第14話 トランプ

「休日はいいものだ。実に素晴らしい、朝起きなくて済む上に自分の時間が当然のようにあるのだ。うむ、素晴らしい……」


眼前に広がるは女子たち、いつも通りのように俺の家にやってきてはリビングで寝転がる。なんでこの子たち休日なのに人の家でごろごろするの?この家に来る方が労力使うよ?俺に気づくとソファーに座りながら智里が話しかけてくる。


「お、起きたんだ。昼から出かけるから。」

「別にお前らの昼以降の予定など微塵も興味ないぞ。」

「いやアンタもだよ。」


アレ?おかしくない?俺の休日どこ行ったの?積み上げてたゲームやアニメ消化しなきゃいけないのに。俺の休日は君たちの手にゆだねられてるの?


「ちなみに私たちの奢りだよ。」

「ぜひ行かせていただきます!」


周りの女子たちの視線が痛い。一部はゴミを見るかのような眼差し、まだそっちの方がましだ。柊やイリーナは俺を憐れむかのような眼差しを投げかけてくるので自分がより一層みじめになるわ。

働かないで遊ぶの超楽しい。小学生がyoutuber目指すのも納得だ。

俺も目指そうかな。ブンブンハローユーチューブ、どうもクズキンです。

うん、絶対売れない。


「で、どこいくの?」

「スポーツ複合施設。」

「やっぱり家にいる。」


まだ春とはいえ寒さの残る季節だ。わざわざ長袖を着て運動をしに行きたくない。運動するのはマリオ&ソニックだけで充分だ。


「えーじゃあ何処だったらいいのよ?」

「家」

「燃やす?」


おい返答おかしいだろ。家がなくなれば俺が外にでも出ると思ってるのか有栖こいつ。重要危険人物だ、犯罪係数500は下らない。


「わかった、ならトランプをやろう。負けたら今日は付き合おう。」


そういうと女子たちはいっせいに集まり何やら会議を始めた。

勝った時のメリットを既に出されてる条件とするのがコツな、もし気づかれたら負けたら外に行くというデメリットに奢りという+αまで付けられかねない諸刃の剣だ。

代表者として智里が口を開く。


「いいよ、ゲームは何にするの?」

「素直にババ抜きでどうだ?俺が最下位になったら負け、それ以外は引き分け、1位だったら勝ちだ。」

「引き分けの場合は?」

「遊びの話は今度に持ち越しで今日は出かけない。」

「まぁ……それなら……わかったわよ。」


トランプなんていつぶりだろうか。別に友達がいなかったからトランプが久しぶりというわけではない。いやマジマジ、本当だって。

しかし、負けるわけにはいかない。できることなら顔に出やすい花梨か有栖にババが回ってくれると助かるのだが。

全員にカードが配られすでにそろっているペアを捨て終えるとゲームがスタートした。


「じゃあ俺から時計回りでいいか?」

「りょーかい。」


仕方なく他のカードに手をかけると露骨にニヤニヤしだす。うん、これババだね。

他のカードを取ろうと有栖のカードに手をかけた瞬間謎の悪寒が走る。

これ本当にババ抜きだよな?賭博目録じゃないよな?

傍から見ればババ抜きなのだろうが緊張感が異常。その理由はすぐにわかった。俺が有栖のカードに手をかけるとこちらをキッと睨みつけ殺意丸出しだ。


「いや怖えよ……。」


下手くそかコイツ。あまりにも有栖の怖さに怖気づいてしまい、俺は仕方なくババを引く。

何周かしたのち、花梨が俺のババを引き抜く。ポーカーフェイスとはこういうものだ、せめてまともな勝負位させてほしい。

その後も何周かするとまず智里が上がった。


「これでアンタの家にいる権利はなくなったわけだけど。」

「引き分けに持ち込めば良いからな。」


その後も淡々と勝負は進行されイリーナ、柊が順に上がった。


「これでアタシも上がり!」


有栖が残りの一枚を引き抜き、ゲームから外れる。

やべえ……簡単に上がれるものだと思ってたけど有栖に気おされたのが間違いだった……。ババが手札に加わるたび凍てつく波動撃つのやめてくれる?


「考えても仕方ねえな、これで。」


俺は花梨の2枚のうち適当に引き抜くとペアがそろった。


「やった……やったぞ!これで今日の話は無しな!」


ンフフフフフ……あまりの嬉しさに王騎将軍のような笑い方が出てしまった。

家にいるということの素晴らしさを改めてかみしめることが出来た……はずだった。問題はそこからであった。


「うわああぁぁぁぁん!」


まさかのロリっ娘大号泣である。

彼女高校生だよ?しかし、見た目からかあまりにも罪悪感が出る。

なかなか泣き止まない彼女を見ながらガッツポーズなどできるはずもなく。

高校生たちが子供をあやすかのように集まる、負けたのが悔しかったらしく泣き始めてしまったようだ。

中身も小学生じゃねえか。


「仕方ない……午後出かけるか。」

「え!ホンマか!?よっしゃ!」


もうコイツの涙は信じねえ。

写真に収めた花梨の泣き顔を見ながらそう思っていた俺であった。

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