第13話 モブ男×鈍感
俺に娘が出来た。
年齢は10歳、見た目は可愛らしい。何故か分からないが関西弁を話すようになった。頭はそこら辺の高校生には負けず劣らずの秀才っぷり、強いて言うなら今反抗期でちょっとだけ手厳しいってところくらいかな。
「誰がいつアンタの娘になったんや?」
「ならば肉親でもないやつが起きて最初に視界に入るのはおかしい。」
とは言っても有栖やイリーナに起こされるより数倍マシだ。花梨は見た目通り体重もかなり軽く起こし方も丁寧。朝からボディプレスや寝てる人間にグーパンくらわすのはマジでやめろ。
「さてと、下に行くか。」
いつも通りの朝である。強いて言うなら今日からは授業が普通に始まり昼食が必要となる。前まではいつも購買で済ませていたが智里が作るようになってからは任せっきりである。
朝ごはんを食べ終え、準備ができると智里が用意していた弁当を渡してくれた。
「ほい、今日の弁当。」
「ん、サンキュー。」
どこかから視線を感じる、それも複数方向から。後ろを振り返ると智里以外の全員がこちらを見ていた。
「な……なんだそんな驚いた顔して……。」
居心地が悪く思っていたことが口に出てしまった。
何やら3人はコソコソと内緒話をしたのちこちらへ向き直ると一つ、ぎこちなく有栖が口を開き始める。
「い……いや、アンタたち随分仲がよさそうね。」
「熟年夫婦みたいやで君ら。」
全く持って心外である。確かに智里の作るご飯はうまい、そして家事全般も出来て美人である。その上に性格は怒らせなければ穏やかかつ元気にあふれている。
ん?もしかしてこいつ欠点ないんじゃね?
「やだなぁ、別にそんなんじゃないよ。ただ昔からやってるから今でもやってあげてるだけ。」
智里は適当にあしらうとそのまま皿洗いを始めた。基本的に皿洗いの担当は俺のはずなのだが今日はどうも違うらしい。
俺はそのまま一言も交わさずに部屋へと戻っていった。
*
「ば……バレてないよね?」
やっばい……
いい年してからかわれただけでここまで赤面するとは……。今度から気をつけなくちゃ。
「ふぅん?そうなんだぁ……てっきり興味ないのかと思ってたわよ。」
「え!?あ!」
有栖がこちらの顔を覗き込むように見てくる。
今までどうにか隠してきたけどどうやら私の事は既に筒抜けのようだ。
こんな朝っぱらからあいつとどう顔を合わせればいいのよ……。
「ま、別にあいつ気づいててもいつも通り接触してくれるから大丈夫よ、多分まだバレてないけど。」
「だといいけど……。」
*
授業はあまりにも順調であった。新しい教師や生徒達とも俺はある程度打ち解けられたはず……と思いたい。とは言っても俺のことを勘違いし妬むんでるやつも多い。妬むも何も俺別にあいつらの彼氏じゃないしな……。
「わかっていると思うがそろそろ競技大会の時期だ、3年生に上がると受験勉強で練習してる時間はほとんどないから本気で勝ちに行けるのはこの年だけですよ!」
優香先生が張り切るのも無理はない。この学校には体育祭というものがない代わりに基本的に競技大会というものが前期と後期に分かれて存在している。
前期の競技大会ではバレーとソフトボールを行い、後期はサッカーとバスケットボールだったかな?
「お前今年はどうするんだ?」
後ろから声が聞こえたので振り返ると久しく見る顔があった。
「お前か、久しぶりすぎて誰かと思ったぞモブ男。」
「いつも会ってるだろ!」
「で?今年はどうするって何が?」
「競技大会だよ、競技大会!」
「あぁ、そんなことか…。」
俺は別に運動が出来るわけではない、何なら昔から勉強というよりは運動ばかりしてきた人間だ。小学校のころから放課後は鬼ごっこやドッジボールなど様々なことをした。だって鬼ごっこ捕まえられないとゲーム終了しないから、まさに地獄のデスゲームである。
「んー、ソフトボールかな……。」
「でもお前バレー上手だったじゃねえか。」
「今はそうでもないぞ、大体ソフトボールのほうが人数多いから責任が分散するしな。」
「ろくでもねえ理由だな。」
昔、バレーでよく遊んでいた。それも
だってあいつら全力でスパイク撃ってくるし俺がはじき返さないと駄々こねるし……。
それに、せいぜい拾えるのは初心者のスパイクまでで、バレー部のスパイクともなれば話は別である。
「ってか休んだら怒られるかな……。」
「サボったらチクるわ。」
「このチクり魔が……。」
俺は自分のやりたい種目を紙に書くと、回収していたボックスの中へと投入した。
はぁ……運動…したくねえなぁ……。
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