と手でタッチを交わしたのちコートへと入る。
サーバーは敵チーム、とりあえず無回転とかは取りづらいからマジでやめてくれよ……来た!
選手が高く跳ね上がると同時に打ち出されたボールは低弾道の弧を描き一直線に俺の目の前へと飛んできた。
試合にまだ体が慣れてないのを狙われたか?しかし……
「甘いわ!」
膝をうまいことつかい、レシーブで思い切り高く跳ね上げる。
ボールはいい具合にコートの前方、ネット付近で垂直に落下を始める。
「トスで上げて!」
俺が声を上げるとクラスの元経験者の生徒が頷き、きれいなトスを上げる。
なんだ、上手じゃん。こりゃ俺居なくても勝てるな。
助走をつけ、ネットギリギリで右足で踏み切る。
そのままスパイクをボールが60°方向へ飛ぶように――――
全力で!
叩きつけながら俺は有栖の作戦通りの言葉を叫ぶ。
「死ねええええぇぇぇぇぇ!!!」
*
確かに確実に流れを戻せてかつ一回で抜け出せるな、糞な作戦ではあるが。
俺はすぐさま相手チームへの暴言として退場を命じられた。しかし、叩きつけたスパイクは点数として数えられそのままの流れでクラスは勝つことが出来た。
その後の準決勝でクラスは敗北し結果3位入賞ということになった。
「アンタが出ればよかったのにね、クラスの人たちカンカンに怒ってたわよ?『なんで暴言なんか吐いたんだ』って。後これは私からの奢りよ、悪かったわね士気を上げるためとはいえ。」
「別に……ただ久しぶりに3分だけバレーがやりたくなったからあの作戦に乗っただけだ。最終的な決断は俺が決めたことだ。」
俺と有栖は屋上でコーヒーを飲みながら夕焼けを見ていた。
競技大会なんてもので友達が減るならそれでいい、俺にとってはどうでもいいことなのだから。
もしかしたらこの記憶さえも自分の本当の記憶かすら定まっていないのだから。
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