第6話 ツン×鈍感
帰ってきて、夜ご飯を食べ終えたころ合いだっただろうか。唐突に自宅のインターホンが鳴った。
こんな時間に誰だろうか?
「はいはーい、今開けまーす。」
自宅のドアを開けると目の前に白衣を着た男性と、先ほどのリムジンに乗っていた執事がいた。目が合った瞬間俺は一つ疑問が出た。
どうしてこの人たちここにいるんだろうか?
「お久しぶりです、颯太様。」
「どこかであったことあったか?」
「私、四宮有栖の執事『マックロイ』でございます。」
「黒爺!?なんでお前ここにいるんだ!?」
マックロイ、四宮有栖に仕えている専属の執事だ。基本的に彼女の世話は黒爺が全て担当している。黒爺とみんなは呼んでいたが由来は昔、俺たちがカタカナが読めなくてマックロイというのを聞いて「真っ黒い」と連想したのが由来だ。
「明日の朝、私がここにいる理由が理解できると思います。それよりも本日のお怪我について伺おうと致しまして。」
「あー……こんなところになんでリムジンが走っていたのか不思議に思っていたけど四宮家のだったか。」
四宮家と言えば昔からの財閥だ。
戦後、経営が悪化したらしいが特需景気、高度経済成長などによって爆発的な回復を見せたのが『四宮善三』そして四宮有栖はそこのご令嬢だ。
「————ん?ということは有栖も帰ってきてるのか?」
「はい、それに皆様続々とこちらへ帰られております。」
「もはや訳が分からん……大体、始業式の日に俺たちのところへ来ればよかったんじゃないのか?」
「それには深い事情がありまして……。」
何やら渋い顔をする黒爺、彼はかなり口が堅く俺も昔は相談に乗ってもらった。
仕方ないので黒爺から聞き出すことは諦めた。
その後俺たちの体調を伺うために医師を派遣したそうだが俺たちはこれといったケガをしていないので、ひとしきり診てもらった後鎮痛剤だけを受け取った。
「みんなが帰ってきてる理由がわからん……。」
腕組をしたまま考え込む俺であった。
**********
「今日はこのクラスに転校生が来ています。」
先生の一言で始まった。
いつものように翔梧が興奮をしながら女子か男子か、などといったことを聞いたりしていた。
俺は気になることがあったので先生に質問をしてみた。
「先生、質問なんですけどどうしてこのクラスに転校生が二人も来るんですか?」
一度この学校にはイリーナという転校生がやってきている、にもかかわらず新たな転校生もこのクラスの一員であるということだ。
人数調整のため、などであったらクラス分けの段階で彼女たちが来ることが決まっており、わざとこのFクラスの人数を減らしていた、ということになる。
「んー、私も上の考えることはよくわからないんですよ。」
不思議そうな表情をしながら先生も腕組をして考える。
ん?ということは上が決めたということか?
嫌な冷や汗が流れ落ちる、もしかしてこれは誰かが決定づけたことなのではないか?と考えた時一人の女の子の母親が思い浮かんだ。
「まぁこれから一緒のクラスメイトになるんだから仲良くね。入ってきていいよー。」
先生の一言で入ってきた女子生徒、ショートヘアーにブロンズの美しい髪の毛をなびかせ、悠然と闊歩をする。その姿はカンヌ国際映画祭のレッドカーペットの上を歩いているようであった。
「皆さん初めまして、四宮有栖です。よろしくお願いします。」
「うっそだろ……えぇ?………」
彼女の立ち振る舞いは俺の想像していた四宮有栖とは全くと言っていいほど違っていた。
彼女は怒りっぽく、俺が何かをしようとするたび難癖をつけるが結局参加する、という傲慢で優しい女の子であった。しかし今の姿はどうだろう、まるでセレブのような立ち振る舞いに礼儀作法、俺の知っている彼女ではなかった。
「何か聞きたいことはありますか?」
先生の一言でやはり男子達は破竹の勢いで彼女に質問を投げかけた。
前まで住んでいた地域や前の学校、なぜここにやってきたのかということであった。
俺は別にこれと言ってきくこともないので空を眺めていると一人の男子生徒、もとい省吾が彼女に質問をした。
「今彼氏はいますか!?」
――――流れる静寂
地雷を踏んだのかと思い、彼はどうにか取り繕うとするが彼女は徐々に赤くなっていき、うつむくと一言つぶやいた。
「い……いません……。」
「あ、ありがとうございました。」
驚きながらも翔梧は徐々に腰を下ろしていった。
その瞬間であった、男子達の期待は大きく増幅をした。
女子たちは「またか」というようにあきれた様子で男子達を見ていた。
一つ思い出したことがあった、そういえば昔、俺にだけ当たり強かったな……。
空を見上げながらうなだれる俺であった。
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