第7話 四宮有栖の場合

「じゃあ……有栖さんはイリーナさんの隣でよろしいでしょうか?」

「えっ!?」


少しひきつったような顔をした後、有栖は渋々了承した。

何やらイリーナとの確執があったのだろうか。

俺は友達のすべてを知っているほど全知全能ではないので予測することしかできないが、彼女がイリーナを苦手とする理由は推測しがたいものであった。


「お久しぶりですね、有栖。」

「そうね、イリーナ。」


お互いは顔を合わせることもなく、前を向き静かにあいさつを交わした。

そんな声聞こえたのは彼女の周りの席にいる者達であった。

触らぬ神に祟りなしっと……。



**************



俺は今どうしてここにいるのだろうか。

ある程度考えてみたがいまいち理解が出来ない。

彼女は間違いなく昔とは違う、それなのにやっていることは昔と変わらなかった。


HRが終わった後、彼女は俺の机の真ん前に来た。


「なんだ?トイレの場所でも知りたいのか?」

「ちっがうわよ!こっち来なさい!」

「ちょ!待っ!痛たたたたた!」


彼女は教室のドアを思いきりあけ、俺の耳を引っ張りながら連れ出した。

そして階段を上り続け気がつけば屋上の前の扉に立っていた。


「なんだよ!うおぉぉぉぉ耳が外れるぅぅぅ!」


俺は彼女に思いっきりつままれた耳をやさしく手でなでながらちぎれてないかを確認する。

昔から男勝りの力を持っていた彼女ではあるがこれほどとは……ゴリラかよ

「なんか言ったかしら?」

「オラウータンって一日10㎏ごと握力が上昇するらしいゴフッ!」


話の最中で割り込んできたものは右手による鉄拳制裁であった。

あまりの速さに避けている暇などはなくモロに胃に突き刺さる。

あーこんなボクシングの技あったな……ソーラープレキサスブローだっけかな……。


「悪かったって!で、要件は何なんだ?」

「あんたに昔渡した箱のこと覚えてる?」

「あぁ、今でも取ってあるぞ。」


言った瞬間に彼女の顔はどんどん紅潮していく。


「おいおい大丈夫か?病み上がりで学校来たんじゃねえだろうな。」


俺は彼女の額に手を当てて熱があるか確認しようとしたところ更に彼女の体温は上昇した。

シャレにならねえぞ……これ40℃近くあるんじゃね?

そして次の瞬間———————。



「お、おい!」


彼女は倒れた。



************



「——————はっ!」


彼女が目を覚ますとおもいきり上体を持ち上げた。何やら焦った様子で俺のほうに質問をしてくる。


「私、いつから寝てた?」

「ほぼ丸1日、倒れたのが朝のホームルーム後に対して現在の時刻が18:00、そろそろ最終下校時刻ってところだな。」

「あんた、なんで帰らなかったの?」

「暇だったから。」

「ふーん、暇つぶしね……ありがとう。」


これが素の彼女であった。変な所は意地っ張り、そして変な所で素直。ひねくれ者の優しいご令嬢こそが四宮有栖という人物だ。

朝の学校で見た彼女ももしかしたら四宮有栖の本性の一つなのかもしれない。

しかし、俺はそこも含めて四宮有栖を理解しなければならないのである。


「さてと、有栖も起きたし帰るか……。」

「ちょ、ちょっと待って!」

「なんだ?」



「一緒に…………一緒に帰ってあげてもいいわよ!」



春はまだ日が落ちるのが早い。この時間でもほとんど日は落ち、街灯がついていた。

夜桜が保健室の少し開けた窓から舞込んでくるのが見えた。


「はいはい、一緒に帰りましょうか――――――――――お嬢。」


彼女がほほ笑む姿は闇夜を照らした。

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