第9話 宮野柊の場合
「君、今なんて……!」
彼女の顔つきが見るからに変わっていた、何か驚きつつも懐かしさを漂わせる風貌、それはまるで幼き日を思い起こすようであった。
「もしかして……花梨……なのか?」
恐る恐る聞いてみる、きっと違うのだろう。彼女の性格と今目の前にいる女性の性格はまるで合わないのである。しかし、彼女に懐かしさを覚えた俺からは自然と出ていた。
「私は………人違いです……。」
「あ、あはは……なんかすみません。」
めちゃくちゃ恥ずかしい。
なんてこと聞いてんだ俺、初対面なのに。妙な懐かしさを覚えることなんてよくあるだろ、他人の空似である。
何度もそう言い聞かせようとしたときに、驚くべき発現が目の前の少女から発せられた。
「でも、久しぶり……颯ちゃん……。」
―――昔、同級生の癖に俺をやたら年下に見る人物がいた。名は『
俺の自慢話を嬉しそうに聞き、凄い凄いとほめながら頭を撫でる。
その人物の体格は小柄で、華奢で、手を握ったら簡単に折れてしまうんではないかと思うほどであった。
しかし、いつしかその女の子も成長をし、気づけば身長もかなり伸びていたそう。
「うっそだろ……柊……身長伸びすぎじゃね…?」
「颯ちゃんこそ伸びすぎだよ、私、今だったら颯ちゃんの身長と同じくらいだと思ってたのに……いつの間にこんなに伸びて…。」
「や……やめろよ恥ずかしいな………。」
その今でも細い腕を伸ばし彼女は俺の頭を撫でる、久しぶりのせいもあるが、何よりも高校生にもなって店で撫でられるのは恥ずかしすぎて俺はすぐに彼女の腕を止めた。
うっわ顔見られたくねぇ……今すぐ冷水に顔をつけたい。
昔からお姉ちゃんのようではあったけど本当に同い年かよ……。
「柊はどうしてこの街に来たんだ?」
「私もこの街で暮らすことになったよ!」
「…………も?」
「他の人がこの街に来ること知ってたのか?」
「え?私は花梨ちゃんとこの街に来たけど、もう既に花梨ちゃんと会ってるんじゃないの?」
「いや、初耳だが……。」
「え!じゃあ私花梨ちゃんに怒られちゃう!今のこと忘れて!私たち会わなかったことにしよう!」
「いやそれは無理があるだろう。」
たまにこの子は抜けているところがあるのだ。昔からだが料理も作ることが出来ればおいしかった、そう、彼女は完成させたことが少ないのだ。
何故なら作ってる最中で食材をばらまいたりする、いわゆるドジなのである。
「天然なのは治ってないんだな。」
俺は思わず吹き出してしまい笑みがこぼれる。
彼女に出会ってから後いうもの驚きばかりであったがゆえに、昔のことなど当に忘れてしまっていた。しかし彼女は相も変わらないようで少し安心をした。
「もー、私だって成長してるんだよ?ほら!三脚を使えばこんな高いところにある本だって……きゃあ!」
「さ、三脚を使った時点で意味ねえだろ……っていうか重い……。」
やっぱり成長してねえじゃねえか……昔から危なっかしいことをよくやる人間ではあったがここまでとは……。
倒れてきた柊をそのまま受け止め俺は下敷きになる形で倒れこむ。
「あ、ありがとう……っていうか重いって言った!」
やべ、バレた。
いや別にね、重いということを悲観する必要はないと思います、その俺の体に密着している一部の物が重い原因であった場合大喜びでしょ?
うむ、きっと四宮有栖ちゃんもきっと大喜びだと思う。
その瞬間寒気がしたので俺はこれ以上考えるのはやめ体を起こした。
「重くない重くない、ほら俺が持ち上げられるんだから重くない!……きっと。」
「すぐそうやって曖昧にする!何かおごって!」
「はぁ……わかったよ。」
「じゃあアレとコレとソレと……」
「ちょ!待て待て待て!俺の財布がぁぁぁぁ」
どうやら俺の追い出された一日は何気ない休日に色を付けてくれそうです。
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