第11話 ロリ×男×ロシア

「あまり大人をからかっちゃダメだぞ?花梨ちゃん?」


きっとこの子は俺のことをからかっているのだろう。

昔は俺もそうだったなぁ、小学生の頃は中学生が大人に、中学生の頃は高校生が大人に見えてたっけ。いざ自分が成ってみると大したことないってことに気づくんだけどな。


「小学生ちゃうっちゅーねん!そういえばアンタ、どこかで見たことある顔やな……。」


見たことある顔?うーん……確かに俺もこの子と何処かで会ったことがあるような……でも関西弁を話してた人なんていたか?

最近はないな……もっと昔……わからん。

かといって知らない男が小学生に苗字を聞くのは犯罪だしな……。


「アンタ、名前は?」

「佐藤颯太、高校2年だ。」


眉がピクリと動き何やら合点が行ったようだ。

わからん、俺の名前だけでピンとくるやつが…………


「居るな、しかも同名で。」

「久しぶりやな、颯太!」


なるほど、やっと理解した。こいつは赤羽あかばね花梨かりん、俺の幼馴染の一人だ。とは言っても昔は同年代の中で最も身長が高く、運動が一番できた。

しかし今は面影もなく、そこら辺にいる小学生と何ら変わらない背丈であった。


「お前……マジか。黒ずくめの組織に追われて……」

「ちゃうわ阿保!花梨は小学生のころから身長が全く持って伸びなくなってもーたんや。」


なんだ、心配して損した。


「色々と情報が多すぎる。大体その喋り方どうしたんだ?」

「これは……その、関西に引っ越してからこの喋り方になって、本当は学校に行くとき治そうと思ってるんやけど……。」

「学校……そういえば柊が言ってたな…花梨も同じ学校だとか。」


『私は花梨ちゃんとこの街に来たけど』

確かにこの花梨ちゃんならはぐれてもおかしくないな。今日もきっと迷子になったのだろう。


「アンタ今、花梨が迷子とか勝手に思ったやろ?これでもアンタより2ヶ月誕生日早いんやからな!」


いや同学年なの変わらんから別にええやろ。

つい似非関西弁が出てしまう。これ本場の関西の人の前でやったらグーパンものだな。


「まーええわ、丁度いいから家までおぶってってや。」

「えー面倒臭い。」


そういうと彼女はポケットをおもむろに漁りだした。

ん?なんだ?チップでもくれるのか?


「この紋所が目に入らぬか!」

「そ……それは…!」


伝家の宝刀『防犯ブザー』である。これを慣らせばたちまち近所の音などもが近寄ってきて逃げようものなら打ち首獄門に処されるという女子小学生の近代における最終兵器である。

チップなどではない、地獄への切符である。


「思いっきり小学生じゃねえか。」


ピピピピピピピピピピピピ!


辺り一帯に防犯ブザーの音が鳴り響くのであった。





「ハァ……ハァ……マジで……お前頭沸いてるんじゃねえのか……?」

「人の事を小学生呼ばわりする罰や。」


およそ1㎞程、彼女を背負ったまま俺は全速力で走った。

あの場にいたままであったらきっとそこで俺の人生は終了していたであろう。

背負って1㎞とは意外にも簡単なものではなく、特に両手が使えないので効率よく走ることが出来ずにバランスが崩れるのだ。


「どうにか……逃げたけど…ここは中心街か。」


なりふり構わず走っていたため何処にいるのかもわからなかったが、どうやら町の中心まで来てしまったようだ。

それに伴って、彼女は俺の背中から降りると手を握ってきた。


「兄妹って設定にしときな、そうじゃないと颯太の人生終わりやで。」


確かにこの場で女子小学生と二人はまずい、何よりも俺に兄妹がいないことを知っている幼馴染あいつらにバレるのが一番ヤバイ。一生目を見て話してくれなくなる。


「とりあえず、走って滅茶苦茶暑いからアイス買ってきていいか?」

「花梨はチョコミントなー。」

「たかる気満々じゃねえか。」


とりあえずアイスを買ってフードコートにいる花梨を探していたところ何やら聞き覚えのある声が聞こえた。


「迷子かな?私が一緒に探してあげる!」

「迷子ちゃうねん、お兄ちゃん待っとるんや。」


うーん、どこかで聞いたロシアンガールの声である。


「あ、来た!お兄ちゃん!」


俺の方へ走ってくる花梨。そしてお兄ちゃんがどんな人かを見ようとするイリーナ。

逃げ場のない状況で背中に冷や汗が流れる俺。

花梨は足に抱き着きながら俺にアイスを要求してくる。


「ソ、ソウタ?」


終わった……。

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