第17話 ?????

 イリーナが職員室へ向かってから30分ほど経過した。5月に入ろうとし、新緑の匂いと共にまだ少しの寒さが鼻をくすぐる。夕暮れの西日が窓から差し込み、その暖かさが寒さを中和していた。


「聞いてきました!」

「結果は?」

「部員を集めてこいと言われました!」


 だろうな。


「他に何か言われなかったか?」

「もし作るとしたら、顧問は英語の工藤先生が担当してくれるそうです!」


 なんやて工藤!?工藤先生は……少しとっつきづらいんだよなぁ。

 別に俺は教師たちと仲良くやろうなんてことは微塵も思っていない、しかし日常生活や授業において関わらざるを得ないのもまた事実である、だから普段からは必要程度には話す程度の関係でいたいのだ。

 その中でも工藤くどう寧音ねね先生はかなり苦手だ。若めの先生ではあるがクールというか冷たいというか……あの視線に心をえぐられそうになる。


「まぁ、うん……わかった。とりあえず今日は帰るか。」

「ハイ!」


 *


「たでーまーっつっても誰もいねえか。」

「随分と今日は遅かったね。」


 聞き覚えのある声、しかし今の時刻にはあまりにも珍しい声であった。

 いつもは後3時間は帰ってこないはずだが。

 ならばあの事が今なら聞けるか?

 考え込む様子を見て母がキョトンとした顔を見せる。


「どしたの?」

「マイマザー丁度いいところに、少し待ってて。」


 急いで会談を駆け上がり自分の部屋へと飛び込む。ガサガサとそこら一帯を散らかしながら俺は物置にあった写真を取り出す。

 これだ…!


「あのさ、これ…誰か知ってる?」

「んー?これつばさちゃんでしょ。」


 翼?誰だ……聞き覚えがないぞ…。俺は幼少期の記憶がしっかりとあるはずだ。うん、幼馴染あいつらと遊んだという記憶もしっかり残っている。


「俺そんな子と写真撮ったのか?」

「だってアンタ、昔の記憶あべこべになってるじゃない。」


 ――――――え?

 俺の記憶が……混ざっている?

 理解が追い付かない。俺は幼稚園から小学生にかけて彼女たちと遊んだという記憶までしっかり残っている。一人一人と遊んだ時の記憶もしっかりと、だ。とは言っても真面目な顔つきの母は冗談を言うような人であっても嘘はつかない。


「記憶が混ざってるってどういうこと?」

「昔、裏山から滑り落ちて記憶が抜け落ちたりあべこべになってるの。大変だったんだからね?山から落ちたって聞いた時は心臓止まるかと思ったんだから。」


それも初耳だぞおい。


「ど、どうしてすぐに言ってくれなかったんだよ!」

「言ったよ、けどアンタ泣きながら『僕の記憶は間違ってない!』なんて言って暴れたじゃない。だから、大人になったら言おうと思ってたけど自分から昔の話題に触れるなんて意外ね。」


 うっわぁ……恥っずかしい……小学生ながら尊大な自尊心を持ってたのかよ、こんなの気づいたら虎になるぞ昔の俺。

 しかし、記憶が混ざっているということは彼女たちと遊んだという記憶までもが混ざっている可能性がある、ならば明日確かめてみるほかない。


「で、翼って子はどんな子だったんだ?」

「アンタのいとこよ、とは言っても養子なんだけどね。」


母が視線を下に落とす。

その目は何やら哀愁に満ちた目をしていた。

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